ルーカスの記憶1
彼女の第一印象は、物静かで、おとなしそうで。
それから——なんて、綺麗な子なんだ、と思った。
「今度の祭りの一番大きな飾りの担当は、ルーカスと四組のフィーネにやってもらいたい」
担任がそう言ったとき、正直、またか、と思った。
器用貧乏の自覚はある。
大抵のことはそれなりにできるし、外面もいい。
だから、こういう場では、だいたい面倒な役が回ってくる。
父親の口癖は、「大きな失敗はするなよ」だった。今の所、自分も、その通りの生き方をしている。
放課後、祭りの飾りの打ち合わせのために教室へ行くと、フィーネは窓際の席に座っていた。
静かに、本を読んでいる。
窓から入った風が、さらさらのミルクティー色の髪を揺らしていた。
伏せた目元、長いまつ毛。
——うわ、絵になる。
そのとき、彼女がこちらに気づいた。
金色の目が、まっすぐ俺を見る。
一瞬、時間が止まった。
静かな見た目なのに、
その目だけが、強かった。
光を集めたみたいな色で、
そこだけ、温度が違う気がした。
——太陽みたいだ。
そう思った自分に、少し驚いた。
じっと見返されているだけなのに、
なぜか、逃げ場がない気がした。
————
打ち合わせは、俺が主導で進めた。
「去年と同じ構成でいいと思う。中央に吊り飾り、周囲に小さな装飾を散らす形で」
無難で、失敗のない案だ。
フィーネは、少し考えてから、口を開いた。
「……少し、変えてみたい」
「変える?」
「立体感を、もう少し出したいの。見る角度で、違って見えるように」
正直、面倒だと思った。
「時間もかかるし、去年ので十分だったろ」
フィーネは、すぐには言い返さなかった。
けれど、ゆっくりと俺を見た。
「……難しい?」
責める響きはなかった。
本当に、確認しているだけの声だった。
「立体にすると、調整も増えるし、準備も大変だろ」
「私、時間はかけられるよ」
「そういう問題じゃなくて——」
言いかけて、言葉に詰まる。
フィーネは、少しだけ考えてから言った。
「失敗するのが、心配?」
胸の奥の、柔な部分を見抜かれたみたいで、どきりとした。
「……そんな単純な話じゃない」
少し、強い口調になった。
「時間も限られてるし、関わる人数も多い。俺たちだけの問題じゃないだろ」
正論だ。
だからこそ、逃げ道でもある。
「……できるかどうかなんて、やってみなきゃわからないだろ」
自分でも、言い訳だとわかっていた。
「失敗して、場の空気を壊すのは……」
一瞬、言葉が途切れる。
「誰だって、嫌だろ」
フィーネの表情が、少し硬くなる。
「私は、やってみたい」
はっきりした声だった。
俺の方を真っ直ぐ見て、言う。
「技術的な部分は、私が一人で考える。
失敗しても、私の責任でいい」
金色の目が、強く光る。
——炎が、燃えてる。
静かな見た目に反して、
その奥で、確かに、燃えている。
「あなたは、魔法のところだけでいい」
その真っ直ぐさが、
ひどく、まぶしかった。
「……そうかよ」
自分でも驚くほど、棘のある返事だった。
それ以上、話は続かなかった。
一人になった教室で、
胸の奥に、言葉にできないものが残っていた。
器用であることは、
失敗しないことは、
いつの間にか、
挑戦しない理由になっていた。
それを、
あの少女に、見抜かれた気がして。
悔しかった。




