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真相

「それではこれでHR(ホームルーム)の時間を終わります、礼。」


 僕がそう言うと、クラス内の全員が静かに礼をする。そうして彼らが顔を上げ終わると、辺りは様々な人の会話や足音によってすぐに喧騒に包まれる。

 教室に残って話をする人も居れば、教室から出て行く人も居て、皆が自由に行動する。放課後のあるべき姿と言えるだろう。そんな中、副委員長の渡辺さんが僕の所へやってくる。


「佐藤君!これからちょっと時間ある?」


 そう言って僕に距離を詰めて、元気よく話しかけてくる渡辺さん。

 その距離は顔が僕の目の前に迫るくらいに近く、思わずドキッとしてしまう。正直とても心臓に悪い。


「いや、この後先生に呼ばれてるんだ。」

「あ、そうなんだ。じゃあ帰ってくるまで待ってて良い?」

「う……」


 笑顔で僕を待ってくれようとする渡辺さん。そんな彼女に対して僕は考える。

 決して渡辺さんの誘いが魅力的なものでないとは思っていない。ただ、この後僕が先生に呼び出される理由に問題がある。


(R18のBL小説を持って来ていたからこの後特別指導室で指導を受けるんだ、なんて口が裂けても言えないしなぁ……)


 おまけに、その『指導』が一体どれくらい長くなるのかが不明だ。もしかしたら凄く長い時間、拘束されるてしまうかもしれない。そうなると渡辺さんを長時間待たせることになってしまい、彼女も良い気はしないだろう。


「ごめん、結構時間がかかりそうな用件なんだ。ちょっと今日は厳しいかも。」

「あ……そう、なんだ。」


 そう言ってしゅん、と落ち込む様子を見せる渡辺さん。そんなに大事な用件だったのだろうか、目の前に居る彼女からは普段の明るさが微塵も感じ取られなくなっていた。

 少し、というよりもかなり気の毒になって、僕は慌ててフォローを入れる。


「あ、明日じゃ駄目かな?明日と言わなくても、渡辺さんの都合が良い日に埋め合わせするからさ。」


 僕がそう言うと彼女は、ぱぁっと明るい笑顔を浮かべて小指を出してくる。


「じゃあ明日の放課後ね!指切りげんまんだよ!」


 そう言って渡辺さんは自身の小指と僕の小指をくっつける。

 そして「じゃあ、また明日ね。約束だよ!」と言うと、そのまま走って教室から出て行く。その足取りは妙に軽く感じられた。

 明日一体何をするのかは結局聞くことができなかったが、ともかく忘れないようにせねば。


 それはそうとして、渡辺さんが僕に用事があったように、僕もある男に用事があったことを思い出す。

 僕は鞄に荷物をまとめて、隣の教室へと向かう。もうHRは終わっているみたいなので、遠慮せずに中に入る。そして目当ての男、帆模田玲央に向けて一直線に向かっていった。


 玲央はこちらを見ると、「おぉ、晋平」と言って話し始める。


「すまん、今日の放課後ちょっと用事が入ってしまってさ。」

「……それはどういう理由?」


 そう放った言葉は、僕自身でも驚くほどに冷たいものだった。

 僕の並々ならぬ様子を悟ってか、玲央は口籠もりながら話し始める。


「い、いやぁ実はこの前お前に見つかった本、まだ読み終わってなくてさ。だから学校に持ってきてたんだけど、抜き打ち検査で先生に見つかってさ。特別指導室に行かないといけないんだよね。」


 どうやらこのクラスでは先生が検査を行っていたらしい。僕たちに任せっきりだったウチの担任も是非見習って頂きたい。

 僕がそのようなことを考えながら玲央を睨み続けていると、目の前の男は必死になって弁解し始める。


「お、俺もまさかこんなことになるとは思って無かったんだ!先生以外の奴にはバレていないし、大丈夫なはずだ。次からはもう持ってこないから、そんな冷たい目をしないでくれぇ!」


 おや?おやおやおやおや。どうやら僕が冷たい目を向けている理由を玲央は勘違いしているご様子。

 あの時から全く懲りずにBL本を持ってきていたことに対して、僕が怒っているとでも思っているのだろう。


「別に玲央がどんな本を持ってこようがそれは本人の自由だし?それがバレて指導を喰らっても僕は別に構わない。」

「そ、そうなのか?まぁとりあえずそういうことで、今日の部活動見学は1人で行ってくれ。どれだけの時間を拘束されるかが分からんし。」

「いやぁ?その心配はいらないよ。だって僕も呼び出されたんだもん。」

「え?晋平も?一体何を持ってきたんだお前。」


 そう言って不思議そうな顔をする玲央に対して、僕は鞄の中から昼休みの時に彼から借りた本を取り出す。


「これは俺が貸した本か。これがどうしたって言うんだ?」

「これが検査で引っかかった。」

「えっ。官能小説ならまだしも、普通の推理小説も駄目なのか?」


 そう言って驚く玲央に対して、僕は周囲の人に見えないようにブックカバーを少しだけ外して、中身を見せる。


「玲央にとってはこれが普通の推理小説なの?」

「ちょっと待ってほしい」


 玲央は僕の問いかけに即答すると慌てて鞄を開き、その中に入っている二冊の本を取り出す。両方ともブックカバーが掛けられており、そのカバーは僕が玲央から貰った本を併せて三つとも同じ柄であった。

 玲央はその二つの本のページをめくって、内容を確認する。


「やべぇ、渡す方間違えちまった。」

「おい?」


 反射的に出した言葉には、僕の怒気が強くこもっていた。こんな声出したのは人生で初めてかもしれない。

 それを受けて、玲央は顔面蒼白になりながら、まるでサウナ室にでもいるかのように汗を流し始める。


「晋平サン」

「なんだい玲央?」

「その、もしかして怒ってます?」

「そうだと言ったら?」


 玲央はその言葉を聞くと即座に椅子の上で土下座を組んだ。


「すいませんでした……特別指導の時に先生には俺から弁解をしておきます。」

「はぁ……よろしくね。」


 僕としては、自分が同性愛者であるということさえ否定してくれればそれで良い。

 玲央もわざとじゃなかったし、今度ジュースを奢って貰うくらいで許してやるとしよう。


「じゃあ一緒に特別指導室に行こう。」

「あぁ。確か西棟の2階だよな?」


 謝罪タイムを終えた玲央は土下座を崩すと、ため口を取り戻して僕に語りかける。


「そうだね。岡田先生からも言われたよ。じゃあ行こう。……はぁ」


 今から怒られに行くのだ、自然とテンションは下がる。

 それは玲央も同じようで、彼もため息をつきながら荷物をまとめていた。


「大体抜き打ち検査なんて卑怯だよな。」

「確かに趣味は悪いと思うけど、そもそも見つかったらまずい物を学校に持ってきている時点でおかしいからね?大体渡す本にしたって間違えないように中身確認するでしょ普通。」

「うっ」


 痛いところを突かれて何も言い返せない、という様子を見せる玲央。


「まぁ、流石に召集されるのは僕たち2人だけだと思うよ。先生に口止めをしてもらって、次からは気をつけますと言えば誰にも玲央が同性愛者であるということはバレないでしょ。」

「まぁ、バレたらバレたらで俺は堂々と晋平を狙える訳だから良いんだけどさ」

「何も良くないよ本当に。」


 そんなことを話しながら、僕たちは特別指導室へと向かう。


 僕たちの向かうその部屋にはすでに4人の生徒が入っているということを、僕たちは知る由も無かった。

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