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記録される形

久々に来たギルドの建物は、相変わらず人の出入りが多かった。


父のお使いでたまに来ることがあるが、ここは独特の雰囲気が漂っている。


革の匂い。

金属の音。

帳簿をめくる乾いた音。


私は、自転車を押しながら中に入る。

周囲の目がいくつかこちらを向く。

一瞬、後退りそうになる。


「……これ、やっぱり場違いじゃない?」


小声で言うと、ルーカスが首を振った。


「構造登録だろ。持って入るのはちゃんとした理由がある」


今日、ルーカスが一緒にいてくれてよかった。

私一人だったら、途中で引き返していたかもしれない。

私は、受付の女性に声をかける。


「新しい構造の登録をお願いします」


相手は一瞬、自転車を見て、それから私を見る。


「こちらですか?」


「はい」


私は、頷いた。


「では、奥へどうぞ」


すんなりと中へ通してくれた。


案内された場所は、こぢんまりとした部屋だった。

作業台が一つ、部屋の真ん中に置かれている。それ以外はほとんどものが置いていない。


作業台は黒く古ぼけており、長年使われていることが伺える。


その作業台の上に、自転車を載せる。


数人の職人が集まり、全体の構造から、歯車、軸、車輪を順に見ていく。


「後輪駆動か」


「木でここまで歪み抑えるの、手間だぞ」


「軸、よく出てるな」


私は、横で説明する。


どう繋いだか。

どこがまだ不安定か。

止まるときの癖。


事実をそのまま話す。


「……ふむ」


帳簿に、何か書き込まれている。


「構造は問題ない」

「既存の登録とも被らないな」


別の職人が言った。


「売る気は?」


「今は、ありません」


「だろうな」


苦笑。


「改良前提の顔をしてるもんな」


私は、少しだけ笑った。


登録は、思ったより早く終わった。


最後に、登録する紙を見せられる。


紙に、図と、簡単な説明が書かれている。

それから空欄の名称欄。


「これの名前は?」


一瞬、迷う。

名前は、ずっと悩んでいた。


「……自転車」

 

二輪車ではなく。自分で転がって進むから。

自転車。


自分で書くように促される。

書いたあと、しばらく視線を落としたままになる。


たった三文字。

でも、それは、

私が考えて、悩んで、失敗して、

夜を重ねてきた時間の塊だった。


確認した職人のサインが入れられる。

これで、完了だ。


それだけで、少し、背筋が伸びた。


自転車は、私の中だけのものじゃなくなった。



外に出ると、昼の光が眩しかった。


「思ったより、あっさりいけたな」


ルーカスが言う。


「うん。ちゃんと登録できてよかった」


彼は、少しだけ真面目な声になる。


「これで、フィーネが作ったものとして、守られたな」


「守られた?」


「フィーネが作った形が、記録として残るから。

誰かに真似されても、勝手に危ない使い方されてもさ。

フィーネがちゃんとしたものを作ってたんだよ、って証明できる」


私は、自転車を見る。


記録された形。

まだ未完成の形。


「そうだね。」


これが、私の作った、自転車だ。

嬉しい気持ちと、きちんと責任を持って作り上げたい気持ちの二つが、私の胸の中に残った。

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