軋む音
今日は朝からクレセント商会に来ていた。
再びクララに呼ばれたからだ。
案内の人に促され、先にソファに座る。
しばらくして、扉が開いた。
クララが入ってくる。
いつもと同じ穏やかな顔。
けれど、どこか硬い。
向かいに腰を下ろし、指先を組む。
「ギルドに増産の話を通そうと思ったんだけど。問題が起きてね。まだ進んでいないの」
どきり、と胸が鳴る。
「問題、ですか」
「内部で反対があったらしいの。詳しくはまだ聞けていなくて。今度、理由を聞きに行くわ」
視線が、わずかに落ちる。
「だから、もう少し待ってくれるかしら。負担をかけていると思うのだけど、しばらくは一人で作ってほしいの」
反対。
その言葉が、胸の奥に沈む。
魔石研究の時と同じだ。
あのときも、魔術院はよく思わなかった。
見えないところで圧力がかかっていた。
誰かにとって、都合が悪い。
だから止められる。
自転車も、そうなのだろうか。
私が作ったものは、
誰かの居場所を、押してしまったのだろうか。
少しだけ、息が浅くなる。
けれど。
顔を上げる。
「クララさん。理由を聞きに行くとき、一緒に行ってもいいですか?」
クララが目を瞬く。
「え? ……いいわよ。でも」
一拍。
「気分のいいものではないと思うわ。はっきり言うと、多分、糾弾される。それでも来る?」
迷いはなかった。
「行きます」
声は、思ったよりも静かだった。
魔石研究では、前に立ったのはエルンストだった。
私は、机に向かっていればよかった。
でも、自転車は違う。
エルンストは、関係ない。
これは、私が形にした。
なら——
目を逸らすわけにはいかない。
クララが小さく頷く。
そのとき、ソファがぎしりと音を立てた。
小さな音なのに、妙に耳に残る。
今まで静かだったものが、
重みを受けて、軋む。
自転車も、きっと同じだ。
何かを動かせば、
どこかが、鳴る。
重みは、必ずどこかに現れる。
音は、もう止んでいた。
だけど、耳の奥で、まだその音が、鳴っている気がした。




