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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
◇◇◇第一巻 序譚◇◇◇ 序譚~第5譚まで
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⑩ex,旅の始まり


「HAHAHA!!――ユ ウ ヴ サ テ ラ !!――不法入窟、経歴詐称、不法取引、不法占拠、窃盗、器物損壊、そして殺人および殺人未遂!!やったなオイオイ、遂に"落ちたな"落ちるとこまで。まぁそれが探索士もぐりしの仕事だってんなら良いパンチラインだけどなぁ!?」


「うるせぇ。死ね。」


「――おぉっと、コォコォで脅迫罪ッ!!全く参ったねぇ、困った!!」 


 黄色いジャケット、

 穴の開いたジーンズ、

 むさくるしいオールバックに、

 ピアスと指輪の数々。


 机一つを挟み、

 酔っぱらっているかのようにテンションの高いこの眼鏡男は尋問官である。

 それも顔見知り。


「なんでお前がココにいるんだよ。」


――【チック=アウグレン】

所属:アイギス評議会。

素性:フェノン騎士団、第二師団・副団長。

字名:白血のアウグレン



「ナ  ン  デ ! ? かって??――おぉい、ホワットッ!!! 西側地方ウェスティイリア中央地方アイギスがズブズブだからに決まっているじゃないか!?そして俺たちと評議会もズブッズブッ!!」


「随分と聞こえが悪いな。」


「事実さッ!!」


 フェノン騎士団とは平和都市と謳われる王都アイギス、

 すなわち世界一の大城塞及び城下街に仕える秘密組織だ。

 彼らは正式な立場を明確にしないが、

 実質的にはアイギスに忠誠を使える軍隊である。


 彼らが立場を明確にせず秘密組織という体で活動しているのは、

 アイギスというこの世界のバランサーである大都市の"絶対性"を担保する為であり、

 逆を言えば本気を出せば、

 暗殺なり暗躍なんなり「やっちゃうぞ?」という脅しの為でもある。


「……お前の言った罪状は全て冤罪だ。評議会も地に落ちたな。」


 俺は取調室の分厚い扉に目を逸らしながら言った。

挿絵(By みてみん)



……随分と頑丈そうで、流石は評議会さま金あんだろうな~。


「ナナシぃ、俺が言いたいのは"そうなっていた可能性が有る"ってことなんだぜ?今回の件については団長もカンカンだ。世界最強さまも気を悪くしてんじゃねぇのか?」


 それは面倒だな。

 団長とは九代目フェノン騎士団長、ナインズのことだ。

 そして世界最強さまと言うのは恐らく。

 否、十中八九。カミサキ・サテラの事を指す。


「・・・・・・」


 俺は口を紡いだ。


「だんまりか。何にせよ、今のところてめぇは人殺しだ。……自分の口で答えろ、何が有って、何をしたか。」


――すぅ……。


「嫌だ。」


「――WOW!!反抗期ッ!!? ――困ったなぁ、オイ!このままじゃ拘束したキャラバンを重要証拠として取り押さえ……」


「――分かったよ! 分かったチック、話せばいいんだろ。」


「分かればヨロシだ、ナナシィ。」


 チックは手を叩いて大きく頷いた。

 いちいち挙動のうるさい奴である。

 俺は、机の上に置いたメモを手繰りよせるチックを待たずに、

 ジマ岩窟崩落事故についての話を始めた。



・・・・・・・


「第二層の中腹だったか。クラン・エドガーのワイリー・スペンサーという冒険者が死んでいた。確定的だったのは他殺体だったこと。気掛かりだったのは背後を突かれていたところだ。死体は出口へ向かうようにして倒れていた。例えばそれは逃げる背中を追撃したような、あるいは不意打ちしたような。」


「……氷塊魔法。確かにワイリーの遺体には背中から腹部にかけての穴が有った。」


「10人以上の中隊で一人だけ、かつ帰路に背中を一撃。氷塊魔法。まぁ、ここまでは単なる不審死でしかない。繋がったのは崩落現場のとある死体だ。俺たちのクラン証書を偽装した、今回の犯人と言える青年クランの代表者の死体。」


「ふむ。」


 チックは顎を撫でながらメモを残していく。


「身体の主要部を潰されたあの死体を見て、俺は憑依呪法によるスワップを勘ぐり始めた。」


「憑依呪法には自身への呪いの刻印と、標的への接触が必要になる。どうしてそれが可能だと思ったんだ?」


 確かに分からないことは多い。

 しかし真相を暴くために必要なのは全容では無い。

 消去法で炙り出される証拠パーツだ。


「それは分からない。ただ方法や過程は重要じゃない。仮にもクラン・エドガーは年季の入った部隊だろ。そしてジマは彼らのホーム。それをエドガー本人であれば、最悪の被害状況へ拡大出来たし、ワイリーの死も狙い得た。決定的だったのはキメラの死体だ。氷塊で穿たれた一つは紛れも無くエドガーの放ったものだった。」


 それに砕いた石のことも有る。

 あの「石」はフェノン騎士団の収集対象だ。

 何も知らない筈がなく、 

 確たる証拠になっていることに相違は無いだろう。


「ワイリーが殺された理由は何だ。まぁ考えられるのは憑依呪法に気付いたとか、キメラ化を見られたとか、キメラ同士の談合を見られたとかそんなところ。如何せん奴らは仲間を殺してまでも信頼を勝ち取ろうとしていた。正に狂気的。そして狂信的な目的はエドガーの体内に隠されていた。ご存知、封印石。」


「・・・・おぉっ、ボーイ!お口が大きいぜ?!」


「はぁ。それはお前だろ。」


――もういいだろうか。


「まぁいい、最後だナナシ。」


 チックは、探るようにこう聞いた。


「人を殺したことについて、……どう思っている。」


――人を殺した、か。


 不殺とは強者の特権である。

 それ故にきっと、人を殺す日がやってくる。

 何回も何回も、非力な俺に襲い来るように。

 しかしそれは先日の事ではない。

 俺は面と向かって言い切った。


「憑依呪法に生者はいない。……あそこにいたのは、醜悪で狂気的な死念で動いていた"得体の知れない何か"だ。それはエドガーでもなく、あの青年でも無い。……俺はただ、その呪いを解いたに過ぎない。」


 事実、憑依した身体は一週間と持たずに寿命を迎えるのである。

 それ故に禁忌、それ故に呪術。

 

「ふむ。やはり魔法の知識はいっちょまえに有るみたいだなぁ、魔法使えないのに。流石は元魔法使いって所?も~と~。」


――うるせぇよ。


「そう。まぁナインズはその点を一番気にしていた。お前が肩を落としていないかってところ。さて、テメェらが意味のある行動を狙って取ったことは理解した。テメェの証言は確かに、揃えた証拠と一致している。……つまりぃ、落ち込んで無くて何よりだ。そんな暇は無えからなあ?!」


――やっぱり既に内情を把握していたか。イヤらしい連中だ。


「……落ち込んではいるさ。貴重な時間を取られた訳だから。」


 その言葉にチックは苦い顔をして、

 人差し指をピンと張り、

 高説垂れモードへと声色を切り替えた。


「オイオイぃ、ナナシ!――テメェらのやり方は何にせよ危うかったんだぜ?!それをカバーしてやったのは俺たち。分かってんのか?おーい!!ってか前から思ってたけどよぉ、お前の根っこもちとサイコだよなぁ。なんかぶっ飛んでるつーか、闇を感じるつーか、」


「あぁ。うっせうっせ。」


 俺は耳を掻きながら、そっぽ向いて受け流す。


 その時、取調室のコンクリート壁が

 ――ドゴォ!!と、驚異的な音を立てて崩れさった。


「――ううぅっわおッ!!なんにおバカ!!?」


「おっ、いた。」


 最初に見えたのはフワリとした碧髪。


「……ちょ、ちょっと君ぃ!!」


 壁の中からは戸惑った表情をした尋問官と、

 欠伸をしたプーカが顔を覗かせた。


「ふわぁ。ナナ~、腹ぁ減った~。」


 ――修理費は、要らないだろう。


「行くか。」


 俺は格子の窓が設けられた壁側に指を差す。


「……おけおけ。おけなり。おけなり山地の、味噌ラー、――メンッ!!!」


 プーカはもう一蹴り、回した踵を壁に当てコンクリートをぶち破った。


「はぁ、おいおい。頼むぜ……」


 チックは渋い顔で杖を抜き、壁に魔法を当て粛々と修理を始める。


「――そうそう、首謀は例のカルト教だ。いいなナナシ?」


 カルト、野盗、呪い、レッドクラン(犯罪クラン)、モンスター、自然災害。

 付随する殺戮の伴う怪奇現象。

 あるいはその魔法。ただ生きているだけでも、どんどん敵が増えていく。

 それが世界だし、人生なんだろうけど。


「近付くな、だろ。……分かってるさ。」


 

 俺は瓦礫に足を掛ける。

 関わらなくていいなら願ったり叶ったりだ。


「それだけじゃないさァ。そして、そんなに単純じゃない。分かるだろ?世界は今、古臭い暗黒へ向かって突っ走ってるユーノー?。……連中が上手くやれば、また大量に人が死ぬ。ワールドクエストとその因果、マウスリィのようにな。」


「はいはい。」


「――会いに戻れ、求道者に。」


 腰を曲げて杖を振るチックは、俺に目線を上げてそう言った。


「嫌だね。」


 俺は前を見て吐き捨てる。

 壁の外には木製のキャラバンが、

 陽の光を一杯に吸収して待機している。

 リザは「さっさと乗れ。」と言わんばかりに人差し指をクイクイと動かした。

 俺は抱えていた想いを忘れるように息を吸い、

 左足を前に運び、朝露に濡れた雑草を踏む。

 新たな旅路への第一歩だ。


「次はどこへ向かうんだ。」


 愛用の【蜜出しの枝】をしがみ、

 肩まで伸びた赤髪を一つに纏めながら、

 ラフなタンクトップを着たリザがそう聞いた。


「う~ん、東。」


「東のどこ?」


「東の下の方……。面白い村が有るんだ。八つの特徴的な村々が集合した共同体。何でもそれぞれの村に"気味の悪い噂"が有るらしい。名前は確か【オクタノ八村群】。」


 リザは髪留めを噛みながら、渋った顔でバックミラーを覗く。

 毎度のことだ。

 アバウトな注文で、気ままに走る。

 山あり谷あり後悔あり。

 地形を見ながら舵を取る。

 見切り発車は、最初が一番楽しい。


「情報それだけか?」


「だけ。」


「……ったく。」


 そうやって今日も、旅をするのである。






Tips

・マウスリィの大集団自殺

『これより本編では長く取り上げられない為に補足。マウスリィの大集団自殺(=マウスリィ大自殺)とはウェスティリア領マウスリィ区で起こったカルト的集団自殺であり、影響が世界的に波及した為に大量の死亡者を生み出したWQ3(=第3回ワールドクエスト)の副産物的事件。これらはスピンオフ、ノアの罪人(https://ncode.syosetu.com/n4332hz/)でも登場するユーヴサテラメンバーに深く関連する事件。

 また第三回ワールドクエストの、表には現れなかった影の"規模感"を象徴する闇深い事件であった為、これにより歴代最小規模と揶揄された第三回ワールドクエストの評価が一変される形となり、死亡者数で言えば歴代最多規模、名実ともにWQ3は最悪の事件となった。』


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