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アーシャンテンダ~The World Of ERSHUNTENDA~  作者:
アーシャンテンダ大陸
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使節団

シュレーは、リーディスと共に、使節団を編成するのに没頭していた。行きたいという人は多いものの、適任は少ない。一流の外交官だと自他共に認める、サルーという男はすぐに決まった。若い頃から周辺の部族やライアディータに属する小さな州…元は国であったものであるが…のいざこざなどを、一手に引き受けて収めて来た実績の持ち主で、元々は軍人なので、自分の身も自分で守れる。ただ、最近では60歳を過ぎたので、体力的に若い頃ほど戦えるかというと、そうではなかった。なので、その護衛はシュレーがかって出た。しかし、軍人は刺激しないために連れて行かないのが原則なので、他に兵士を連れて行くわけにはいかない。軍人は、どうしてもその雰囲気と体格から相手に気取られてしまう。だが、いくらシュレーでもそんなに多くの民間人を、たった一人で守りきるのは無理だった。なので、サルーのように自分で戦える外交に明るい人間を探そうとするのだが、それがなかなか、居なかったのだ。

「…困ったことです。」シュレーは、目の前に積まれたリストを見て言った。「外交官で戦える者などサルー以外に一人も居ない。だからといって、山のように希望が来ている学者となると、更に絶望的です。戦いどころか、向こうまで行く体力があるのかも疑問だ。」

リーディスは、眉を寄せて息を付いた。

「リシマも、あちらで頭を悩ませているようだ。いっそのこと、あちら三人、こちら三人の合計六人で送り込もうかという話にもなっておるのだ。10人と思うておったが、そうなると何かあった時皆無事に戻れる確立が下がる。向こうも、主のような軍人を一人混ぜて他二人でと言うておるからな。」

リシマとは、山を挟んだ隣国の王だ。シュレーは、リーディスを見て顔をしかめた。

「しかし陛下、そうなるとこちらは、私とサルー大使、ショーンということになりますが。」

リーディスは、頷いた。

「良いではないか。ショーンは術士の中でも最も力が強いと言われておる。何かあっても、己で何とかしよるだろう。」

シュレーは、それでも険しい顔を崩さなかった。

「ショーンは、己の目的が見えたら、そちらへ勝手に向かう可能性があります。少数の中に、ショーンが混ざるのは不安です。」

リーディスは、じっとシュレーを見ていたが、口を開いた。

「…そうよな。だがしかし、あれはここへ戻らねばならぬ。あれが執着しておるリリアという女の体は、あの小さなリリアナという少女なのだろうが。こちらにあの少女が居る限り、勝手なことは出来ぬ。案ずるでない。こちらに協力すると申すなら、我はあれに協力しよう。だが、違えるのなら、二度とこちらの地は踏ませぬ。」

シュレーは、まだ迷っているようだったが、頷いた。

「わかりました。では、陛下のおっしゃるように。」

リーディスは、頷いた。

「では、リシマにもそう伝えよう。」と、リーディスは、背伸びをした。「長くこんなことばかりをしておって、疲れたわ。リシマと日程を決めたら、また連絡する。主もしばし休め。我も休む。」

シュレーは、立ち上がって頭を下げた。

「は。では陛下、ご連絡をお待ちしております。」

疲れているだろうに、きっちりと自分に頭を下げるシュレーに、リーディスは苦笑しながら軽く返礼した。シュレーは、そんなリーディスの様子に気付かずに、さっとそこを出て行った。

リーディスは、それを見送ってから急に表情を険しくすると、立ち上がって大きな窓から遠く見える、海の方角を見つめた。恐らく、これは険しい道になる。全く分からない地…あちらが、どういった国々で構成されているのかも分からない。地形も、どういった統治をされているのかも分からない。どんな王が居て、人々がどんな暮らしをしているのかも…。

リーディスは、聞いている太古の昔に、初めてリーマサンデとの交流が始まった時のことを思った。歴史書が語っている、お互いに疑心暗鬼で、最初の使節が何人も犠牲になった事実。自分は、それと同じことをしようとしているのかもしれない。サルーもシュレーもショーンも、もしかしたら戻っては来れないのかもしれないのだ。

それでも、しなければならないことに、リーディスは苦悩していた。


食堂では、咲希が居心地悪く食事を終えたところだった。

ラーキスは気にしていないようだったが、克樹やアトラス、リリアナの視線が気になった。ショーンが先に来ていて、食事をしていたのだが、咲希は話をすることもなかった。ルルーは、今はぐったりとリリアナに元のただのヌイグルミのように抱かれているだけで、さっきの饒舌な様は欠片もない。どうやら、ショーンが居るからのようだった。リリアナもルルーも、分かっているのだ。

咲希が、とにかくは食事も終えたし、部屋に戻ろうか、と立ち上がろうとすると、ショーンが言った。

「あれ、サキ?お前、ラーキスと一緒に戻らねぇのか。」

さっきの話をやっぱり知ってるんだ、と咲希はショーンを見た。

「どうして?あの、お茶でも飲んで来ようかなって思って。」

ショーンは、ラーキスを見た。

「なんだラーキス、お前断ったのかよ。」

すると、それにはリリアナが答えた。

「そんなはずはないわ。」リリアナは、フォークを置きながら言った。「しっかり受け止めていたもの。」

咲希があれは違うと口を開こうとすると、ラーキスが言った。

「オレは断ってなどない。咲希をダッカへ連れて帰ると約した。そうすると、いつなり共に行動せねばならぬのか?」

ショーンは、それを聞いて顔をしかめた。

「いや、別にそんなことはねぇけどよ、ドライ過ぎやしねぇか?まあ、お前らのことに口出しするつもりはねぇよ。好きにしな。」

ラーキスは、ため息を付くと、立ち上がった。

「何やら落ち着かぬな。ではサキ、茶でも飲むか。」

ラーキスは先に立って歩き出す。咲希は、慌てて言った。

「でもラーキス、みんな誤解してるし…。」

ラーキスは、片眉を上げた。

「放って置け。そのうちに分かる。」

ラーキスは、さっさと出て行く。咲希は、その空気の中で一人残されるのは避けたいと、急いでそれを追って食堂を出たのだった。

すると、入れ替わりに、シュレーが入って来て、テーブルについた。ショーンが、それを見て慌てて表情を引き締めた。

「シュレー。待ってたんだ、使節団は決まりそうか?」

シュレーは、侍女が入って来て並べる食事を、それが何かも見もしないで口へと運びながら、ショーンを目だけで見て言った。

「ああ。少人数での渡航になりそうだ。リーマサンデとの調整があるのでまだ正式には決まっていないが、ライアディータからはオレとお前、それにサルー大使の三人だ。」

ショーンは、一瞬息を詰めた。

「なんだって…リーマサンデからの人数が多いのか?」

シュレーは首を振った。

「いいや。同じ人数だろうよ。」

ショーンは、さすがに顔色を変えた。

「初期の使者にしては、人数が少な過ぎやしねぇか。なあお前、歴史は知ってるか。」

シュレーは、食べる手を止めずに頷いた。

「知っている。怖気づいたのか?だったら来なくていい。」

ショーンは、一瞬怒りで目を光らせたようだったが、ふんと鼻を鳴らすだけに留めた。

「…残れば牢だろう。オレはここで、名誉とやらを回復させなければならない。でなければ、ただの裏切り者だ。少人数で最初に大陸へ渡った、勇気ある英雄になれって陛下は言うわけだな。命を懸けろと。」

シュレーは、手を止めた。

「どちらにしろ、命懸けなのは変わらない。人数が多くても少なくても、相手が好戦的なら関係なく殺すだろうしな。だが、お前には術がある。オレとサルーは戦える。全員無事で戻れる可能性は、多人数より高い。」

じっと黙って聞いていたアトラスが口を挟んだ。

「オレが参るか?いざという時、飛ぶことが出来るだろう。」

シュレーはしかし、それには首を振った。

「そんな危険なことはさせられない。あちらには、リーマサンデのような物理的に攻撃する銃のような飛び道具がある可能性もある。魔法技が、こちらより長けているかもしれない。そんな場所で、空を飛んで撃ち落とされることが無いとは言えないからな。これまで助けてもらっただけで充分だ。お前は、谷へ帰った方がいい。」

アトラスはそれを聞いて、今度のことが本当に危険なのだと知った。パワーベルトの異常の時でも、シュレーは助けて欲しいと言ったのに、今度は来るなと言う。軍人は、民間人を巻き込むのを嫌がるのだ。仕方がない時もあるだろうが、命に関わることがなさそうな時だけで、絶対的に危ない時は関わらせてくれない。

克樹が、言った。

「やっぱり、オレは連れて行ってはくれないな。」

シュレーは、それには断固として首を振った。

「駄目だ。陛下が決められたことだ。行くのはサルー、ショーン、オレ。後はリーマサンデの三人だけだ。交流が始まって、国交が出来たら、お前だって行くことが出来るさ。それまで待て。」

克樹は、ため息をついた。ただの好奇心だけではないのに。

ショーンは、それを聞いて、肩をすくめた。

「オレとしちゃあ、早くあっちを自由に調べたいんだ。国交が出来るのを、他人に任せてちゃあ何年掛かるかわかったもんじゃねぇ。分かったよ。行ってやろうじゃねぇか。ただ、オレは術を使って速駆けだって出来る。万が一の時は、置いて行くかもしれねぇぜ。死にたかねぇからな。」

シュレーは、盛大に鼻を鳴らした。

「ふん。大きいことばかり言うが、ま、お手並み拝見と行こう。」

そんな二人に、アトラスは不安げに克樹を見た。克樹も、同じような目でアトラスを見返す。

どちらにしても、不安だらけの出発になりそうだった。

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