手を動かす時間
工房の床に、部品を広げる。
昨日まで形になっていた自転車は、またばらばらだ。
でも、嫌な感じはしなかった。
私は、後輪を持ち上げて、位置を確かめる。
「……やっぱり、ここかな」
言葉にしても、答えは返ってこない。
それでも、考えるのは楽しかった。
どうしたら、ちゃんと進むか。
どうしたら、転ばないか。
失敗したからこそ、分かることがある。
背後で、工具箱が置かれる音がした。
「また解体?」
ルーカスだった。最近よく見にきてくれる。
「うん。でも、前よりはっきりしてきた」
「前向きだなあ」
呆れたように言うけど、声は軽い。
彼は隣にしゃがみ込んで、部品を一つ手に取った。
「今回は、どこ変えるんだ?」
「後ろ。前に力が集まりすぎてるから、分けたいの」
「分ける?」
「うん。前で全部受け止めると、暴れるの。
進もうとする力と、曲がろうとする力が、喧嘩するみたいに」
説明はまだ下手だ。
でも、言ってみると少し整理できる。
ルーカスは、ふーん、と言って、部品を戻した。
「難しいこと考えてるな」
「そう?」
「でも、フィーネらしい」
彼はにかっと笑って言った。
その言い方が、少し嬉しかった。
彼は、工具を取り出す。
「で、今日は何手伝えばいい?」
「……まだ、はっきり決めてない」
「じゃあ、決まるまで一緒に考えるか」
それが、当たり前みたいに言われた。
私は、うなずく。
作るのは、一人でもできる。
でも、隣に誰かがいると、少しだけ心強い。
失敗しても、やり直そうと思える。
私は、もう一度、自転車を見る。
まだ、走らない。
でも、進みたい方向は、見えている。
今日は、手を動かす日だ。




