EP1 クラス転移
光が教室を包み込んだのは、5時間目の授業中だった。
「な、なんだこれ!?」
「足元が光ってる……!? まさか、異世界転移!?」
クラスメイトたちのざわめきと悲鳴が交差する中、俺(佐藤健)の視界は真っ白に染まった。
目を覚ますと、そこは石造りの荘厳な空間だった。足元には幾何学模様の魔法陣が光り輝き、目の前には豪奢なマントを羽織った王族らしき男――ザイード王子が立っていた。
「おお、勇者たちよ! よくぞ我が国へ。さあ、まずは魔道具でステータスの確認だ!」
やはりクラス召喚というやつらしい。クラスメイトたちが次々と水晶玉のような魔道具に手を触れ、「俺、【剣術】だ!」「こっちは【炎魔法】!」と一喜一憂している。
そして、俺の番。
魔道具に手を触れると、空中に浮かび上がったのは異常な能力値だった。
【筋力】∞
【魔力】∞
【敏捷】∞
【運】∞
「……無限、だと?」
ザイード王子の顔が、期待から一転して青ざめた。
「ステータス表記が全項目『∞』だと!? 魔道具のエラーか、あるいは正体不明の化け物か! ええい気味が悪い、こんな得体の知れないヤツは即刻追放しろ!!」
「えっ? ちょっと待ってください!」
俺は慌てて弁明しようと、ゲームや小説の知識を頼りに叫んだ。
「そうだ、『ステータスオープン』!」
ピロッ、という電子音と共に、俺の目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。(後で知ったことだが、この世界にこんなシステム画面が空中に飛び出すような仕様は普通存在しない)。
そこには、魔道具とは全く違う俺の真の(?)ステータスが表示されていた。
名前:佐藤健
筋力:11
魔力:0
俊敏:5
運:10
スキル:███████████████
(おおっ、見ろよこの平凡な数値! しかもスキル欄はもやがかかったように黒塗りになってるじゃないか! これなら化け物じゃないと証明できる!)
俺は目の前のウィンドウを指差して叫んだ。
「見てください! 俺のステータスは筋力11、魔力に至ってはゼロです! スキルだって文字化けしててよく分からないし、ただの一般人ですよ!」
「……貴様、虚空を指差して何を言っているんだ?」
「えっ?」
「そこには何もないではないか! 己の異常な数値を誤魔化すために、見え透いた嘘をつくとは……何を言っているんだ詐欺師め! つまみ出せ!」
俺にしか見えないステータスウィンドウは、彼らには全く見えていなかった。
こうして俺は詐欺師呼ばわりされ、クラスメイトたちが呆然と見守る中、屈強な近衛兵たちに両脇を抱えられて王城の裏口からポイッと放り出されたのである。
(俺の異世界生活、開始わずか三分で終了したんだが……)
呆然としながら王都の通りを歩いていた、その時だった。
「誰か! 馬車の馬が暴走して!」
悲鳴が上がり、猛スピードで通りを駆け抜けてくる豪奢な馬車。その先には、金髪の縦ロールを揺らすドレスの少女が恐怖で立ちすくんでいた。
(危ない!)
そう思った瞬間、俺の身体が”勝手に”動いた。
頭で考えるよりも早く、凄まじい脚力で地面を蹴り、少女を突き飛ばしていた。
直後、俺の視界は巨大な車輪に覆い尽くされ――激痛と共に暗転した。
本来ならば死ぬ予定のない少女だったが、体が勝手に動いて助けてしまった。
薄れゆく意識の中で、ふと強い違和感が胸をよぎる。
(……おかしい。俺は、自らの命を捨ててまで見ず知らずの人を助けるような自己犠牲の性分だったか……?)
* * *
「――というわけで、君は死んでしまったんじゃよ」
気がつくと、真っ白な空間にいた。目の前には、白いヒゲを蓄えたテンプレ通りの『神様』が胡座をかいている。
「ふぉっふぉっ。君は自らを犠牲にして少女を助けた。だから、ご褒美として君に適合したスキルを授けて転生させてあげよう」
神様はポンッと手を叩いた。俺の目の前に、光り輝く文字が浮かび上がる。
「君に適合したスキルである【【アイテムボックス】】と【【鑑定】】、そして【【スキル成長10倍】】をもらい神様転生してもらうぞ」
「これは……」
「ふぉっふぉっ、驚くのも無理はない。こんなに強力なスキルが三つも適合するなど、大分珍しいことじゃからな!」
神様は感心したように髭を撫でた。
「では、良き異世界ライフを! 次の君の名前は、アインハルト・フォン・グランツじゃ!」
光に包まれながら、俺は二度目の生へと旅立った。
こうして、強力なチートスキルを手にして神様転生を果たしたのである。




