90 金の亡者 ランド・アルマーク編1 貴族とメイド
「アリエル! 庭の掃除はどうしたんだ?! 午後までに終わらせておけといつも言っているだろう!」
「申し訳ありません! 坊ちゃま! すぐやりますので!」
名家アルマーク家。この地域では知らぬ者がいないほど隆盛を誇る貴族である。今日も次期当主であるランド・アルマークがメイドであるアリエルを叱りつけていた。
応接室に向かう足取りが重い。今日は父上がお客様を僕に紹介したいからと、午後に応接室に来るように言われたけど、あぁ、めんどくさいな~。今日は勉強が休みの日なのに。それにしてもアリエルはほんと出来ない娘だ。まあ、そこがかわいいんだけどね。
そんなことを考えていると、応接室に着いてしまった。ああ、憂鬱だ。そうつぶやきながらドアノブに手を掛ける。
「失礼します、父上」
「来たか、ランド。まあ、そこに座りなさい。紹介したい人物がいるのだ」
茶色い高価なソファーにえらそうにボスンと座るランド。そこには、全身黒い甲冑姿の男が、ただならぬ雰囲気を出しながら対面に座っていた。
「これからお前の護衛をしてくれることになった。鋼鉄さんだ。挨拶しなさい、ランド」
怪しいフルプレートの男……こいつが僕の護衛だって?!前の小うるさい家庭教師は辞めさせてやっと平穏な日々がやってきたのに……!
「ランド・アルマークです。よろしくお願いします」
僕は立ち上がりお辞儀をする。『前の家庭教師みたいに辞めさせてやる!』そう心の中でつぶやきながら満面の笑みで仮面を被る。全力で。右手を出し握手を誘うと、鋼鉄と呼ばれている男もそれに応じた。とても低い声で返しながら。
「鋼鉄です。よろしくお願いします。ランドくんには剣術も教えるように父上から言われていますので」
「どういうことさ? 父上」
唐突に険しい表情へと変わり、キッと父上を睨む。
「ランド。お前には勉強だけではなく剣も覚えてほしいのだ。貴族としてな。わかってくれ。ああ、アリエル、お茶とお菓子を用意してくれんか」
「かしこまりました。だんな様」
目を閉じながらアリエルがお辞儀すると、お茶とお菓子が並べられた台車をカラカラろ押してくる。その仕草を注意深く目で追う。今回はミスしない。よし。失敗しないアリエルなんて珍しいな……ん?もしかして僕の前でだけミスするのか?なんでだろ……
「ああ! 坊ちゃまがわたしを見てる! なんてかわいいのかしら……」
アリエルは薄目でランドの方をチラリと見ると顔を赤らめながら必死に口をこわばめる。好きという感情を隠しながら仕事をするアリエルのことを、当主であるジェスタ・アルマークは見抜いていたのだが、ランドは貴族でアリエルはメイドなのだ。そう。許されぬ恋である。そのことを考えながら困った顔をしていたジェスタはランドのある一言でハッと我に返る。
「こいつが剣の先生?! 冗談じゃない! ほんとに剣術が強いのか僕に見せてみろ!」
「いいでしょう。では外の庭で模擬試合でも」
「ピピッ! マスター。あまり目立つ行動は……」
「わかっている。レイン」
何を喋っている?……なんだ……独り言か。変なやつだ。そうぶつくさ言いながら庭に出て組手用の木剣を一つブン!と投げつけてやる。ほんとうに剣の先生にふさわしいかどうか、この僕が確かめてやる!
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