第35話:バグらせろ! ~根拠はないけど勝てる気がする~
「……いや、プリンス。俺、難しい作戦とか分かんないっす。でもさ、あのじいちゃん、隠しフォルダ(裏帳簿)のことバラされたら、絶対顔真っ赤にしてキョドると思いません?」
都の入り口。迫りくる反乱軍を前に、俺は鼻をほじりながら直感だけで言った。
「作戦ロジックではないのか、海斗?」
「理屈とかじゃなくて、単なる『勘』っす。俺の学校のダチも二股がバレそうになった時が一番声デカかったし。……とりあえず、あの木簡を棒の先に吊るして、みんなで見えるように掲げときゃ『なんとかなる』って!」
「……相変わらずデタラメですね、貴様あなたさま。ですが、その『直感』、賭けてみる価値はありそうです」
不比等が呆れつつも、部下たちに命じて証拠の木簡を高く掲げさせた。
「――おーい! 見ろー! お前らのリーダーが隠してた裏帳簿だぞー!」
俺がヤケクソで叫ぶと、進軍してきた私兵たちがピタリと止まった。
「……なっ、あれはわしらの村の収穫記録……? なぜあんなに数字が少ないんだ!?」
「リーダー、俺たちが納めた米、どこに消したんだよ!」
「ち、違う! あれは異国の妖術師の偽造フェイクだ! 惑わされるな!」
翁が必死に叫ぶけど、その声は裏返り、顔はゆでダコみたいに真っ赤だ。その「図星」な反応を見た私兵たちのテンションが、一気に氷点下フリーズまで下がっていくのが見えた。
「ほら見ろ! じいちゃん、パクって(着服)たのバレてんじゃん!」
俺がゲラゲラ笑いながら指を差すと、反乱軍の列はガタガタに崩れ始めた。難しい軍略なんていらない。人間、一番身近な「金(米)」の不正が一番効くんだわ。
【今回の学習ポイント:反乱の鎮圧と民心】
・士気の崩壊:当時の私兵は、豪族との個人的な信頼関係で成り立っていた。海斗が直感で突いた「リーダーの不正」は、その信頼関係コネクションを物理的な攻撃以上に破壊する、一番の弱点だったんだ。
・偽造ぎぞうへの疑念:文字が普及し始めたばかりのこの時代、木簡に書かれた「数字」は絶対的な権威を持っていた。海斗のハッタリ混じりの告発も、本物の木簡ログがあったからこそ、民衆には「神の審判」のように響いたんだぞ。
・個人の利害と政治:大化の改新という大きな政治目標よりも、農民にとっては「自分の納めた米がどうなったか」という身近な利害の方が重要だった。中大兄皇子たちは、こうした民衆の心理を巧みに利用して、巨大な豪族の勢力を切り崩していったんだね。




