護衛を拒む男・8
ドラゴン姿のエィちゃんはとても目立つので、小さな鳥の姿に変化させてもらった。見た目だけは。勿論、防御も完璧だ。もしもの場合のモンスターペアレンツになるディリィエットが出てこれる魔法陣も崩さない防御壁。私が怪我をしても怒るので、私も気を付けなければいけないのだ。
ライちゃんが怪我を負った場合は、私が切れてしまいそうだけど。
「イシュ。イディ。行くぞ」
3人ともマントを羽織り、リュックを背負う。兄弟3人組で旅をしている設定だけど、同じような色彩に変化している為、本当の兄弟だと言われても違和感は全くない。
ただ、相変わらずドランツ殿の眉間に皺がくっきりと刻み込まれている所を見ると、この人って実は苦労人じゃないかと勝手に思えてくる。
3人で徒歩で歩くと、野盗に絡まれる回数も半端じゃないから、そういう時は眠りの魔法で全員を眠らせてから、前に進んでいく。本来なら、ドーファさんの仕込みもあったんだろうけど、初っ端で死んだと思わせているから、既に撤収しているみたいだ。
ひたすら歩いている時に、シュリとシュラ(シュリの旦那)から呼びかけがあったんだけど、それがまた物騒で……。私が怪我を負ったのなら、ディリィエットと共に殺してください、というようなお仕置きをするから、と笑顔で宣言された。
あれは笑っていた。確実に。
シュリとシュラはこの間友達になったばかりだけど、子供たちと同様に私を可愛がってくれている。
先日、シュリたちの子供10匹と体力がなくなるまで遊びつくし、10匹と一緒に眠ったんんだけど、どうもそれがシュリのツボに入ったらしい。
今では我が子扱いと、子供たちからは姉扱いされている。17歳だから、そこまで子供だとは思っていないというか、中身はそれなりだからね。
しかし、10匹のもふもふに囲まれて眠るのは、正直悪くない。寧ろ大好きだけどね。
もふもふが気持ちよくて、直ぐに眠りに誘われてしまう。
あぁ、でも大好きだなぁ。生まれる前からずっと一緒にいるから。家族というか姉弟というか。それは途中から、友達にも変化したりするけど、基本的な関係は変わらない召喚獣たち。
「姉さん」
エィちゃんが私の肩の上で警戒の声をあげると同時に、ライちゃんが声をかけてきた。
「ん」
〈きゅるるるる。うー〉
すごく嫌そうなエィちゃんは、山道ではなく、山の方に羽を動かす。
「ライツ兄さん。ルートを変えさせてもらいますね」
「どうした?」
「この山道を進んだ先に、嫌な予感を覚えました。それとエィちゃんから、山の草木をわけてでも行った方がいいと、アドバイスも受けましたし」
「……」
エィちゃんからのアドバイスに迷うのか、ドランツ殿――……そろそろさんでいいか。ドランツさんが難しい表情を浮かべて、私とエィちゃんを交互に見ると、腕を組んでうーんと唸り出した。
「今は鳥に代わっているが、そのエィちゃんとやらは何だ?」
私の召喚獣は只者ではないと思い出したのか。やけに真剣に聞いてくる。
「この子の正体は明かせません。母親と相談して、外の世界を見てもらってるだけです」
「卵を奪ったのかと思っていた」
「違いますよ。お婿さんを探して、結婚して、生まれてからまだ3か月の子ですよ」
攫ったなんて失礼な。
しかし、大体検討がついているらしい。
まぁ、卵を盗む召喚師もいるから、何とも言えないけど。
仲良しですよアピールではないけど、エィちゃんに頬ずりしたら、エィちゃんも甘えるように私の頬をスリスリとしてくれる。可愛い。本当に可愛い。ディリィと良く話して盛り上がるけど、この可愛さだったら仕方ない。
「わかった。信じる」
軽く馬車が通れる山道から、獣道がある山の方へと進んでいく。
〈きゅい〉
「うん。オープンゲート‟イッペラポス・プーラ”」
刻印からカードを呼び出し、具現させる。
馬と鹿を混ぜたような外見をしているイッペラポスのプーラ。外見通り、草食獣だ。
「うん。元気だった? この山を通りたいんだけど、人間が歩いた痕跡を消したいの」
〈では、俺が先に歩こう。妻を呼んで最後を歩いてもらうといい〉
プーラの言葉に、私の刻印が光り出して、お嫁さんのテユが現れた。
「テユが来てくれるのは嬉しいけど、子供たちは大丈夫?」
ちなみに、刻印の中は出産ラッシュである。
〈大丈夫よ。さぁ、先を急ぎましょう。エィリットも感じているでしょうけど、段々嫌なモノが近づいてきてるわ〉
「うん。わかった。ライツ兄さん。イディ。プーラが先頭を歩いてくれるから。テユは最後を歩いて、人は通っていないっていう偽装をしてくれます」
エィちゃんの声はまだ子供だから、私以外にも聞こえてしまうけど、ある程度大きくなれば、契約を結んだ相手にしか聞こえなくなる。聞かせようと思えば聞かせる事は出来るけど、面倒なのでやらない獣が殆どだ。赤ちゃんの頃から私が大切にしているライちゃんは、別格の扱いを受けているみたいだけど。
プーラとテユに挟まれながら歩いていく。プーラが通りやすいように道を広げてくれて、テユは獣道に戻してくれている。私の魔力を使っているから、こういう事が出来るようになったらしい。今の私のMPは5000.アイテムで更に5000上げているから、合計10000。皆に使ってもらっても、中々使いきれないMPだ。
私もライちゃんも、イルハとアレハに特別訓練をしてもらっているから、この短時間で破格の強さを手に入れられたんだけどね。あれは怖かったなぁ。
そろそろまたあの訓練をするのかな、と思った時は流石に身体が震えた。
その理由を感じ取ったプーラとテユには笑われたけど。
〈きゅー!!〉
突然、エィちゃんが鳴いた。
瞬時に皆で身を屈み、様子を伺う。
下の方に見える山道。そこにいるのは、数人の男たち。
「野盗もいないが、ドランツたちの死体もないんだよな」
「血の量で、あれは死んでただろ?」
「まぁな。あの量で生きてたら、化け物だ」
聞かれているとも思わずに、不用意に情報を垂れ流してくれる男たち。
ふむふむ。協力者は何人かいそうだなぁ。アイテムをそっと取り出し、スイッチを入れる。大きさは1mm程度の透明の球体。その2つが動き出し、下で話している男たちの髪の中に紛れ込む。
暫く下の方で話していたけれど、馬の蹄の音と人の気配が遠ざかると、エィちゃんが落ち着いたように、ホッとした表情を浮かべて、また辺りをキョロキョロと見だす。
いつもは異次元にいるから、こっちの景色が新鮮なんだろうなぁ。刻印の中の世界は、もう一つの世界といっても過言ではない。あそこには何もかもが揃ってる。ないのは、人の街と人ぐらい。
……召喚獣用の建物は揃っているんだけどね。本当に何でもあるからすごいけど。
何処かが違うのか、エィちゃんは相変わらず嬉しそう。
「ライツ兄さん。ちょっと聞いても良いですか?」
完全に危険が去った所で、気になっている事を聞いてみる。
てっきりドーファさんだけだと思っていたんだよね。ドランツさんを陥れようとしてるのは。けれどなんとなく、複数人が陥れようとしているように思えて、聞いてた。
どのぐらい敵がいるのか。
「……俺の敵は多いだろうな。騎士団は実力さえあれば入れる。普通の騎士団にはな」
「……ドランツさん。ちょっと待って下さい」
込み入った話になりそうで、思わずストップをかけると、ドランツさんが唇に人差し指を当てる。
「ライツ兄さん、だろ」
「はい。そうでした」
これはごめんなさい。
じゃなくて、込み入った話になりそうだから、野外用のお泊りセットのカードを幾つか取り出す。結界込みのサブホーム。大きさは手の平サイズで、気のくぼみにそれを置く。
召喚する時に見ていなかった人たちには、決して見えないお家。
結界を強化し、古の竜が踏みつぶしても大丈夫な結界と膜を張る。3枚目のカードと4枚目のカードで、小さな動物や虫を召喚して、辺りを見回っていてもらう。
5枚目のカードで門番を召喚。小さいサイズで召喚してあるけど、本人次第でサイズは変えられる。ヤマタノオロチミニバージョン。
「ダルちゃん。今日は見張ってもらっててもいい?」
頭を撫でながら、スキンシップを計る。
〈うむ。イシュの頼みだ。引き受けよう〉
「ありがとう!」
最後にギュッと抱きしめ、ライちゃんとドランツさんに向き直る。
「少し早いですが、今日はここに泊まって話し合いましょう」
「ここにって」
「大丈夫です」
初めての人はすごく驚くけど、説明するよりも体験した方が早いとばかりに、手の平サイズの家にぶつかりそうな勢いで背中を押す。すると、ドランツさんが一瞬の内に身体が小さくなり、家の中へと吸い込まれていった。




