↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はじまりの自転車 〜魔法をもたない少女の発明と研究の記録〜  作者: 甘くないオクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/123

余波

 爆発があった日は、そのまま帰された。


 現場には、エルンストとギルドの調査担当が残り、私は「今日はもう帰っていい」とだけ言われた。


 そのまま残る理由もないので、言われた通りに帰った。


 ——そして、翌日。


 研究室の前に立って、私は立ち止まった。


 扉。

 見慣れたはずの木目。


 けれど、鍵穴に、金属の封印が噛まされている。


「……鍵、かかってる」


 昨日の爆発の処理がまだ終わってないのだろうか。

 鍵に触れてみるが、開けられそうにない。


 触れた指先が、冷たい。

 昨日まで、当たり前に開いた扉なのに。


「フィーネ」


 後ろから声がした。


 振り返ると、ルーカスが立っている。

 右腕は、まだ包帯で固定されたままだ。


「……どうしたの、その腕で。まだ動いたらダメじゃないの」


 私が眉をひそめると、

 ルーカスは私を宥めるように片手をあげて苦笑した。


「まあまあ、腕だけで、身体は元気だから。問題ないよ。

 それより、さっきフィーネに伝言頼まれたんだ」


「伝言?誰から?」


「エルンスト…さん」


 一瞬言い淀む。社交的なルーカスには珍しく、距離を測っているような、そんな印象を受ける。

 ルーカスはなおも続ける。


「第七会議室、知ってる?あの人がギルドでよく使ってる部屋。来てほしいって」


 第七会議室。

 エルンストがギルドで根城にしている場所だ。


「わかった。それより研究室、鍵がかかってるんだけど、理由知ってる?」


「今は、使えない」


 短い答えだった。


「なんで?」


「行けば、わかる」


 それ以上は、言わなかった。


 ほんの一瞬だけ、ルーカスの視線が封印に落ちる。

 それから、何もなかったように前を向いた。


「俺も、しばらく現場は休みだから、一緒に行く」


———


 第七会議室の扉は、閉まっていた。

 ノックをすると、すぐに声が返る。


「どうぞ」


 中に入ると、エルンストが机の前に立っていた。

机の上には、報告書の束。

 ソファに、見知らぬ白髪の男。


 だらしなく腰かけている。


 私が男を不思議に思っていると、エルンストが、短く咳払いをする。


「後で紹介する」


 それから、私たちを見る。


「まず、結論から言う。研究室は、一時使用停止だ」


 頭の中が、一瞬白くなる。


「……一時、ですか」


「期間は未定だ」


 机の上の報告書に、エルンストの指が一度だけ強く触れた。


「理由を聞いてもいいですか」


 聞かなくてもわかる気がするが、聞いておきたい。


「研究室を狙った荷が複数届き、結果、爆発が二件起きた。誰かからの悪意がある状態だ。

 しかも、ギルドの検査を抜けるほど巧妙な。

 この状態で研究室を使わせるのは、ギルドとして許可出来ないそうだ。」


 ギルドとしては、当然の判断だ。


「期間は、安全確認が取れるまで、だそうだ」


 言葉が、少しだけ低くなる。


「だが、それだけではない。この判断には、おそらく外部の意向も絡んでいる」


 外部の意向。この研究をよく思わない、誰かの。


「……じゃあ、私は」


 行き場が、ない。

 研究室は、ここしかなかった。


「別の実験場所を見つけるまで、しばらく休みだ。 中央監査庁からも、正式にギルドに研究場所提供の依頼をかけておく」


 世界は、もう動いてしまった。

 そして、今もなお、どんどん動いている。


 エルンストが、こちらを見る。


「フィーネ」


 その声は、静かだった。


「研究は、止まらない。場所が変わるだけだ」


 本当に、そうだろうか。

 

 私は、返事ができなかった。


 封印された研究室の扉を、頭の中で思い浮かべる。


 ——居場所が、なくなった気がした。


 魔法使いにはなれない。

 それは、ずっと分かっていた。


 だからせめて、触れていられる場所が欲しかった。

 魔法の輪の、ぎりぎりの縁でもいいから。


 研究室は、その縁だった。


 呪文は唱えられなくても、

 魔石の流れを読むことはできた。


 あそこでは、私はただの“外側の人間”ではなかった。


 それすら、閉ざされるのだろうか。


 静かに。

 確実に。

 余波が、来ている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。