願わくば仁義ある戦いを……
高貴な淑女を送り届けるが如く、帝国式の軍服にゼファルス領の徽章を付けた準騎士数名が割り込み、僅かに遅れて窈窕たる女狐殿が姿を晒す。
慌ただしい野営地の風景にそぐわない、艶やかなドレス姿で衆目を集めながら、優雅に一礼してあざと可愛いく小首を傾げた。
「少し大きな声が聞こえたけれど、何か問題でも?」
「………… 分かってて聞くなよ、“満を持して” 出てきたんだろう」
「あら、つれないわね、物事には手順というモノがあるのよ。ねぇ、レヴィア」
「うぐぅ、突然こっちに振られても……」
若干の困り顔で狼狽える赤毛の魔導士娘にくつくつと笑ってから、うちの相方を揶揄いにでも来たのかと、胡乱な視線を投げていた俺に正対する。
先程まで煩くしていたリグシアの将校が沈黙する傍ら、喰えない領主令嬢はにこやか態度で言葉を紡いだ。
「クロード殿、お困りなら私が引き取りましょうか? 例え恭順的な者達でも、強く反駁する輩がいれば心を惑わされてしまうものよ」
ちらりと此方が揉めていた相手を一瞥した後、ゆっくりと他の投降者らも順繰りに見渡す。
尤もな指摘だと判断して、念のため近場に控えていた副騎士団長のライゼスを窺い、致し方ないと頷くのを視界に収めて言質代わりとした。
「別に構わないが、取り付く島もないぞ」
「良いわ、自分で説得するから」
さも簡単なことのように宣言したニーナを嘲笑い、囚われの身にも拘わらず、小馬鹿にした様子で件の青年将校が異議を挟む。
「時間の無駄だ、ゼファルスの女狐は噂よりも愚かしいな」
「じゃあ手っ取り早く、貴方の魔導士でも人質にさせてもらうわ」
「ッ、手段は選ばないというわけか」
「それで有能な麾下が増えて、命の取り零しが減るならね」
重い溜息を吐き、為政者たる令嬢は全体像を掴む目的なのか、敵味方問わず数えていると思しき、今回の戦闘に於ける死傷者の人数を皆に告げた。
大小様々な異形どもを対象にした殲滅戦と違い、人間同士の諍いは各勢力の代表らが巨大騎士で雌雄を決する傾向もあり、動員されている兵卒の規模に比べて言及された数字は小さい。
それでも、個々の命を軽んじる事などできないため、この場に集った騎士や兵卒らが厳しい様相となる中で、まつろわぬ捕虜を彼女の怜悧な瞳が射抜いた。
「恨むなとは言わないけど、怒りと憎しみが戦う理由になっては絶対駄目、武器を取るのは “より良い明日” の為だけになさい。不可避な争いで壊した分だけ、多くを積み上げるの」
「…… 闘争に関わった者の責務か、切実だな」
自身が諫言されているような心持ちとなり、俺も散り果てた命の為にできることを省みていれば、暫時瞑目していた若い将校が寄り添う魔導士の少女に小突かれ、重い瞼を上げた。
その面構えからは剣呑さが減じて、幾分か冷静になったようにも見える。
「“救世の乙女”、貴様の進む先に大義があると?」
「鬱々しない程度に善処する所存だから、私に従いなさい」
「レオナルド・ベルシュトルフだ。先ずは虜囚の立場から、見極めさせてもらう」
「じゃあ、人質の私もレオと一緒に宜しく」
どさくさに紛れて、“しゅたっ” と手を挙げた小柄な魔導士を見遣り、一度朗らかに微笑んだニーナが名前の発音的にバルディア人、元々の地球ならイタリア人の血が混じっていると思しき青年に頷いた。
なし崩し的に双方の合意が済んだことで愚直なリグシアの将校や、複腕騎の所有権がゼファルス領に移り、主命を受けた準騎士らの手で二人は隣接する友軍の野営地まで連行されていく。
その背中を見送る騎士国側の軍門に降った捕虜達にも、抜け目のない女狐殿が悪びれずに粉を掛ける。
「こっちに移りたい人、今なら歓迎するわよ?」
「いや、舌の根も乾かないうちに鞍替えはしたくない」
「帝国騎士の沽券に関わるからな、遠慮させてもらおう」
流石に身の置き所を二転三転させるのは不本意なのか、複数名が口籠ったのを見計らい、露骨に一歩進み出た壮年の御仁も負けじと釘を刺す。
「彼らは既に此方が受け入れている。過度な干渉は止めて頂きたい」
「ふふっ、単なる冗談よ、ライゼス卿。それより……」
さらりと微笑で躱した令嬢は不意に俺の瞳を覗き込み、俄かに姿勢を糺した。
それに釣られて意識を引き締めれば、丁度良い機会だからと “戦争に対する見識” を詰問される。
取巻きの騎士や兵卒らがいる手前、曖昧模糊な返答をすることもできず、少し不安そうなレヴィアに軍服の裾を摘ままれながら、自身の内面と向き合った。
位相が異なる並行世界の地球に迷い込んでからの経験を辿り、行き着いた先は呆れるほどに武骨でしかない。
「極論、問題解決の一手段だな。物事の善し悪しは後世の道楽にされるとしても、譲れない何かの為に刃を振るうのみと割り切っている」
「つまり、相争う当事者に帰結するわけね」
「純然たる力に貴賎がない以上、遣い手側の問題だろう」
背負い立つものは重いなと、無難に纏めたら及第点は越えていたようで、柔らかい表情になった領主令嬢が微苦笑を浮かべて、近しい距離まで歩み寄ってくる。
「貴国の協力に感謝します、お陰で人的損害を抑えることができたわ」
「一応、先払いで技術供与の報酬を受けているからな、もう少しだけ付き合おう」
「ん、御礼と言ってはなんだけど、ベルフェゴールの整備を手伝わせてもらえる?」
「それは有難いんだが……」
鞄持ちならぬ、工具箱持ちなど従えた相手を邪険にできず、双子エルフ率いる整備班が陣取った作業場へ案内するも… 燃料の魔力結晶を喰い散らかして、遅々たる速度で勝手に自己修復していく、変わり果てた騎体に彼女は愕然と佇んでしまった。
|º▿º*) いつの間にか、心血注いで製作した騎体の心臓部が別物になっていたという……
誰かに楽しんで貰える物語目指して、ボチボチと執筆してますので…
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