第60話 建岩命の見た祝
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誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。
今回は建岩命の視点です。
タイトルは祝と読むと美味しいと思います。
「う、そ……だろ?」
初めて目を合わせた、その時に。
(あぁ、この方は贄の……運命の人ではないですね)
贄は建岩の判断が間違っていたのだと気づきました。
『覚醒したヒーローである黒木修弥と接触し、己の役目を果たせ』
そうお爺様たちに命じられ、贄は天2軍学校へと参りました。
ですがその命令が間違っていた以上、贄にはここに残る選択はありません。
そう判断した、矢先の出来事でございます。
「ばっかやろうがああああ~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
「!?!?!?」
突然の怒鳴り声。
明らかに異常な怒り方をする、ヒーローではなかった黒木修弥様……いえ、終夜様とお呼びせよとのことなので、終夜様と呼びますね。
終夜様の怒りは嫌悪? 義憤? 落胆?
そこに込められた意図を贄が掴みかねていると、終夜様は仰られました。
「ここはお前が来るような場所じゃないしお前が来ていい時期でもないわ!」
不思議なお言葉でした。
「よりにもよってお前かよぉぉ!!」
贄のことを、知っているかのような物言いでした。
そして。
「いらないいらないいらない! ここにお前はいらない! 帰って! 隈本に帰って! 大阿蘇様のところに帰って然るべき時に然るべき場所に送り出されて世界救ってくれよぉぉぉ!!」
この言葉で、確信いたしました。
“この方は、贄のことを識っている”と。
「がはぁっ」
そのあとすぐに気を失ってしまわれた終夜様を、ご学友の皆様が保健室へとお運びになるのを見送りながら、贄は考えていました。
(あの方は贄を識っていて、けれど、贄を必要としていない)
それは贄にとって、とても不思議な出来事でした。
※ ※ ※
贄は、この世界を救うために身を捧げる者です。
お爺様たちも、大阿蘇様も、皆が皆、そうだと口を揃えて仰っておられました。
贄もそうだと確信していますし、そのように育ちましたので、そう生きております。
ですので、人ではないが尊きモノ、という扱いをされて参りました。
人であって人でない者でしたが、同時に誰からも必要とされる者でございました。
贄を知る方々は、贄の役目も知っておられるので、贄を必要としていらっしゃったのです。
……ですが、終夜様は贄を必要としていないご様子でした。
世界を救うための捧げ物である贄を、心の底から「いらない」と叫んでおいででした。
それは贄にとって初めての出来事で、初めての全否定でした。
贄の運命の人ではないのに、贄の運命を識る人に。
贄はすべてを否定されました。
それがどうしてだか、贄の空っぽな何かに、強く響いたのでした。
運命の人は別の場所にいる。
微かにそれを感じなくもない方も居はしましたが、終夜様の言葉こそが正しいのだと、贄も確信していました。
だのに。
贄は。
ここにいたいと、気づけばそう思っていたのです。
テイラーソン様に一通り学校案内をして頂き、別れて一人、事前に地図で把握していた地形を実際に見て理解を深めていたところで、贄は司令室から出てきた終夜様のお姿を見つけました。
「終夜様!」
気づけば自然と、その名を呼んでいました。
そこで贄は、ここにいたいその理由を確信いたしました。
“ああ。贄は、この方に……終夜様に必要とされたいのだ”と。
※ ※ ※
どうすれば贄はこの方に必要としてもらえるのでしょうか。
終夜様の後ろを歩きながら、贄は必死になって考えを巡らせました。
(おそらく贄が贄である限り、この方に必要としてもらうことはないのでしょう)
そんな確信がありました。
ですが、同時に。
(ここで贄が贄であることをやめてしまったら、この方に見限られてしまうのでしょう)
という確信もありました。
贄であっても、贄でなくても。
贄は終夜様に求められることはないのだと確信しました。
ですので。
贄は贄のまま、贄であることをやめることにしました。
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贄は終夜様に必要とされるモノになりたい。
そのために贄は知恵を巡らせ、策を弄しました。
浜辺へ向かうとのことで、人を払い、思索にふけりやすい環境を用意しながら、贄も自らの戦装束を用意します。
(まずは正攻法。武を示し、技を示し、心を示す)
立ち合いに臨みます。
贄は天2軍学校の威光を耳にしたその時から、より深い研鑽を積み自らを鍛えて参りました。
示される手本に倣いするのは容易かったので、あとは密度を高めて練り上げました。
そうして大阿蘇様にも認められ“神懸かり”の秘奥を伝授頂きました。
ご学友たちと横並びでは足りぬだろうとお見せしましたが、案の定、ご存じの上よーく理解されておられるようでした。
まだ足りぬ。ということを思い知らされました。
搦め手が要る、と。確信しました。
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今の贄はもう、建岩であって建岩ではありません。
ですが、持ち得る手札をすべて使わなければ、贄はここに残れません。
建岩家の理も、技術も、手にあるモノはすべて終夜様にぶつけます。
そうすることで、贄が建岩という枠にいるのだと印象付けます。
「お前が尽くすべき相手は俺じゃない! この先の未来に必ずそいつは現れる!」
終夜様の口から贄の知りえぬ話が出たところで、傾聴。
その理由の実はどうでもよいのですが、聞いている姿勢というのが大事なのです。
「だから、こんなところにいないで――」
なればこそ。
「――とっとと大阿蘇様の元へと帰りなさい、ですか?」
「!?」
こうして狙い澄ました時所にて、言葉を差し挟む機も得られるというもの。
「……では、終夜様の仰られることがすべて正しいのだとします」
あとは相手の論に乗り、その上で……。
「建岩の娘として、そんな皆様の傍らに立つことこそが、今すべき正しい行ないだと確信しております」
……贄らしい、建岩らしい正しさを踏まえた論を、押し込めばよいだけです。
※ ※ ※
「……わかった。そっちの言い分も聞き入れよう。ただし! それは俺より先に、一撃を加えられたなら、だ」
ここからは、終夜様がご納得してくださるかどうかにかかっています。
終夜様は、あろうことか贄との正面対決をお望みになられました。
正直に申し上げますと。
とても困りました。
贄の“神懸かり”が今の終夜様に破れるとは、とても思えなかったのです。
(下手な敗北をして、終夜様が意固地になられたらどうしましょう)
そんなことを贄は、やり取りの最中に思っていました。
ですが終夜様は、本気で真っ向から神懸かりを破る気でいらっしゃいました。
どうやって?
その答えはすぐにお示しになられました。
(まさか精霊纏いの応用によって、疑似的な神懸かりの再現をなさるとは)
精霊をまとう、という理屈は確かに通るのです。
ですが本来精霊纏いは、己の所有する精霊にまつわる器物を呼び出す技。
精霊そのものを呼び出しまとう技ではないはずなのです。
(ですが終夜様は、それを容易く成し得てしまわれた)
おそらくは、非常に深いところで繋がった精霊契約の力。
精霊側からの絶対的な心向きがなければ成立しない奇跡の御業。
力を借り受けるだけの神懸かりよりも、おそらくは高出力の……。
そうして。
贄は勝負に負けました。
ですが、その内容はどうあれ、結果は贄の予想通りでした。
贄は、負けるべくして負けたのです。
「俺の勝ちだ」
「……はい。贄の負けです」
仕掛けは十分。沙汰を待ちます。
そして――。
「今すぐ帰れとはもう言わない。その代わり、俺がマジで帰れって言ったときは従ってくれ」
――伝えられた結論に、贄は心の底から歓喜しました。
こうして贄は、時を得ることに成功したのです。
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終夜様は、利を求めていらっしゃいます。
何か、とても大きな何かを成し遂げるために。
終夜様は、人類の勝利を求めていらっしゃいます。
その先、明るい未来を欲するがゆえに。
終夜様は、贄のすべてを理解している。
だからこそ、この方にならすべてを捧げても……問題ない。
終夜様は、世界の救い方を識っている。
ならばこそ、この身をこの方に捧げることは……正しい。
終夜様なら、きっと。
「大したことじゃない。精々俺の役に立ってもらう、そういうことだ」
(贄を、最も効率よく、最も正しく、使ってくださる……!)
ゆえに。
贄は贄の意思で、貴方様に必要とされるべく、貴方様が贄を使わざるを得ない時所をご用意いたします。
「現時刻をもって、上天久佐第2軍学校の全生徒を卒業したものとみなし、明日からは正式な軍属として活動を開始する!!」
(終夜様……どうか、どうか…………贄を、上手に使い潰してくださいね?)
贄のことを識っていて。
贄のことを欲さない。
そんな貴方様のためにこそ。
贄はこの身のすべてを捧げ、尽くしたく思うのです。
天才の考えは度し難い。
次回は第2部エピローグ的なお話になります。
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