第36話:アフター・フェスティバル ~勝利の余韻は砂の味~
「……え、マジでみんな帰っちゃった?」
俺は、土埃が舞う都の入り口で、ぽかんと口を開けていた。
さっきまで「殺すぞー!」って勢いで迫ってきてた反乱軍のおじさんたちが、俺が裏帳簿をバラした瞬間、蜘蛛の子を散らすように自分の村へ帰っていった。残されたのは、縄で縛られて「わしは知らん、妖術だ!」と喚わめいている例の翁だけ。
「海斗、貴様……。本当にただの勘でこれをやったのか?」
中大兄皇子が、愛馬から飛び降りて俺の肩をバシッと叩いた。めちゃくちゃ痛い。
「い、痛いっすよプリンス! いや、だって、俺の学校でも、裏アカがバレた奴の取り巻きって、秒でいなくなるんすよ。それと同じかなーって」
「うらあか……? まぁよい。この勝利、貴様の手柄だ」
「いやー、手柄とかいいんで、とりあえずジュース……じゃなくて、冷たい水とかないっすか? 叫びすぎて喉カラカラなんすけど」
俺がへなへなと地面に座り込むと、不比等が呆れたように水桶を持ってきた。
「貴様という人は……。歴史を動かす大一番だったというのに、緊張感というものがないのですか?」
「不比等、それ褒めてる? 緊張とか無理っしょ。俺、普通の高校生だもん。あーあ、早く現代にログアウト(ろぐあうと)して、ふかふかのベッドで寝てーなー……」
俺のぼやきを聞き流しながら、不比等は翁が落とした裏帳簿を丁寧に拾い上げた。
「……海斗殿。貴様は終わったつもりでしょうが、この帳簿の精査と、逃げた私兵たちの再登録作業、すべて手伝っていただきますからね」
「ええっ!? 残業!? 俺、未成年なんですけど! 労働基準法とかないの、この時代!?」
俺の叫びは、飛鳥の夕焼け空に虚しく響き渡った。
【今回の学習ポイント:戦後処理と新体制への移行】
・武力に頼らない平定:海斗がやったように、血を流さずに反乱を収めることは、その後の統治をスムーズにするために一番いい方法なんだ。恨みを残さないことが、新しい国造りの大前提だったんだよ。
・事務作業の重要性:戦争が終わった後は、誰が反乱に参加したか、どの土地が没収対象かといった、膨大な事務作業が待っている。中大兄皇子たちが「書記」を重用したのは、こうしたデータ管理が国の基盤になることを知っていたからなんだね。
・既得権益の解体:捕まった翁のような古い豪族の不正を暴くことで、「これからは古いやり方は通用しないぞ」というメッセージを全国に発信したんだ。これが「大化」という新しい時代への大きな一歩になったんだぞ。




