第62話 芦子北解放戦線
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本日より新章、第3部開始!
第3部はバトルいっぱいでお送りします。
ギラギラと白っぽい空が広がる昼の市街。
至る所で鳴きわめくセミたちが、未だ夏の盛りを主張する九洲――9月の半ば。
西側を海と、東側を山地と接するこの土地は、昼の日差しの熱を受け陽炎が立っていた。
隈本県芦子北町。
九洲守護の要たる三壁の、最も内側に在った『不知火の壁』に守られていたこの場所は、今。
「ピギィィッ!」
「GURUGAAAAーー!!」
この世を染め塗る侵略者……ハーベストの手の中に落ちていた。
「……こちら本作戦の総指揮を執る、日ノ本第161機動小隊、森高真里! みんな、準備はいい?」
「こちら日ノ本第70機動小隊、内村! 準備良し!」
「同じく日ノ本第425機動小隊の上田! いつでも行けますよっと」
霊子ネットワークを通じて行われるやり取り。
芦子北の地に、人の何倍もの大きさを持った巨人の影が起き上がる。
「それじゃあ……作戦開始!」
「「了解!」」
身長9m強。
銀灰の装甲に各々好みの色を塗りこんだ関節伸縮部を持つ、侍めいた人型機動兵器。
“神秘の建岩”が生み出し。
“繁栄の天常”が量産し。
“教育の佐々”が育てた人材を乗せた……人類の希望の結晶。
「一斉射! いっけぇーーー!!」
「「うおおおーーー!!」」
その名も、精霊殻。
かつて日ノ本を邪悪な鬼から守ったとされる、霊験あらたかな侍の武装の名を冠する……力!
「GURUAAAAーーーー!!」
「近接戦闘用意! 抜刀! 返してもらうわよ! 私たちの居場所をっっ!!」
日ノ本の戦士たちはこの力を駆り。
今この時より、滅びの運命に対し反抗を開始した。
芦子北解放戦線。
侵略者たちに奪われるばかりだった日ノ本が、ついにその土地を取り戻さんと立ち向かう戦いの幕開けである。
※ ※ ※
芦子北におけるハーベストと人類の戦い。
多種多様な種類でもって侵略を行なうハーベストに対し、人類は多種多様な手段でもって立ち向かう。
「オラオラオラ! 道を開けやがれ!!」
「ピギィィィッ!!」
人が侵略者を打ち払うために用意した武器、契約武装。
新旧時代を超えた武具、銃や剣とが入り乱れ、眼前の小柄なハーベストを打倒する。
それらを操る人々が、その使用に耐えられるよう着込む鎧も、契約鎧という特殊な防具だ。
「GURUAAAAーーー!!」
「おっと、あんたの相手はこっちだよ! っらぁ!!」
大型の敵と戦うためにあるのが契約機。
日ノ本においては精霊殻と名付けられたそれが、拡張された人の手足となって万難に挑む。
「手動緊急モードが使えりゃ、もうちょっとスマートにやれるんかねぇ?」
「バカが無茶するんじゃないぞ!」
「あーい! 安心安全の自動安全モードってね」
人の知識の蓄積は、少ない操作で機械を動かし。
「そらっ、砕けろ!!」
「GYAOOOOOーーーーー!!」
迫りくる岩の巨人を突撃銃の銃弾で撃ち抜いた。
「前線を押し上げるぞ! 私につづけぇ!」
「「了解っ!」」
人類の英知が。
そして、彼らに手を貸す同じ世界に住む見えざる者たちが。
契約の名の元に力を合わせ、侵略者へと立ち向かう。
「周囲のマーキング発見状況は!?」
「先行する機動歩兵が4ヶ所ほど発見、随時解除中です!」
「よし! 屋内に隠されていたりするからな! 抜かりなくいけ!」
敵が刻んだ侵略の証を、見つけて壊して取り戻す。
新たな敵を呼ぶ門を、開かせまいと徹底的に。
が。
「森高ぁ!」
「なんだ!?」
「サークルだ!! もうデカいのが出てくるぞ!!」
敵とてそれを、指を咥えて見ているわけではない。
「げぇっ! ありゃ……ワイバーンだ!!」
「くそっ、総員集まれ! 上空からの強襲に備えろ!」
より大きな侵略の証を目印に、ソレらは門を潜ってやって来る。
「隊長、他にもサークルが! 角付きがすでに出てます!」
「ユニコーンもか!?」
「単騎じゃないです! キマイラどもを多数引き連れてます!」
「チッ! 妖精級の中でも一番厄介なのを持ってきてぇ!」
「ブルヒヒーンッ!」
「グバォォォンッ!!」
ここはもう、自分たちの物なのだ。
お前らこそが侵略者。お前らこそが簒奪者なのだと、待ち構えていた力を振るう。
「討伐はユニコーンが最優先だ! あいつの角は仲間の傷を癒やすからな!」
「ワイバーンは?」
「盾持ちに任せろ! 踏ん張りどころだ!」
刻一刻と変わる戦局を、人類は知恵と経験で、侵略者は数と勢いでもって主導権を奪い合う。
「無理に角を狙わなくていい! 胴をぶち抜いて転がしてやれば大人しくなる!」
「キマイラのブレスに気をつけろ! 契約鎧の障壁を過信するなよ!」
「ワイバーン、来ます!!」
「シャギャアアアアッ!」
「堪えろぉぉぉーーーーーー!!」
精霊殻に並ぶサイズの亜竜による、空から迫る爪の一撃。
2車線道路を埋め尽くす、合成獣の爆噴の吐息。
それらを掻い潜って放たれた弾丸が作った傷を、角突きの放つ光が無に帰す。
戦いの天秤が、ゆっくりと傾いていく。
※ ※ ※
「くそっ! 精霊級にこうもウヨウヨされるとは!」
「隊長!」
「どうする、森高ぁ!」
人類が押されていた。
十全に準備をして乗り込んだはずの戦いで、押し返され始めていた。
「うわぁぁぁぁっ!」
「有田ぁ!?」
「こちら倉科! 敵増援を発見! 至急対応求む! 至急……きゃあ!!」
人類が知恵を搾るのは、個の力だけでは足りないから。
侵略者が数と勢い頼りに攻めるのは、それだけで事足りるから。
「くそっ、くそっ!」
「ダメなのか? 押し切れないってのかよ!」
そうやって人類は今日まで敗北を繰り返し。
そうやって侵略者は世界のほとんどを染め変えた。
「サークルより新たな精霊級の出現を確認! ……イフリートです!」
「ちっくしょおお!!!」
戦いの天秤が、完全にハーベストへと傾き切った。
そう、誰もが思ったその時だった。
「いくよっ、せーのっ! どかーん!!」
オープンチャンネルで響く、どこか気の抜けるような幼さが残った声がして。
シュウウッ……ドォンッ!!
「シャグアアアッ!!」
空を舞う亜竜が、ロケット弾の爆炎に包まれ墜落した。
「こちらドッグ1! ワイバーンはもう一体いるけど、そっちも任せて! みんなGOGO! ……え? オープンになってる? わわっ!? ごめんなさーい!!」
ブツッ。
「………」
激しい戦場に不意に舞い降りた、数秒の静寂。
本来ならば致命的なその呆然が、しかし人的被害を出すことはなかった。
ドォンッ!!
そのほんのわずかな時にはもう、人類は制空権を奪い取っていた。
「なん、だ?」
最前線の隊長の口から疑問符が零れた、その時。
「あーあー、こちらコントロールズー、こちらコントロールズー。日ノ本第161機動小隊、森高千剣長殿に通話願う」
「コントロール? ……私だ」
「千剣長。勝利をお届けに上がりました」
突如として繋がった個人通話の主の不可解な言葉とともに。
「ピギャアアアッ!!」
「GYAOOO!!!」
「グボォォォーーーーーーーー!!」
戦場に、ハーベストたちの断末魔が響き渡る。
「なんだ!? 何が起こって……あっ!」
瞬間。
彼女の脳裏にとある小隊の名が浮かぶ。
それは、つい数週間前に結成されたばかりの新造小隊。
時間稼ぎに作られた数多の軍学校の内、一つの学校で生まれた特異点。
奇跡と呼ぶにはあまりに異常な、人であって人ではないとも噂される戦士たちの集団。
「まさか……! もう来たのか!?」
その特異さゆえに通常の作戦に組み込めない、遊撃を主としたその小隊の……名は。
「天2小隊、これより本作戦を独自権限にて援護します」
“超機動小隊”上天久佐第2独立機動小隊。
「コントロールズーより各員へ。いつも通り、好きにやっちゃっていいよぉ~」
「「了解!!」」
それは人類の、今に持ち得るすべてが結実して生まれた“最強”であった。
超機動小隊は通称です。
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