表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/73

余波

 爆発があった日は、そのまま帰された。


 現場には、エルンストとギルドの調査担当が残り、私は「今日はもう帰っていい」とだけ言われた。


 そのまま残る理由もないので、言われた通りに帰った。


 ——そして、翌日。


 研究室の前に立って、私は立ち止まった。


 扉。

 見慣れたはずの木目。


 けれど、鍵穴に、金属の封印が噛まされている。


「……鍵、かかってる」


 昨日の爆発の処理がまだ終わってないのだろうか。

 鍵に触れてみるが、開けられそうにない。


 触れた指先が、冷たい。

 昨日まで、当たり前に開いた扉なのに。


「フィーネ」


 後ろから声がした。


 振り返ると、ルーカスが立っている。

 右腕は、まだ包帯で固定されたままだ。


「……どうしたの、その腕で。まだ動いたらダメじゃないの」


 私が眉をひそめると、

 ルーカスは私を宥めるように片手をあげて苦笑した。


「まあまあ、腕だけで、身体は元気だから。問題ないよ。

 それより、さっきフィーネに伝言頼まれたんだ」


「伝言?誰から?」


「エルンスト…さん」


 一瞬言い淀む。社交的なルーカスには珍しく、距離を測っているような、そんな印象を受ける。

 ルーカスはなおも続ける。


「第七会議室、知ってる?あの人がギルドでよく使ってる部屋。来てほしいって」


 第七会議室。

 エルンストがギルドで根城にしている場所だ。


「わかった。それより研究室、鍵がかかってるんだけど、理由知ってる?」


「今は、使えない」


 短い答えだった。


「なんで?」


「行けば、わかる」


 それ以上は、言わなかった。


 ほんの一瞬だけ、ルーカスの視線が封印に落ちる。

 それから、何もなかったように前を向いた。


「俺も、しばらく現場は休みだから、一緒に行く」


———


 第七会議室の扉は、閉まっていた。

 ノックをすると、すぐに声が返る。


「どうぞ」


 中に入ると、エルンストが机の前に立っていた。

机の上には、報告書の束。

 ソファに、見知らぬ白髪の男。


 だらしなく腰かけている。


 私が男を不思議に思っていることに気づいたのか、エルンストが、短く咳払いをする。


「後で紹介する」


 それから、私たちを見る。


「まず、結論から言う。研究室は、一時使用停止だ」


 頭の中が、一瞬白くなる。

 切り替えて、疑問を口にする。


「……一時、ですか」


「期間は未定だ」


 机の上の報告書に、エルンストの指が一度だけ強く触れた。


「理由を聞いてもいいですか」


 聞かなくてもわかる気がするが、聞いておきたい。


「研究室を狙った荷が複数届き、結果、爆発が二件起きた。誰かからの悪意がある状態だ。

 しかも、ギルドの検査を抜けるほど巧妙な。

 この状態で研究室を使わせるのは、ギルドとして許可出来ないそうだ。」


 ギルドとしては、当然の判断だ。


「期間は、安全確認が取れるまで、だそうだ」


 言葉が、少しだけ低くなる。


「だが、それだけではない。この判断には、おそらく外部の意向も絡んでいる」


 外部の意向。この研究をよく思わない、誰かの。


「……じゃあ、私は」


 行き場が、ない。

 研究室は、ここしかなかった。


「別の実験場所を見つけるまで、しばらく休みだ。 中央監査庁からも、正式にギルドに研究場所提供の依頼をかけておく」


 世界は、もう動いてしまった。

 そして、今もなお、どんどん動いている。


 エルンストが、こちらを見る。


「フィーネ」


 その声は、静かだった。


「研究は、止まらない。場所が変わるだけだ」


 本当に、そうだろうか。


 私は、封印された研究室の扉を、頭の中で思い浮かべた。


 ——居場所が、なくなった気がした。


 魔法使いにはなれない。

 それは、ずっと分かっていた。


 だからせめて、触れていられる場所が欲しかった。

 魔法の輪の、ぎりぎりの縁でもいいから。


 研究室は、その縁だった。


 呪文は唱えられなくても、

 魔石の流れを読むことはできた。


 あそこでは、私はただの“外側の人間”ではなかった。


 それすら、閉ざされるのだろうか。


 静かに。

 確実に。

 余波が、来ている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ