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灰の底の火種

解散したあとも、私はしばらく動けなかった。


椅子の脚が床を引く音。

低い声で交わされる短い言葉。


ざわめきが遠ざかっていく。


自転車の増産は、中止になった。


理由は、どれも正しかった。


間違っているとは言えない。


それでも。


——世界の外に、立たされた気がした。


正しいことをしてきたと思っていた。

誰かの役に立つものを作っていると、信じていた。


なのに。


弾かれた。


私の自転車は、受け入れられなかった。

魔石研究も、入れていないまま。


居場所が、少しずつ削れていく。


喉の奥が、熱い。


——もう、やめてしまえばいい。


そうすれば、誰も困らない。


元々はエミールのために作ったものだ。

身内で使うだけなら、誰にも迷惑はかからない。


事故の責任なんて、背負えない。


その思考を断ち切ったのは、クララの声だった。


「フィーネ、行きましょう」


小さく頷き、一歩踏み出す。


そのとき。


最後まで残っていた一人の職人が、前に立った。


今日の中で、いちばん若い。

他の工房を持つ職人たちとは違い、まだ青年の面影がある。


何か言いたそうにこちらを見て、視線を落とす。


拳を握りしめている。


「……あの?」


私が声をかけると、男は顔を上げ、

何度も口を開きかけて、閉じる。


そして、一度、強く息を吸い込んだ。


覚悟を決めるみたいに。


「あの!……俺は、自転車、すごいと思った!」


突然の大声に、廊下の足音が止まる。


「最初は……気に入らなかった。正直に言うと」


言葉を探しながら、続ける。


「でも、走ってるのを見て……これは、世界を変えるものだと思った!」


真っ直ぐ、私を見る。


「俺も、作ってみたいって、そう思った!」


言い切ったあと、自分でも驚いたように肩を震わせる。


少し落ち着いた声で続けた。


「俺、金属加工してるから。もし金属製にするなら……声、かけてくれ」


差し出された紙。


受け取ると、そこには


——ミゲル工房


工房の名と、住所。


男は照れ隠しのように背を向け、そのまま早足で部屋を出ていった。


静寂が戻る。


紙を握ったまま、私は動けなかった。


さっきよりも、喉が詰まる。


苦しさじゃない。


違う。


——世界は全部、敵じゃない。


たった一人でも。


消えかけていた胸の灯りが、ほんのり、温かくなった。

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