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女狐不在なれども、狸娘はここにあり!

『わゎ、なんか皆に凄く見られてるよ、クロード』

『どうやら、最後の一兵まで殺し合うつもりは無いようだな』


 時折《ときおり》、騎士骨格(フレーム)の微《かす》かな軋《きし》み音や、外部装甲の擦過《さっか》音が聞こえる中で周囲を一瞥《いちべつ》して、隣国の王と謂(い)えども援軍に過ぎない立場で取り纏(まと)めて良いのか逡巡《しゅんじゅん》する。


 やや気後《きおく》れしていると、自領優勢の状態で暫定的な停戦に応じた友軍より、小破した突撃槍(ランス)装備のベガルタL型が歩み出てきた。


『西方派遣軍第二中隊長のエックハルト・フェルダ、本隊に於いては騎士長の補佐を務めております。戦場故(ゆえ)、非礼は御許《おゆる》し願いたい』


『構《かま》わない、堅苦しいのは好きじゃないからな』


 率直な態度で続きを促(うなが)せば、少し離れた場所で擱座(かくざ)している自領の指揮官騎へ躯体(くたい)の疑似《ぎじ》眼球を向けてから、現在の指揮系統について簡素《かんそ》な説明をしてくれる。


 先《ま》ず思わぬ長距離砲撃により、領主ニーナ・ヴァレルが乗船する飛空艇 “Zeppelin(ツェッペリン)伯爵” は安全のため小都市付近まで後退、領軍の全権を預かったアインストは四本腕の巨大騎士(ナイトウィザード)に倒され、文民出身の副官は後方部隊を指揮して事後の補給や修理に備《そな》えているとの事だ。


『結果、自分が臨時的に権限を預かっているものの、敵将を討ったのは貴国の双剣遣(つか)い、差し出がましい真似《まね》はできないかと……』


 慇懃《いんぎん》な態度の裏側に責任を転嫁《てんか》する意図なども感じてしまうが、リグシア側にも主《しゅ》たる将校は残っていない様子なので、此方(こちら)から投降を呼びかけるべきだろう。


 已(や)む無(な)しと割り切って、残騎《ざんき》で半円陣を組みながら此方《こちら》の出方を窺(うかが)う敵勢に向き合えば、団長騎のクラウソラスL型から秘匿《ひとく》の念話回線が繋げられて、愛らしい外見に似合わず計算高い魔導士フィーネが囁《ささや》いてきた。


『…… なので陛下、ここは… を優先しましょう』

『なるほど、それなら国益に叶《かな》う』


『うぅ、私の幼馴染みが腹黒い、たぬたぬの狸娘だよぅ』

『ふふっ、褒め言葉だと考えておきますね、レヴィア』


 朗(ほが)らかな物腰で切り返す亜麻色髪の乙女の提案を受け入れ、臨戦態勢にあるリグシアの者達と改《あらた》めて対峙《たいじ》する。


 どの騎体《きたい》も大なり小なり損耗《そんもう》しており、当初の1/5程度《ていど》まで数を減じて劣勢となっているため、よもや断るまいと思いつつ言葉を紡《つむ》いだ。


『これ以上、殺し合いを続けるなら只(ただ)の私闘(エゴ)だ。貴君らに投降を勧める』


『…… 不本意だが、受け入れさせてもらおう』

『こっちも犬死《いぬじに》はしたくないんでね』


 ある意味で予定調和な返答に理解を示して、抑揚《よくよう》な態度で自騎《じき》の首を縦に振らせてから、偶《たま》には王らしく威厳を込めて言い放《はな》つ。


『当代騎士王の名に於(お)いて皆の身(・)柄(・)を(・)預(・)か(・)る(・)。まぁ、事《こと》が終わるまでは家族の安全もあるから、捕(・)虜(・)扱(・)い(・)だがな』


 言外《ごんがい》にゼファルス領の女狐殿を関与させないよう宣言する傍《かたわ》ら、貴重な人材を身内や騎体《きたい》ごと抱え込む思惑も籠《こ》めて、亡命オプション付きの待遇を確約する。


 迂遠《うえん》な言い廻《まわ》しに引っ掛《か》かりを覚えたリグシアの騎士や魔導士らも、銘々(めいめい)が都合よく解釈して乗騎の武器を投げ出した。


 他方、友軍の間では判断の移譲に関して、“早計だったのでは?” という空気が漂《ただよ》い始め、僚騎《りょうき》の疑似《ぎじ》眼球による視線がエックハルトの躯体《くたい》へ突き刺さる。


『うぐっ、申し訳ない、クロード王… 言い難(にく)いんだが、うちの御嬢やアインスト殿が怒ったら、口添えを願いたい』


『あまり期待してくれるなよ、舌戦《ぜっせん》は不得手《ふえて》なんだ』


 少なくともニーナ嬢に勝てる気はしないので軽くあしらい、投降してきた皇統派のグラディウスに駐騎《ちゅうき》姿勢を取らせた上、全員乗騎から降りるように指示を済ませた。


 疲れた表情の操縦者達が備え付けの昇降用ワイヤーペダルで平原に降り立つ姿を眺《なが》めながら、彼らの騎体《きたい》が潜在的な脅威に該当《がいとう》しなくなるまで待つ。


 円滑に推移していく状況を見守っていれば、警戒の目を光らせていたディノが何やら見つけたのか、改造騎ガーディアの片手を動かした。


 鋼鉄の指先が向けられた先には草葉色のフード付き迷彩外套(がいとう)を羽織った斥候兵が佇(たたず)み、此方(こちら)に無骨な信号拳銃と薄緑色の発煙弾を見せてくる。


『ゼノス団長、最低限の安全は確保されていると考えても?』

『そうだな、もう戦闘は終息している』


 短い念話を交《かわ》してからベルフェゴールに首肯させると、少しだけ見覚えのある相手は中折(なかおれ)式の特殊な拳銃に手際よく弾丸を込め、すぐさま直上に撃ち放《はな》った。


 薬莢(やっきょう)底に詰(つ)められた黒色火薬の爆発で半《なか》ば金属製の中筒が射出されると、内部にある導火線の燃焼に伴(ともな)って推薬(すいやく)の化学反応も始まり、噴気圧力に押された筒頭(つつがしら)の落下傘《らっかさん》が最高到達点で開く。


 計算され尽《つく》した時間差により、最後は伝(つた)い火が収納されている発煙剤に燃え移《うつ》って、十数秒ほど薄緑の色彩《しきさい》を空中に生《しょう》じさせた。


 有効な視認距離は4㎞ 前後であるものの、繋(つな)ぎの斥候兵を適度な位置まで出張《でば》らせているため、余程《よほど》のことがない限りは気付いてくれるだろう。


『後方支援部隊の呼び寄せですか?』

『あぁ、森の浅い部分に潜《ひそ》ませている』


 逆にゼファルス側はどうなんだと確認したら、少々言葉を濁《にご》したエックハルト中隊長は凡(おおよ)そ四半刻で騎兵隊が、半刻あれば輜重(しちょう)隊が現着《げんちゃく》するはずだと教えてくれた。


『ん~、つまり発煙弾以外の連絡手段があるんだね』

『いや、その……』


 敢《あ》えてお互い踏み込んでいないにも拘(かか)わらず、無遠慮にずばりと指摘《してき》したレヴィアの読み通り、歩兵が携行《けいこう》可能なサイズの小型念話機とか持っていそうだ。


 信号弾の系統は位置を特定されるリスクがあるので、ニーナに交渉を持ち掛《か》けて一台もらえないかと思案する。


(日本と同じく、騎士国《リゼル》の技師《エンジニア》らは模倣《もほう》と改良が得意だからな)


 密かに捕(・)ら(・)ぬ(・)狸(・)の処遇を考えているうちにも、森から出てきたアルド騎兵長麾下(きか)の部隊が先着して、ゼノス団長の指示でリグシア領軍の者達を丁重《ていちょう》に拘束する。


 それが済めば足の遅い荷馬車を有する輜重(しちょう)隊も追い付き、少し遅れてふわりと浮かぶ飛空艇の下、一般兵科に属するゼファルス領軍の各隊が順次到着した。

|º▿º*) 実は狐も狸もイヌ科です。


誰かに楽しんで貰える物語目指して、ボチボチと執筆してますので…

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― 新着の感想 ―
[良い点] 舌戦が苦手な王様 とりあえず今から悪口の練習をすればいいですね。 あと直江景継に手紙を送り付けて誘引に成功した家康の真似をするとか? [気になる点] 捕虜の扱い とりあえず収容所を作るか…
[一言] 狼もイヌ科ですん。
[一言] 狐狗狸さんですからね 揃ったら呪われますかね
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