220話 アルティナのターン
「と、いうわけで……まずは朝食を食べましょう」
「おぉ……」
アルティナと一緒に街に出て。
そのままカフェに入る。
食堂や、食堂を兼任している酒場ではない。
カフェだ。
「どうしたの、師匠? そわそわしてるけど」
「……このようなおしゃれなところに、俺は場違いではないだろうか?」
「そんなことないわよ。気にしすぎ」
「そうだろうか……?」
「ドレスコードがちゃんとある店ならともかく、ここはそんな堅苦しいところじゃないし、ちょっとおしゃれなだけの街のカフェよ。気にしない気にしない」
むぅ。
若い子は強いな。
おっさんともなると、新しい店の新規開拓にも迷うものだが。
「しかし、わざわざこのようなところで朝食を食べなくてもよかったんじゃないか?」
「いいじゃない、たまの休みくらい、ちょっとした贅沢をしても」
「それは、まあ……」
「それに、ここのパンケーキは絶品よ?」
「朝から甘いものを?」
「大丈夫。パンケーキって言っても、ちゃんとごはんになるパンケーキだから。ちょっと甘いけど、でも、ベーコンとかチーズとか使われていて……んー、おしゃれなトースト、って考えてもらえればいいかしら? けっこう美味しいわよ」
「なるほど、それは楽しみだ」
とはいえ、
「俺達だけで来てよかったのだろうか?」
ノドカやユミナも誘うべきだったのでは?
「それは大丈夫。今日は私のターンだから」
「アルティナのターン?」
「こっちの話、気にしないで」
そう言われても……
アルティナ達は、どうやら裏でなにか示し合わせている様子。
企んでいる、とまではいかないが……
今回の休みに合わせて、なにかしら話し合ったようだ。
その内容がとても気になる。
でも、教えてはくれないのだろうな。
「……ふぅ」
まあ、考えても仕方ない。
流れに身を任せよう、と思考を放棄して、さきほど運ばれてきたコーヒーを一口飲んだ。
「これは……美味しいな」
「でしょう?」
アルティナの得意そうな顔。
驚いた。
ただのコーヒーだと思っていたら、ぜんぜん違う。
香りとか深みとか、そういうものが数段階も上で……
このコーヒーだけで店に来た価値があると思えた。
「ふっふっふ、これくらいで驚いていたら心が保たないわよ?」
「なぜ悪人みたいに笑う……?」
「いつも師匠に驚かされてばかりだから、驚かすのがとても楽しみで♪」
やれやれ。
うちの弟子は、いつの間にか意地が悪くなってしまったみたいだ。
……師匠に似た、なんてことはないよな?
「おまたせいたしました」
ほどなくして注文したパンケーキが運ばれてきた。
ふわふわに焼かれたパンケーキが三枚、斜めに重ねられて並んでいる。
たっぷりとかけられたチーズソース。
カリカリに焼かれた分厚いベーコンがはみ出していて、その上に半熟卵が乗せられている。
「これは……」
「美味しそうでしょ?」
「ああ、想像以上だ」
パンケーキと言えば甘く、女性が好むものでおっさんに縁はないと思っていたのだけど。
そんなこともないらしい。
これもおしゃれではあるものの、甘さに特化したわけではなさそう。
アルティナが言っていたように、普通に食事としていけそうだ。
「しかし、どうしてパンケーキを?」
「んー……別にパンケーキじゃなくてもよかったのよ。がっつりとハンバーグでもいいし、しゃれたパスタでもいいし。美味しいものならなんでも」
「食事を楽しみたい、と?」
「そうね。だって師匠ってば、剣のことばかりでごはんのこと、ぜんぜん気にしていないんだもの。いつだったか、筋力増強剤をごはんの代わりにしようとした時は愕然としたわ」
痛い思い出を突きつけられてしまう。
「だから、美味しいものを……というか。剣だけじゃなくて、他にも少しは興味を向けてほしいかな、って」
「そういうことか」
色々と俺のことを考えてくれているみたいだ。
本当、俺にはもったいないくらいの良い弟子だ。
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