消された呪文
頭に、呪文ごとの癖を見つけた時の違和感がよみがえる。
呪文ごとに、決まった形がある。
石の違いとは関係なく、同じような流れを描く。
——もし、だ。
石の性質とは別に、呪文が一定の形を押し付けているとしたら。
「……一つ、確かめたいことがあります」
エルンストは、私の表情を見て、黙って続きを待った。
「どちらの魔具も、魔石にかかっている呪文を……消せますか?」
一瞬、空気が張りつめる。
「消して、どうする」
魔石の流れは、呪文なしでは存在しない。
その、今までの前提を、一度壊したい。
私は、エルンストの方を見た。
「流れを、もう一度見たいんです。呪文がない状態で」
ルーカスが目を見開いた。
「え、それって……」
言葉が続かないまま、彼は口を閉じた。
エルンストは、私をしばらく見つめてから、静かに頷いた。
「……いいだろう」
解除の呪文が唱えられる。
光が引き、沈石粉が、再び動き出した。
——現れた。
どちらも、先ほどとは、まったく違う流れだった。
引っかかりがなく、無理がない。
詰まりかけていた方も、淀みなく、自然に巡っている。
「どういうこと?」
ルーカスが訝しげに言った。
「魔石には元々持っている流れの道がある。
呪文は、そこに、決まった流れの形を上書きする。」
私は沈石粉の流れを指差しながら言う。
「使っていくうちに、石の中の流れは元の道に戻ろうとするんだと思う。
でも、上書きされた呪文の形も残ってて、
ぶつかってしまう」
詰まっていた魔具の方は、呪文で描かれていた道と、元の流れが大きく食い違っていた。
「元の流れと、呪文の形が離れているほど、無理が積み重なって、詰まりになりやすいのかな…」
エルンストが低く言う。
「設計の問題だな。最初から、負荷がかかっていたということか」
事故は、偶然ではなかった。
最初から、歪みを抱えたまま使われていた結果だ。
横で、ルーカスが呟く。
「……これ、知られたら、魔法使い、困るよな」
魔法使いではない私は、すぐには答えられなかった。
けれど。
便利な結論ではないことだけは、はっきりしていた。
誰かの立場を、確実に壊す答えだと思った。




