表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/72

見えない線

 夜、工房に、私は一人でいた。


 考えても、答えは出なかった。

 だから、手を動かしていた。


 父に言われて、古い魔具の箱を拭いていた。

 街の家で使われていた、灯り用のものだ。

 魔石の調子が悪いらしく、うちでは手に負えないため、ギルドに返却する予定になっている。


 魔石が埋め込まれている箱の隅に、灰色の粉が溜まっている。


 沈石粉だ。


 魔石の荒れを抑えるための粉。

 魔法使いはあまり好まない。呪文の流れを乱すから。触ったり、近くにあるだけで気分が悪くなってしまう魔法使いもいるという。

 でも、庶民の家では、ときどき使われる。荒れかけた魔具を落ち着かせるために、薄くかけるといいと言われている。


 布で拭こうとして、指先が粉に触れた。


 その瞬間——ずるり、と。

 引きずられたような感覚。


 私は手を止めた。

 粉を見る。動いていない。


 ——気のせいか。


 指で触る。何も起きない。

 掴んで、ばら撒く。魔石の上に落ちるだけ。


 ……違う。


 何かが違う。

 沈石粉だけじゃない。

 さっきは、手の動きに、微かな抵抗があった。


 自分の手を見た。

 指先が、少し光っている。


 ——油だ。

 乗り物の軸に使った油。


 私は、油の瓶を取った。


 ほんの一滴。

 粉に落とす。


 指で、軽く混ぜる。


 もう一度、ばら撒いた。


 やっぱり、動かない。

 ——だめか。

 私は肩を落とした。


 けれど、諦めきれず、もう一滴油を垂らす。


 これで最後。

 そう思いながら、魔石の上に粉を撒く。


 今度は——


 粉が、動いた。

 ゆっくりと、ひと筋に集まっていく。


 怖いのに、

 目が離せない。


 息を吸うのを忘れていたことに、

 胸が苦しくなってから気づいた。


 動いている。


 誰も触れていないのに、

 確かに、何かに導かれている。


 風じゃない。

 魔石を、なぞるように。

 細い線を、描く。


「……なに、これ」


 見えない何かが、

 そこを流れている。


 確かに、そこにいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ