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決着、小都市ベグニッツ近郊の戦い

『傍観するしか無いのが口惜しい、せめて一太刀と思わなくもない』

『もうベルちゃんが限界だからね。勝手に()()()()とか始めてるけど……』


 若干、引き気味なレヴィアの指摘に騎体へ意識を移すとフィードバックにより、凝固状態にある魔力液の瘡蓋(かさぶた)(おお)われた脇腹や左剛腕の損傷部分に名状し難い熱量が宿(やど)り、治癒時の痛痒(つうよう)感が生まれていたのに気付く。


 言われてみれば微細な速度であっても回復現象だと認識できるあたり、双子謹製(きんせい)自律(AI)式魔導核に毒されたベルフェゴールは “機械仕掛けの魔人(マギウス・マキナ)” に近づいているのだろう。


『古代エルフ族が編み出した制御技術は凄いな』

『ん~、原型たる(オリジナル)機械人形(・マキナ)を開発した種族だからね』


 疑似妖精(ホムンクルス)を錬成する術式の系統などと(うそぶ)き、ミア&ミラが自慢していた姿など思い出しつつ疑似眼球の倍率を最大限に高めて、一足先に撤収して小さな点となっていく敵砲撃騎の生き残りを見遣(みや)る。


 その動作を受けて此方(こちら)の盾となるべく、(そば)(はべ)っていたゼノス団長のクラウソラスL型から、亜麻色髪の魔導士フィーネが落ち着いた声音を響かせた。


『陛下、私はまだ一度も搭載魔法 “ストーンヘンジ” を使っておりませんので、仮にさっきの騎体が補給を受けて有視界戦闘の圏内に戻ってきても、皆が()()する時間くらいは義父と共に稼いでみせましょう』


『リゼルの団長騎が殿(しんがり)を務めるのはどうかと思うが、当てにさせて貰おう』

『ははッ、適材適所ってことだな』


 まさに常在戦場を体現しているのか、普段と変わらず呵々(かか)大笑した御仁や健勝な騎士らに護衛を任せて、敵勢の指揮官が搭乗していると思しき新型のグラディウスを獲物と定め、鋭く斬り込んだ双剣仕様のベガルタへ視線を転じた。



 レインとザックスが駆る近接戦闘に特化したスヴェルF型の二騎を露払いにして、首級(しゅきゅう)を取りに行った月ヶ瀬兄妹(ルナヴァディス)の騎体が振るう右手の長剣に(ひる)むこと無く、()()()は左腕のシールドバッシュにて剣戟を弾き飛ばす。


 重い衝撃を(ぎょ)しきれず半身が外側へ流れた隙に乗じ、残る右腕で鉄剣の刃先を鳩尾(みぞおち)へ突き立てるも、妹想い(シスコン)な騎士ロイドは左手に把持(はじ)させている短剣で軌道を()らした。


『やるなッ、だが!!』


 啖呵(たんか)を切ったリグシア領の騎士長が()え、新型騎を一歩踏み入らせて、縦に長いアームシールドの縁爪(ふちづめ)胸郭(きょうかく)装甲へ叩き込んでいく。


 まともに喰らえば最愛の妹魔導士を道連れに即死、長剣で受ければ圧し折れる一撃も初動から先読みしていたのか、銀髪碧眼の騎士は悠々とベガルタを後方へ跳躍させて躱した。


『ッ、噂通りの炯眼(けいがん)だな、騎士国の双剣遣い』

『貴方も(あなど)れませんね、ヴァルフ卿』


 もし、人違いなら恥ずかしいなと逡巡して掛けた言葉に応じるかの(ごと)く、左腕の盾裏に隠しながら右腕を腰元へ伸ばしていた新型騎により、火薬の詰まった補助兵装のクラッカー二本が(まと)めて投擲される。


『兄様ッ!!』


 短い会話で意識を()らした上、何気ない素振りで繰り出してきた老獪な攻撃とエレイアの警鐘に突き動かされて、ほぼ反射的に照準を合わせて(かざ)した乗騎の左袖下(そでした)から、凝縮魔力の爆散によって特製の改良型(ミスリル40%)ワイヤーアンカーが飛び出した。


 その切っ先は直線的な緩い弧を描く手投げ榴弾の片方に(かす)り、剛糸を一瞬で伝う雷属性の魔力に過熱された火薬が爆散して、もう一つと諸共に閃光や大量の小鉄球を()()らす。


『ッ、これも(から)め手か!!』


 他兵科への使用を前提にして、“如何に効率よく殺傷するか” という概念に基づいた武器ならば直撃しない限り、巨大騎士(ナイトウィザード)の装甲を貫通できないが、存分に()(てら)った目眩ましとなる。


 細めた瞳で両手持ちした得物を振り上げる新型騎など捉え、()めの一歩と同時に落とされた刃金(はがね)をベガルタは鉄剣二本の交差防御で辛くも凌いだ。


『騎体で()()()()()を殺す武器とか、最悪です』

『戦争に綺麗事なんて若いわね、御嬢さん』


 背筋を寒からしめたエレイアに対して、リグシアの魔導士フィアナが(あざけ)り含みの揶揄(やゆ)を投げる(かたわ)ら、このまま押し切ろうと人工筋肉を(たぎ)らせたヴァルフに(あらが)い、騎体の膂力(りょりょく)を瞬間的に上昇させたロイドは迫る剣身を僅かに押し返す。


 その直後に力を緩め、刹那の早業で左脇の外へ受け流して、無防備になった新型騎の腹部へ右手の長剣を一閃させて切り裂いた。


 (あか)い魔導液を噴かせたグラディウスMr-Ⅱが後退するも、好機を逃すまいと月ヶ瀬兄妹(ルナヴァディス)の騎体が()(すが)り、低い姿勢から突き上げるように左手の短剣で胸郭(きょうかく)装甲を穿(うが)つ。


『がはッ、済まな…い…フィア……』

『しょう、が……ないわ、ね』


 打突の間際に回避を(こころ)みた事から、即座の死だけは(まぬが)れた二人が最後に言葉を交して息絶え、彼ら専用の巨大騎士(ナイトウィザード)も魔導炉を止めて眠りに()いた。


何か思うところがあったのか、勝利した側の妹魔導士がぼそりと呟く。


『万一があっても、私には謝らないでくださいね』

『あぁ、代わりに感謝でもするよ』


 果たして落命の最中に可能なのかは棚上げしておき、(もた)れてきた騎体を払い除けつつも、大音量に調節した外部拡声器より銀髪碧眼の騎士が雄叫びを響かせる。


 主副の指揮官を討ち取られ、数でも劣勢となっていたリグシア領軍の残党は攻撃の手を徐々に止めていき、ゼファルス領軍の騎士達も意図を()んで退()き下がった。


 先程までの喧噪は何処へやら、双方ともに決定権を持つ者が撃破されているため、微妙な沈黙が一分以上も続いてしまう。


 もはや敵味方関係なく、自然と各騎の視線はこの場で一番偉いと思われる騎士王の乗騎ベルフェゴールに集中していった。

書いてる筆者すら長かった野戦もこれにて終幕、帝国の内紛は続きますけどね(*º▿º*)

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