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医務室

 医務室は、消毒薬の匂いが強かった。


 白い布。

 金属の器具。

 低い声で指示を出す医務係。


 その中に、椅子に座った見慣れた背中があった。


「……ルーカス」


 呼ぶと、彼は少し遅れて振り向いた。


「……ああ、フィーネか」


 いつもの軽さはない。

 でも、声はちゃんと出ている。


 腕だ。怪我をしているのは。


 右腕を布でぐるぐる巻きにされている。

 布の端が、赤く滲んでいた。


「腕だけ?」


「そう。防護、間に合ったからな。傷もそんなに深くない」


 言いながら、肩をすくめる。


 軽く言ってるけど、浅い傷でこんなにぐるぐる巻きにされるはずない。


「……うちの研究室宛の箱を、勝手に、開けたでしょ」


 静かに言うと、ルーカスは一瞬、視線を逸らした。


「俺の仕事、検品だから」


「でも、全部開けるわけじゃないでしょ」


「…おかしいと思ったんだよ」


「どこが」


「普段は届かないはずのものが届いてるし、丁寧な封印なのに、差出人が誰かよく分からなかった」


 一つ一つ、ちゃんと見ている。

 確認もせず開けようとした自分が少し恥ずかしい。


「……研究室には、もう届いてるって、分かってた?」


「分かってた」


 即答だった。


「だから、俺のところで止めるつもりだったんだ」


 ルーカスが苦笑しながら言う。


「止めるって……」


「フィーネが開ける前に、だよ」


 あまりに当たり前みたいに言うから、

 言葉が、一瞬、詰まった。胸が締め付けられる。


「……ばか」


 小さく言うと、ルーカスは困ったように笑った。


「否定はしない」


 ちょうど医務係が来て、包帯を締め直す。


「無理に動かすなよ。処置はこれで終わりだ」


「はーい」


 返事は軽いけど、顔色は良くない。


 布が締まるたび、ルーカスの肩がわずかに強張る。

 それでも、顔には出さない。


 私は、少し間を置いてから言った。


「……研究室でも、爆発した」


 ルーカスの目が、わずかに見開かれる。


「……誰か、怪我した?」


「してない。エルンストさんが、開けてくれたから」


 それで、すべて察したみたいだった。


「……あの人、やっぱり魔法すごいんだな」


「わかんないけど、たぶん」


 短く、頷く。


 沈黙が落ちる。


 医務室の奥で、誰かが器具を置く音がした。


「なあ、フィーネ」


 ルーカスが、低い声で言う。

 碧い目が、真剣な光を湛えている。


「これ、事故じゃないよな」


「うん」


「誰かが、フィーネを狙ってる」


「…うん」


 言葉にすると、余計に、はっきり自覚する。


「俺のは、残り一つだった」


「……私のところには、六つあった」


 ルーカスが、息を呑む。


「……全部、同じ?」


「同じ箱、同じ書式」


「……最悪だな」


 誰かが、確実に、害をなそうとしている。


「……ねえ、ルーカス」


「なに?」


「これ、私の研究が原因だと思う?」


 少しだけ、間が空いた。


「それだけじゃない。…エルンストが中央に行っただろ」


 私は、小さな声で付け足した。


「……研究は、中央で正式に通ったみたい」


 ルーカスは頷いた。


「全部、重なった」


 私は、目を閉じた。


「……ごめん」


 言うと、ルーカスは、眉をひそめた。


「謝るな。フィーネが謝る必要はない。謝るのは、送ってきたやつだ」


 その通りだ。


「腕、無理しないでね」


「フィーネもな」


 包帯の白と、血の赤がやけに目に残った。


 誰かが、どこかで、これを仕掛けた。


 それはもう、始まっている。

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