219話 平和な日々
「……むぅ」
翌日。
朝。
いつものように、俺は陽が登り間もない時間に目が覚めた。
大体、この時間に鍛錬を初めて……
それから一日の準備……家事などをしているからだ。
ただ、今日は鍛錬はなし。
剣の道は一日にしてならず。
何日も何日も、数え切れないほどの時間を過ごして積み上げていくもの。
本来ならば一日も休むことはしてはいけないのだが……
『あんなことがあったばかりなんだから、師匠は、しばらく鍛錬は休みなさい!』
『というか、まずは治療に専念すべきなのでありますよ。あの魔族との戦いで、それなりの怪我を負っているのですから』
『精神的な疲労も心配だよね。お兄ちゃんみたいな人が、ある日、ばきっと折れちゃうことがあるんだから』
……なんて。
散々、弟子達に脅されたせいで鍛錬を休むことにした。
正直なところ。
これくらいで、とは思うのだけど。
しかし、無視して鍛錬をしたら、弟子達がどのような反応をするか。
想像するだけで恐ろしい。
ああ見えて、彼女達は怖い。
いざという時、本気で怒ると恐ろしい。
基本、男性よりも女性の方が、いざという時は強いのだ。
「とはいえ……なにをしたものか」
いつもの習慣でいつもの時間に起きてしまった。
しかし、鍛錬は休み。
家事をするにしてもまだ早い。
どうしよう?
「あ、師匠」
振り返るとアルティナがいた。
「おはよう、早いわね」
「おはよう、アルティナ」
「……もしかして」
「いや、鍛錬はしていない。ほら」
ジト目を向けられて、慌てて両手になにも持っていないことをアピールした。
「……みたいね。よかったわ。もしも隠れて鍛錬をしているようなら、お仕置きをしないといけないところだったもの」
「お仕置き?」
「そ、お仕置き♪」
にっこりと笑うアルティナ。
お仕置きの具体的な内容を教えてくれないところが逆に怖い。
「でも、それならなにをしていたの?」
「いや、なにもしてない」
「え?」
「いつもの時間に起きたが、そういえば鍛錬は休みだったな、と思い出したところで……少し困っていたところだ」
「師匠ってば、本当に剣のことしか考えていないんだから」
「いや、面目ない」
「なら、ちょっと体操でもする?」
「それはいいのか?」
「体をほぐすというか、なまらないためにするというか……体操くらいいいわよ。あたしも、そのために外に出てきたんだし」
ありがたい。
少しくらいは体を動かしたいと思っていたところだ。
「なら、一緒に体操をしよう」
「ええ」
二人で並んで、腕をぐるり。
屈伸をして、上体を逸らして。
次は前屈をして、それから……
一般的な体操をすると、ほんのりと残っていた倦怠感のようなものはすっかりと消えていた。
スッキリとした気分で朝を迎えることができる。
「こうして、軽く体を動かすのも悪くないな」
「でしょう?」
「よし。色々とほぐれたから、これくらいでいいだろう。アルティナ、いつもの剣を持ってきてくれないか?」
「ちょっと師匠、今日は鍛錬は休みって言ったでしょう?」
「……しまった」
わりと本気で。
まったくの自覚なしに、自然と鍛錬をしようとしていたみたいだ。
そんな俺を見て、アルティナはため息をこぼす。
「まったくもう……師匠ってば、心だけじゃなくて魂までぜーんぶ鍛錬で染まっているのかも」
「むぅ……」
「仕方ないわね」
アルティナは、びしっとこちらに指を指してきた。
「どうせこんなことになるだろうと思って、事前に色々と話し合っていたの。今回の休みの間、あたし達が休みの過ごし方を教えてあげる!」
「おぉ」
頼りになる弟子だ。
……うん?
あたし『達』?
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