たかがエルフ如きの好きにはさせない!
ゼファルス領より派遣されている教導技師達から、領主令嬢の風貌を聞かされていたらしく、いつの間にやら傍まで来ていたミラが長い笹穂耳をぴこつかせて呟く。
「ふっ、この騎体はもう、貴女の知っている “ベルちゃん” じゃないのです」
「私の最高傑作が暗黒面へ堕ちたみたいに言われてもね。何、このエルフ?」
やや苛立たしげな女狐殿を気遣うことなく、留まることを知らない双子の片割れが慎ましい胸を張り、黒銀の騎体へ向かって片腕を広げた。
「AI式魔導核の影響で徐々に再構築された全身の骨格や人工筋肉、専用魔導炉の獅子心王に至るまで、もはや外殻の内側は別物♪」
「多分、然ほど遠くないうちに失われた “機械仕掛けの魔人” の複製体になるかと、過去の大戦後に回収された獅子核を流用しましたから」
妹を後追いしてきたミアの言葉通り、整備に関わっている一部の技師しか知らないことだが、俺達の乗騎には古代エルフ族の遺物が内臓されている。
隠れ里に眠らせていても仕方なく、躯体が無いのは可哀想だという話になって、大森林のエルフたちと盟約を締結する際に自国へ貸与されたのだ。
(物置小屋で千年以上も燻っていただけに、昂ぶり易いのが玉に瑕か……)
動力制御を担うレヴィアの負荷が増え、俺も少なからず影響を受けて血気盛んになってしまうため、ベルフェゴールに搭載された疑似人格が好戦的なのは考えものだと溜息する。
一方、説明にかこつけた双子エルフの自慢を聞かされながら、大人な態度で受け流していたニーナは草地へ仰臥させている騎体に触れ、外部装甲の破損箇所から淡く明滅する人工筋肉を覗き込んだ。
「ん~、自己修復すると言っても、素体の範囲に限定されるのね」
「魔導核に直接関係しないので、武装とかは対象外なのです」
「壊れた左腕も地道に修理するしかないのです、うぅ」
「えっと… 次の戦いには間に合うんだよね?」
素朴なレヴィアの疑問に双子姉妹が眉間へ皺を寄せ、揃って首を左右に振る。
折り畳まれた骨格部分を延長させるバースト機構も損壊しているようで、隠密性と機動性を優先して絞り込んだ携行物資では頑強な装甲も含め、完全な修理は困難だと断言されてしまった。
「何とかできないのか、ニーナ殿?」
白兵戦に於いて、攻守兼ね備えた切り札を失うのは御免被りたいこともあり、元来の開発者に駄目もとで視線を投げると、彼の令嬢は満面の笑顔で豊かな胸を反らす。
その蠱惑的な姿に赤毛の少女やエルフ娘たちが向けた羨望の眼差しを受けながら、どや顔のまま嬉しそうに大見得を切った。
「ふふっ、こんな事もあろうかと! 試作段階でお蔵入りになった “有線式バーストナックル” を持参してきたの!!」
「はぅ、それって……」
「今度は拳が千切れ飛んでいくのか、鬱だな」
漸く左腕の関節が抜け、骨格ごと勢い良く伸びる躯体経由のフィードバックに慣れたかと思いきや、更なる苦行を言い渡されて片頬が引き攣ってしまう。
ただ、既にニーナの心中では腕部換装が決定事項となっているため、伝言を預けた侍従兵の少女を自領の野営地へ走らせてから、出向組の技師らと合流して左腕を取り外しに掛かった。
「ちょっと、勝手に何をするのです!」
「無遠慮に触らないでくださいッ!!」
「むぅ、この子を鍛造したのは私よ、たかがエルフ如きの好きにはさせない!!」
転移時に時空の裂け目へ落ち、瑞々しい肉体のまま膨大な主観時間を過ごした彼女の稚拙な啖呵に煽られ、少なくとも200歳越えの長命種達が熱くなるという、年甲斐のない絵面には頭痛を禁じ得ない。
「こっちの意見とか、ちっ~とも聞いてくれないんだね」
「幾つか、確認すべき事柄もあるんだがな」
若干、困惑気味なレヴィアと巻き込まれないよう小声で囁き合い、女狐殿と栗鼠姉妹の不毛な争いを観戦していたら、背後より見知った気配が近づいてくる。
微細な足音や歩幅、この状況下で話がありそうな人物などを踏まえて、直感で当たりを付けるという芸当に過ぎないものの… これが結構、馬鹿にできないほど的中するあたり、自身の感覚は鋭くなっているのだろう。
緩りと身体の向きを変えて、困り顔のジャックス兵長と摺り寄ってくる新任騎士のリタを迎えた。
「お二人とも、お疲れ様です」
「あぁ、傷は… フィーネに治療してもらったのか」
「はい、凄いですよね、大地の癒し」
「ん、私もよくお世話になってる♪」
幼馴染みが褒められて上機嫌な赤毛の少女を生暖かく見守ってから、機械油の匂いを纏わせた整備兵長が頭を掻き、此処まで来た用件を切り出す。
「騎士王陛下、拿捕した皇統派のグラディウスをくれと、リタの嬢ちゃんが煩いんだ。取り敢えず、魔導士登録を変えて構わないか?」
「そうだな、擱座しているクラウソラス二番騎の補充に当ててくれ」
「やったッ、ありがとう御座います! 陛下、大好き!!」
小さく拳など握り締めて跳ねる軍校時代の学生気分が抜けてない少女騎士に加え、損傷が酷い三番騎の組を乗り換えさせるように言付けた後、複数の準騎士や準魔導士を昇格させて残りの鹵獲騎に宛がう方針も伝える。
それを実戦投入するか否かは別として、此方側で運用可能な状態に保っておくのは必須であり、純粋に仕事量の増えた移民系米国人はがっくりと肩を落とした。
ロケットパンチには浪漫があるのです(*º▿º*)
誰かに楽しんで貰える物語目指して、ボチボチと執筆してますので…
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