入学式
長編は初めてなので、ちょっとおかしいことがあるかもです。世界観はふんわりしているので、深く考えないようにしてください...
それでは、楽しんでください。
時空が歪んでから久しいこの時代。
沢山のものが異世界から時空の歪みを通じて落ちてくる。
だけど、それだけじゃない。
たくさんの世界から、たくさんのクリーチャーも落ちてくるようになってしまった。
そこで時空を超えたものを学園で保護し、育成することにした。
決まったのは、多大な犠牲を払った後。
生き残っている国から全ての学問と子供たちを守るため、賢者たちが立ち上がった。
学園都市にはこの世界で時空の歪み、発生位置から一番近いが為に唯一滅んだ国・炎華の国土が使われた。
炎華の王家で生き残った第三皇子蓮が学園都市創設に関わっているからできたことと言える。
学園都市には、歪みで家族を失ったもの達と貴族、異世界人もいる。歪みから出てくるクリーチャーを倒しつつ、その歪みとクリーチャーの研究独占を行った。
時空の歪みが発生してから7年。
...炎華の国が滅んでから5年が経った。
6年前に両親とほどんどの兄弟姉妹を失った私は、学園都市で高等教育を受けられる16歳になる。
私を生かしてくれた兄のためにも私は教育を受ける。
そして、兄の役に立つのだ。
ーーー
学園はとても騒がしい。
沢山の言葉、匂い、カラフルな色に溢れているのだから。
「九玖黎、入学式絶対に来いよ!」
一緒の孤児院で育った刻明が私に声をかける。
私はぷいと顔を背けて早足で歩く。
今日は入学式の後、クラス発表があるのだ。
「おい、ククリ!」
少し引き離した距離を慌てて走ってくるコクメイに私は視線を向ける。
「いや。私は見世物じゃないのにジロジロ見てくる奴らがいなくならない限りな。」
入学式には参加しない。
兄に迷惑をかけてしまう。
何故か兄も入学式に参加しなくてもいいと言ってくれた。
正直、嫌な予感がするのだ。
「おまえな...」
「兄さんも構わないって言ったしな。きっと不愉快な奴らが来るんだよ。」
私の言葉にコクメイも黙った。
「そんじゃあ、行くわ。」
話すためについ止まっていた足を動かし、コクメイを置いていく私。
「ああ、気を付けろよ。」
気落ちしたような声が後ろから聞こえた。
私はかつかつとヒールを鳴らしながら、入学式がある大講堂から離れる。真反対にある歪みの森を目指しているのだ。
あそこなら、クリーチャーを狩れる。
兄には心配されているが、私がクリーチャーを狩る理由を知っているので咎めたりはしない。
それに、私は強い。
兄よりもずっと。
歪みの森に着くと森が震える。
歪みからクリーチャーが出て来ている印だ。
私は走って森に入る。
急がなければ...
歪みの間は広場になっている。
半径100mの開けた空間は戦闘のためにある。
運が悪いと、仲間死体がそのまあったりする。
幸運にも今日は誰も死んでいないみたい。
血の匂いすらしていなかった。
しかし、気持ちの悪い生き物がいた。
小さな身体にミイラのような干からびた姿。
今まで見たどの生き物よりも生き物らしくない生理的嫌悪を呼び起こされる存在だった。
「咲け、炎の花。」
くるくると五つの炎を私の周りを浮かせる。
いつでも攻撃できるように構え、待っていた。
記録によると、攻撃を反射できるクリーチャーや攻撃されなければ攻撃をしないクリーチャーもいるらしい。
余計な怪我も争いも私は好きじゃない。
「あなたは、どうしてここにきたの?」
ふと、意思疎通できるのかが気になった。
当たり前のように何も言わず、ただじっとたっていたクリーチャーが歩き出した。少し歩くと、上空に灰色の光の柱ができた。地面まで届くと、クリーチャーはゆっくりと柱に沿って上り始めた。何も無い空間を歩く様は現実とは思えない程節がな光景だった。そもそも、歩いていることがおかしい。
私はそのクリーチャーが消えてなくなるまで呆然と空を見つめていた。
「すみません、少しいいですか?」
不思議な光景をみて呆然としていた私はその声の持ち主に全く気づかなかった。
「...異世界人か?」
声の持ち主を見て、私は驚いた。
魔力が多い。
私より少し少ないくらいだが、平均よりはずっと高い。
「そうです。ここに気味の悪い子供のミイラみたいなものを見ませんでしたか?」
彼は言いよどむことなくその存在を説明する。
「見た。空に帰って行った...あれはなんだ?」
私はさっきの光景を思い出しながら遠くを見る。
「わかりません。ただ、味方には見えませんでした。でも、空に帰ったなら良かった。」
私の問いに首を振りながら答えてくれた。
「取り敢えず、来てくれ。学園内を案内しよう。」
そう言って彼の手を引く。
「ありがとうございます。えっと...」
彼は戸惑うことなく、礼を述べる。
変わった奴だ。
「ククリ。あんたは?」
私は名前を告げる。
実はあんまりない体験だったりする。
周りにいるヤツらは私の名前を既に知っている状態でいることの方が多い。
「私は、シア。よろしくお願いします。」
少しの間があり、彼は答えた。
「随分、可愛い名前だな。」
後ろを振り返り、にやりと笑うと、彼は苦笑いを浮かべた。
「...本命ではないです。色んな世界を旅すると、名前を呼ばれることで相手を縛る術というものが存在します。私は一回その術にかかり、家族に迷惑をかけたことがあるのです。」
悔しそうな顔をしていた。
きっと家族が大事なんだ。
かつての私がそうだったように。
「そんな術もあるのか、知らなかった。」
私は前を向き、答えを返した。
彼を見ていると昔の自分を思い出す。
多分、彼の家族とは大きく違うけれど。
「あの世界は変わってましたから。」
「それにしても、あんたは色んな世界を旅してるって言ったよな。他はどんな所に行ったんだ?」
私は気になっていた質問をした。
多くの世界を知っている彼の話を聞きたくなったのだ。
「そうですね、前に居た世界では妖精と呼ばれる存在がいました。人間と呼ばれる種族はいなくて、自然がとても美しいところでした。」
少し想像する。
思い浮かべたのは私が離隔されていた塔から見えた森の景色が限界だった。
「へー。あ、着いた。」
うっかり通り過ぎそうになり、後ろに少し歩みを戻した。
そう言えば、彼の手を引いていたことを思い出したが、身体がぶつかることはなかった。
学園長室。
その扉の前に私とシアは立ち止まったのだ。
私はなんの気負いなく扉を開ける。
「だから言っているだろう!ククリとの婚約を認めろ!」
青い髪の男性が大きな声で桃色の髪の男性に詰め寄っていた。
「何度も言うが、それは無理だ。彼女こそ、この国の女帝と言える。なのに、何故貴様の国に与えねばならんのか理解しかねるな。」
幸いにも青い髪の男性はまだ私に気づいていない。
隣で驚いていた彼も事情を察したらしい。
私は気づかれないうちにドアを閉めようとしたが、シアがそれを押しとどめる。兄を見ると何故か兄もにやりと笑った。
「失礼、蒼騎殿。どうやら緊急事態みたいらしい。どうかしたのかね?」
兄が私たちに話しかけたが、私は状況に着いていけず頭にはてなを浮かべている状態だった。
「すみません、実は異世界人が迷い込んだようです。彼女なのですが、混乱しているようで私の質問に答えてくれなのです。」
にこっと私に笑いかけながら彼はそういった。
「蒼騎殿。今日はお帰りください。急な仕事がはいりました。」
蒼騎と呼ばれた青い男がきっとこちらを睨む。
さりげなくシアが私を背中に隠した。
そんな事しなくてもいいのに。
こちらに歩いてくる足音がしたので、好奇心に負けて顔を覗かせた。
「覚えてろよ。」
通りすがりにぽつりと呟いた男の顔は非常に醜くて、視線を逸らしてシアを見る。
シアは困ったように私を見ていた。
男がドアを閉めると兄が笑いだした。
「見たかあの顔...傑作だな!」
しばらく笑っているであろう兄を放置し、ソファーにシアを勧める。
「なんであいつは私の事に気付かなかったんだ?」
シアに聞くとくすりと上品に笑って、鏡を渡してくれた。
そこには黒い髪に金の瞳の私が居た。
青い瞳を細めて懐かしむようにシアが笑った。
「魔法か...?」
不思議で自分の髪を撫でた。
黒も金も私の色のようによく似合っていた。
しかし、やはり落ち着かない。
「赤じゃないと、落ち着かない。」
ぽつりそうつぶやくと、兄が意外そうに私を見た。
シアが微笑むと、鏡の中の私はいつもの赤い髪と赤い瞳に戻っていた。
「無暗唱か。すごいな。」
兄がほうと感心していた。
先程も何も唱えていなかったのでそうだとは思っていたけど、彼にはなんの紋章も刻まれていない。
きっとシアの世界では必要なかったのかなとも思った。
「大したことではないです。あなただって、ククリだってできるでしょう?」
その一言にまた兄が笑った。
「残念ながら、ククリは、だ。俺はできないんでね。」
不思議そうにシアが兄を見る。
「あなたくらいの実力ならできるかと。すみません。」
視線を下げてシアが軽く謝る。
兄は、手をひらひらさせて気にしていないと応えた。
「ククリ、ちょっとこいつの登録しているから、隣の部屋で待機しててくれ。すぐ終わるから。」
兄はすっかりシアの事を気に入ったみたいで、珍しく二人にきりで話をしたいみたい。
私は頷いて、隣兄専用の休憩室のドアを開ける。
「暇だから早めに終わらせてねー。」
私も気張る必要がないので何時もの口調に戻る。
兄もさっきから口調が戻ってたし。
「おうよ。すぐ終わるって。」
にかっと楽しそうに笑った兄に私はため息をついた。
そして、休憩室に入り、ドアを閉める。
ーーー
「話を合わせてくれてありがとう。口調は楽にしていい。」
そう言って黒髪に金の目をした学園長がぱちんと指を鳴らす。
すると、周りに結界がはられたのをシアは感じた。
「...わかりました。それで、なんの用ですか。」
先程の柔らかい雰囲気はなく鋭く冷たい表情で、声でシアは答える。
「ほう、中々だな。すっかり優男だと思ったよ。」
にやにやと笑いながら学園長は話しかけた。
シアはふうと息を吐く。
「色んな世界を旅しているので、優しくされたらすぐに恩を返すと決めています。ククリには、少し迷惑をかけましたから。」
表情の読めない顔でシアがそう言うと、学園長が顔をしがめる。
「おいおい、ククリに何したんだ。」
さっきまでの飄々とした雰囲気がさっぱりと消えた。
その変化に目を細めてシアが笑う。
「いいえ、何も。ただ、塵を踏む者を目撃していました。それは、私の落ち度だ。」
淡々と答えていたシアだったが、最後の言葉はすまなさそうな響きを持っていた。学園長は顔を顰めた。
「見ただけ?よくわからんが、お前がなにかしてはいないみたいだな。ならよし。言葉もいい感じに崩れてきたし、自己紹介といこうか。俺は、蓮・炎華。妹はククリ・炎華。滅びた国の皇子と皇女で、今は学園都市の最高権力者ってとこだ。お前は?」
ぶっちゃけた言い方ににやりとシアが笑う。
「僕は、シュアクレエア。家族は俺をシアと呼ぶ。世界を旅し、色んなものを作るための材料を探している。ついでに、技術を学んだりもする。今回は、学園があるところを絞って時空を渡った。出来ればここで学びたい。」
そう言って真っ直ぐ蓮を見据えた。
「はーん。なるほどなー。いいぜ。大歓迎だ!これは面白くなりそうだな!」
にかっと笑った。
シアはふっとい気を抜いてから笑った。
「ありがとう、蓮...と呼んでもよかったか?」
にこやかに笑ってシアが聞くと、蓮は頷いた。
「俺が名乗ったのはその為だ。気にすんな。シア。」
「これからよろしくお願いします、学園長?」
にやりと悪い顔をしてシアが挨拶すると、連もにやりと笑った。
「有意義な三年になりそうだな、シア君。」
こちらも悪い顔で、だ。
どうやら二人は気が合うようだ。
ーーー
兄とシアが学園長室で話をしている間暇で仕方ない私は、炎で遊んでいた。浮かせて、増やして、周りを燃やさないように範囲を指定しながら。
しばらく遊んでいると、学園長室へ通じるドアが開いた。
兄がドアを開けて、じっとこっちを見ていた。
「何?話終わったの?」
私が振り返って兄を見たら、たいそう満足そうな兄のドヤ顔が目に入った。
腹が立つ顔にイラッとした私は、炎の一つを投げつけた。
「ククリ、危ないだろ。」
兄は目の前で止まったそれを見て、にこやかに言った。
絶対止めるって知ってた顔でさらに腹が立った。
「悪かったって。ほら、ククリにも話があるから、シアも待ってるぞ。」
炎を消して、私は兄に続いて学園長室に入った。
変わらずにこやかに私に笑いかけるシアに私も微笑んだ。
シアに向き合うように私はソファーに座り、兄は学園長のふかふかの椅子に座った。
「シアは学園に入学することになったんだが、二人に言っておきたいことがある。ククリはこの国の後継者だ。そんなククリを手に入れ、この学園都市を支配しよういう輩が多すぎてな。俺一人じゃ手が回らん。そこでだ。シアにククリの護衛を頼みたい。俺はこの学園都市から出られない。もちろん、ククリを学園都市の外に連れ去ることなど許しはしない。が、もしもの時に動ける人が欲しい。シアなら強いし、性格的にも問題がなかった。どうだ?」
私は、兄が私がこの国の後継者と言ったところで軽く睨んだ。
しかし、兄の真剣に私を心配しているといった顔に視線をそらす。話が終わるとシアは微笑みをたたえたまま頷いた。
「...私に護衛はいらないって言ったじゃん。」
私の不満げな口調に兄はとても悲しい顔をしていた。
私が、視線を外すと、明るい声で兄が言う。
「じゃぁ、友達兼護衛で。」
少しおどけるような明るい声に、気を遣わせてしまったと落ち込むと同時にすごく嬉しかった。
私の事を気に掛けてくれる兄に。
「屁理屈ばっか。」
呆れたように私が言うと、兄はにかっと笑った。
「ククリ、私はこの依頼、受けたいです。ククリにはこれから迷惑をかけると思うので、恩返しがしたいんです。」
意外なところから兄への援護射撃が来た。
驚いてシアを見ると、伺うような目がある。
これ以上は、抵抗出来ない。私は仕方なく頷いた。
「...はぁ、わかった。私はそんな事気にしないけどいいよ。最近、面倒だとは思ってたから。」
一人でいるとやたら帰属風の男とかに絡まれるなと感じていた。
この一言で兄の雰囲気が変わる。
「...誰だ?兄さんに言ってみろ。」
処分してやるという副声音が聞こえてきそう。
私はしまったと思って慌てて答えた。
「病院送りにしたから大丈夫。それより、シアの部屋はどこにする?兄さんと私の前の部屋とか?」
兄の怒りが少し収まったが、話は変えておく。この話は地雷だ。
「そうするか。あ、俺が案内するからお前はクラス行っとけ。」
兄は仕方なさそうに話を変えてくれた。まぁ、シアが居るからだろうけど。
「AAクラスだよね。」
それ以外のクラスなはずはないけど一応聞いておく。
「そうそう。後でシアも連れていくからなー。」
シアってそんなに強いのだろうか?
兄は疑ってないみたいけど...
面倒なことにならなうといいんだけど。
「わかった。後でね。」
兄がそう判断したなら、多分そうなのだろうと気にせず、私は学園長室を出た。
うーん。
友達は、普通に嬉しいかな。
内心ルンルン気分なまま私はポーカーフェイスを苦労して維持した。
ーーー
「それじゃー、そこの部屋だ。」
崩した口調のまま連は学園長室の右斜め横を指した。
「学園長室の右は俺の部屋。その隣が、ククリの部屋。んで、学園室の真ん前が応待室。その右隣がお前の部屋。空き部屋だが、今日中にベッドと机くらいは運んどくから、安心していいぞ。」
蓮はそう言って笑った。
「わかった。それにしても、二人共護衛を付けないのか?偉い人だろう?」
シアが聞くと、蓮は苦笑いした。
「ククリより強いやつはいないし、俺は学園都市そのものだと言っていい。俺を殺せば、学園都市は止まり、歪みを抑える枷がなくなるからめったに狙われないしな。まぁ、護衛を連れて歩くのに二人とも慣れてないってのが一番大きな理由だとは思うけど。」
蓮は窓の外に見える小さな塔を見ながらそう言った。
釣られてシアも窓の外を見る。森の向こう側に小さく見える塔は蔦におおわれているのだろう。灰色に緑が混じっていた。
「あれはな、ククリが幼少期を過ごした場所だ。」
淡々と感情を押さえ込んだ声。しかし、鋭く塔を睨む目には蓮の怒りが滲み出ていた。
シアは静かにそれを見ていた。
「ククリは自由だ。誰にもそれを奪わせるわけには行かない。」
その言葉はまるで蓮自身に言い聞かせているようだった。
「心配してしまうのは、仕方ない。」
そう言ってシアは窓辺に近寄り、塔のある方向を見ながらそういった。
「俺には、姉と妹がいる。どちらも俺なんかよりずっと強いんだ。俺は二人に勝てない。何時も迷惑かけてばかり。それでも、俺は、二人が心配だ。何かあった時には力になりたいと助けてあげたいと思ってしまう。俺の助けなんか、いらないって知っていても俺はそう思う。」
優しい顔で優しい笑みをこぼしながら、シアは遠くを、ずっと遠くを見ていた。その横顔は慈愛に充ちていて、悲しみに満ちていた。蓮はシアがとても年老いた老人のように感じた。
自分が出来ないことを受け入れている。彼からは嫉妬や羨望などの感情を感じ取ることができなかったからだ。あるのはただ、助けてあげられない悲しみと、深い愛情だけだった。
「シアは、いや、なんでもない。教室に案内する。その後に、実力を披露することになると思うが、頑張れ!」
非常に楽しそうな蓮の声にシアは苦笑した。
「弱いふりか手加減ってした方がいいか?」
呆れたようにそう言うと蓮は笑った。
「いいや、ククリよりも強い事を証明して欲しいな。」
「それは、いいのか?」
「良くないが、シアの全力ってのを見てみたくはある。」
「俺はそんなに強くないんだが...。」
「それは、お前の周りにいる人よりはだろ?俺よりも強いんだし、自信持てよ。」
ーーー
授業を受けていると、外から兄とシアの声が聞こえた。
「授業中に誰だよ。先生、ちょっと注意してくるわ。」
そう言って担任のアレックス先生がだるそうにドアを開けると、丁度兄とシアがいた。
「あ、学園長。なにか御用ですか?」
緊張したような担任の声に教室内の空気がざわつく。
「アレックス先生、こちらはシア君。今日この世界に落ちてきた異世界人です。学園で学びたいとの事でしたので、連れてきました。こちらのクラスで面倒を見てください。」
柔らかい物言いなのに、相手に否定することを許さない強さが言葉の中にも口調にも態度にも現れている。
何時もの兄を知っている私としては、可笑しくって仕方ない。
「あの、実力テストはなさいましたか?」
恐る恐るアレックス先生が聞くと兄はにこりと微笑んだ。
「いいえ。しかし、私よりも強いのにAA以外のクラスに入れることはできませんから。」
その言葉を聞いたアレックス先生もクラスの皆も唖然としていた。兄は歪みを抑える天才魔術師だ。もちろん戦闘でも負けることなんて滅多にない。そんな伝説の人物が連れてきた青年、どう見ても兄よりも年下の相手を自分よりも強いと言ったのだ。
クラスがざわめかないはずがない。
「...はい、わかりました。ただ、実力テストは実施します。」
がっくりと肩を落としてアレックス先生はシアを教室に招き入れる。その後に、兄が着いてきたことに驚いていたが、兄がドアの真横でにこにこしながらクラスを見学することを悟ったアレックス先生は今にも死にそうな程顔が青かった。
確か、アレックス先生は兄と同世代なはず。
兄は何をしたんだ...?
「取り敢えず、シア君、自己紹介をしてくれ。」
そう言ってシアを黒板の前に立たせた。
「シアです。よろしくお願いします。」
礼儀正しくお辞儀したシア。しかし、微笑んだりしていなかったので、少し冷たいって感じがした。
アレックス先生は少しほっとしたみたい。
変な子じゃなくてよかったって思ってそうだな。
「シア君にはククリの護衛を頼んでいます。席はククリの横か後ろにしてください。」
アレックス先生が空いている席にシアを座らせようと気付いた兄からの指示でまたクラスがざわつく。兄は内心爆笑だろうな。
ここに居る奴らの中には私の護衛をしたいと申し出ていたやつもいる。純粋に兄に恩返しがしたい者もいたが、大半は私に取り入ろうとしていたから全部断っていたのだ。
「トウキ。変わってくれるか。」
その中でも、トウキは熱心に私に取り入ろうとした貴族の中の一人だ。後ろを確認しなくても、素晴らしい怒りの熱量を感じる。
私たちの悪い癖だが、我慢できなくなった私はシアに声をかけた。
「シア、さっきぶり。どうした?早く席に着いとけ。」
馴れ馴れしく出来たかどうかはわからんが、周りの驚いたような反応を見るに仲良さそうに見えたよう。大成功だ!
シアが困ったように微笑み、兄はとってもいい笑顔。
多分、私もだけど。
シアは仕方なさそうにトウキの席まで行き、声をかけた。
「すみません、トウキさん。席を移動してもらえますか?」
少し微笑んでいるシアを親の仇のように睨むトウキ。
「...決闘しろ。勝てたら、代わってやる。」
まだ声変わりの途中なのだろう。
がらがらと低い声は迫力があった。
「わかりました。それで納得して貰えるなら。」
意外にあっさりと承諾され、私は不安になった。
「学園長から、こうなるかもしれないと聞いていたので...。」
困った微笑みのままシアは答えてくれた。
うーん。トウキはそこそこ強いから心配かも。
このクラスで私の次に強いんだよねー。
「それでは、実力テストとして二人の戦闘を評価するというのはどうでしょう?」
兄がいい事を思いついたみたいなノリで言っていたが、最初からこのつもりだったと思ってしまう。
少しジト目で兄を見ると、兄は本当にいい笑顔で笑った。
多分、私を安心させたいんだと思う。
「...わかりました。お前ら、中庭に移動するぞ。」
アレックス先生の一言でクラスはしゃべり声に満ちる。
「命があるといいな。」
トウキはすくっと立ち上がり、こういうとさっさと行ってしまった。
「殺しはしません。腕一本です。」
その後ろにシアが物騒な返事を返した。
トウキも私も驚いたようにシアをみた。
シアは微笑んでいた。
ーーー
ちなみに、蓮は時空の歪みを抑えているのでシアより弱いです。どちらにせよ、蓮はシアと相性が悪いので勝てないですが、負けることもないです。
ククリは戦闘特化なのでシアより強いですが、実戦経験と手数で長期戦になり負ける可能性が結構あります。
次回、作者はかっこいい戦闘シーンを書くことができるか!?反語が続く!
頑張ります...!