持つべきものは親友だね By レヴィア
『くッ、不覚を取りました。やりますね、ザックスさん』
『…… まだ、後輩には負けられんよ』
搭載された拡声器で一言掛けてから、寡黙な騎士は突き付けているハルバードを引き上げ、騎体の右腕一本で垂直に石突を接地させる。さらに白色の腕部装甲に覆われた左腕を差し伸べ、レイン達の四番騎に手を貸して立たせた。
それに合わせてスヴェル三番騎の動力制御を担う魔導士リネアも負かした相手を気遣い、少し遠慮がちに話し掛ける。
『二人とも、大丈夫?』
『はい、打ち身程度ですから』
『僕はあちこち痛いけどね……』
若干の恨み節を漏らした少年魔導士に苦笑したところで、双子エルフ達の属性魔法 “ウィンドボイス” に乗ってジャックス班長の怒鳴り声が響き渡った。
「お前らッ、人の話を聞けよ、慣らし運転なのに遠慮無くやりやがって!」
「うぅ、思い切り転倒した四番騎は脚部点検が必要なのですぅ」
「仕事はあるに越した事がありませんけどもッ!」
何処か悲し気なミアと可愛らしく怒るミラ、近くに歩み寄ってきた整備兵らを騎体の疑似眼球に捉え、クラム家の御令嬢よりも先任のザックスが気まずそうに詫びるものの……
既にリヒティア公国で修理されたクラウソラスは後任騎士へ引き渡しており、有事の際は試験操縦士も兼ねて騎種転向したばかりのスヴェルF型を駆るため、早いうちに慣熟しておきたいのは事実だ。
(実際、次の戦闘は近いだろうな)
やや思案して帝国領の方角に騎体を向けると、身体の各部位と繋がった人工筋肉に含まれる神経節を通じて、不安気なリネアの感情が流れ込む。
前回の戦闘では騎体を大破させた手前、心配するなとは口が裂けても言えないが…… 何かと世話をしてくれる彼女の為にも精進しようと心に刻みつつ、ザックスは巨大騎士の片膝を突かせた。
駐騎姿勢のまま片手で胸部装甲板のロックを外して開き、操縦席を護る人口被膜も相棒の魔導士に解除して貰った後、一緒に騎体から降りて整備班に引き渡す。
少し経てば対戦相手のレイン達も地上に降りてきたので、先の模擬戦に関する意見を互いに交していった。
こうして勤勉な騎士達が研鑽の日々を過ごす傍ら、幼馴染に配慮して残留したレヴィアが暇を持て余している内に騎士王の帰還と相成る。
なお、先触れの準騎士が魔術師長の執務室へ報告に来た際、偶々居合わせた彼女は城郭内の馬繋場まで赴いて馬車を待ち、近衛兵が開いたドアから降りてくるクロードとイザナに駆け寄った。
嬉しそうな様子で細い両腕を大きく広げ、双方諸共に抱き締めて声音を弾ませる。
「お帰りなさい、二人とも!」
「ちょ、レヴィア!?」
「ッ、相変わらずだな」
居城に到着して早々、何故か三人で抱き合う羽目となり、俺は馬上のライゼス副団長から冷やかな視線を、ゼノス団長からは生暖かい視線を向けられてしまう。
甘やかな香りと柔らかい感触は名残惜しくとも、態とらしく神経質な壮年の騎士が咳払いするので、約半月振りになる赤毛の少女をやんわりと押し返した。
「済まないな、戯れ合うのはもう少し後だ」
「む~、クロードが冷たいよぅ」
「ふふっ、私なら歓迎ですよ!」
「うぅ、やはり持つべきものは親友だね…… ひしっ」
自ら効果音を声に出して、ぎゅっとイザナに抱き付いたレヴィアが此方を窺い、何やら構って欲しそうな仕草を露骨にしてくる。
所謂、誘い受けの状況ではあれども呆れ混じりに右掌を伸ばし、丁度良い位置にある頭を優しくポフってやった。
「よしッ、勝った♪」
「…… 勝ち負けとかあるんだな」
微妙な敗北感により密かな溜息を零せば、くすりとイザナが表情を綻ばせる。
自然な所作で身体の向きを変えた彼女は控えているサリエルと近衛兵達を見遣ってから、再び俺達に向き直った。
「此処に留まっていたら皆動けませんし、ブレイズ卿を待たせる事にもなります」
「あぅ、ごめんなさい」
「…… 至極正論だな」
ただ、冷静に考えると本人の娘が足止めしている以上、帰還の報告が遅れるのはやむを得ず、不可抗力の範疇だろう。
されども皇統派貴族の次男坊と劇場で密談した翌日、口堅い近衛兵を二人ほど見繕って中核都市ウィンザードに向かわせた事もあり、女狐殿からの親書が飛翔系使い魔にて空輸されている筈なので時間は惜しい。
(さて、どう転ぶか……)
幾つかの状況を想定しながら、主副の騎士団長らと共に廊下を歩み、謁見の間に続く仰々しい扉を開けた近衛兵達と別れて室内へ踏み入る。
そこに待機していた御仁の前を通り過ぎ、品質の良い玉座に坐して脚を組んだ。
少しの間を空けて傍にイザナが寄り添い、少しだけ低い下段に重臣達が陣取る中…… 懐から書状を取り出した魔術師長のブレイズが怪訝な表情を娘に向ける。
「レヴィ、席を外しなさい」
「あはは…… うん、分かってる」
適切に空気を読んで離脱したフィーネと異なり、流れで付いてきてしまった赤毛の魔導士がそそくさと撤収し、扉の裏側で “どうして止めてくれないのッ” と理不尽な怒りを幼馴染にぶつけているのが聞こえてきた。
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