火傷の後
椿は薄紫色のフリルのついたワンピースを手に取り姿見の前に立つ。
「なかなか似合ってるじゃない。ごきげんようプリンセス」
椿はワンピースを合わせお辞儀をする。そしてバレリーナのようにステップを踏み始める。
「椿さん?」
部屋の入り口にお咲がいた。
「お咲ちゃん?!」
椿は慌ててワンピースを掛け直す。
「何やってるんですか?!」
「何って、お咲ちゃんだって自分の持ち場戻りなさいよ。」
「私はもう自分の仕事が終わってたまたま部屋の前を通りかかっただけです。さあ早いとこ終わらせましょう。」
お咲はばけつにかかってる雑巾を濯ぎ絞ると窓の冊子を拭き始める。
椿も雑巾を持って拭き始める。
「お咲ちゃん、さっきの」
「構いませんよ。黙ってますよ。」
「ありがとう。でもどうして?」
「だって椿さんは」
お咲は椿の右腕に目をやる。
お咲と椿がお客様の夕食を下げに部屋に行ったときのこと。
「きゃあ」
お咲が誤ってお客様のドレスに湯飲みに残っていたお茶をこぼしてしまった。
「申し訳ございません。」
お咲はとっさに傍にあった布巾でドレスをふく。
お咲のとっさの行動で染みは残らなかったがお客様は相当ご立腹。二度と泊まりに来ないと言って旅館を後にした。
その後お咲は女将にこっぴどく叱られた。
「あの方は大事な常連様だったんだよ!!どうしてくれるんだ!!」
お咲は頬をぶたれる。
その時調理場ではやかんでお湯を沸かしていた。女将はやかんを手に持ちお咲に熱湯を浴びせようとする。
「やめて下さい!!」
椿がお咲の目の前に現れる。片手で顔を庇ったので大事にはならなかった。しかし右腕に火傷を負ってしまった。
「ごめんなさい。椿さんは何も悪くないのに。」
お咲は頭を下げる。
「お咲ちゃんのせいじゃないわ。それに私だってあの場にいたし。」
しかし椿は笑ってそう返すだけだった。
「でも椿さんはいつも私を庇ってくれるじゃないですか。」
こないだお咲が担当した客室から財布が盗まれた。女将も宿泊客も皆お咲が犯人だと決めつけたが椿は一緒に食事に行ってたことを話してお咲の無罪を証明しようとしてくれた。女将は聞く耳持たなかったったが。
「お前達まだ終わってないのか?!」
そこに女将が通りかかる。
「すみません今終わったので片付けます。」
お咲は謝罪すると掃除道具をまとめ始める。
「掃除1つにどれだけかかってるんだい?!そんなんじゃ嫁のもらい手が見つからないよ。」
女将は嫌味を言って去ろうとする。
「ちょっと待って下さい!!」
急に椿が立ち上がる。
「何だい?椿。」
「女将さん、間違ってます。掃除なんかできなくてもお嫁には行けますわ。だって使用人がいて掃除してくれる家の殿方に嫁げば宜しいのですもの。例えば公爵様や宮家の方、西洋の王子様とか。」




