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隣にいる人

「フィーネ、次のやつ、骨組み組んどいたからな。仕上げやっといてくれ」


「わかった。ありがとう」


 父が指した自転車を見て、頷く。


 最近は、父が時間のある時に自転車の作製を手伝ってくれるようになった。

 クララに言われた台数を作るために夜鍋している私を見かねて、父が手伝いを申し出てくれたのだ。


 いろんな人に支えられて、自転車ができている。

 本当に、ありがたいことだ。


 父が工房から出て行き、一人になる。


 私は引き続き黙々と自転車を作っていた。

 一人で作業するのは元々嫌いじゃない。


 だけど、最近は、一人で作業しているとたまに不安が顔を出す。


 私の趣味で作ったものが、広がっていく。

 街に広がるまではよかった。

 これから、クララはもっと広める予定だ。

 王都に。国中に。世界中に。


 目指している規模が大きすぎる。

 正直、もし上手く広まってしまったら、その後どうなるのかは想像もできない。

 でも、受け入れられないのも嫌だ。悔しい。


 そんな葛藤が頭の中を占める。


 工具を持つ手が、ほんの少し止まった。


 がちゃり。


 扉が開く音がした。

 父が忘れ物をしたのかと、振り向く。


「ルーカス。どうしたの?」


 彼は、持ってきた工具箱を机の上に置いた。


「手伝おうと思って。しばらくは毎日通うよ。邪魔?」


「邪魔じゃないけど…ルーカス、忙しいんじゃないの」


 彼は、魔石研究や、エルンストについての魔法実習、そしてギルドの仕事の手伝いがある。

 どう考えても忙しい。


 少しだけ間があく。

 ルーカスがこちらを見て、ふっと笑う。


「そんな顔しなくても…。今はこっち優先。大丈夫、各方面には話通してあるから」


「そうなんだ…ありがとう」


「うん。で、いつまでにあと何台作らないとなの?」


 私は日にちと台数を答えた。

 ルーカスはしばらく腕を組んで考えた後、言う。


「効率よく作らないと間に合わなさそうだし、分業しようか。俺は骨組み組み立てたことあるから、そっちはできる。フィーネは、俺が組み立てた骨組みの仕上げと、ブレーキつけてくれる?」


 私は頷いた。

 それぞれの作業位置について、静かに作業を始める。


 作業している間はあまり話さないけど、隣に誰かいてくれるだけで、心強い。

 不安に呑まれそうな自分が、いなくなる。


 ——この人は、いつも私を一人にしない。


 安全基準を考えた時も。

 初めて自転車を作った時も。

 思えば昔から、自然に隣にいてくれた。


 それが、きっと、私に力を与えてくれている。


「ルーカス」


「ん?」


 ルーカスが手を止めてこちらを向く。 

 私はルーカスの柔らかい目を見つめて言った。


「ほんとに…いつもありがとうね」


 こんな言葉だけで伝わるだろうか。


 ルーカスは一瞬だけ、動きを止めた。


 それから視線を外して、工具を持ち直す。


「……どういたしまして」


 声はいつも通り。


 でも、耳の先がわずかに赤い。


 そして、作業に戻った。


 木槌の音が、二つ分、響いている。

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