第四十二話
戦力比が一対三の野戦である。
少数側である我々が勝利する為には、正攻法では不可能で、敵側が想定していなかった戦術を連発しなければ、逆転は困難だろう。
まずは二代将軍を狙う。関ヶ原で父上に翻弄され、遅参しただけでなく兵を消耗してしまった将軍は、汚名返上の機会を求めている。そんな時に、彼の視界に真田勢三千名が入ったらどうなるか。彼は逆上して軍を分割して、真田軍を追い駆けるだろう。真田勢を追い駆ける側に将軍を誘導するのだ。そうすれば、残っている半分も戦場で満足に動けまい。
更に井伊には真田の赤備えの騎馬一千を突入させ、混戦状態を作る。軍として機能停止状態に陥らせた後、速やかに離脱する。
以上により開戦冒頭において、真田勢四千で、敵軍の二万人以上を戦線から離脱、あるいは機能停止に追い込む。
これで戦力比を一対二.五程度に近づけた段階で、開戦としたい。
開戦の先陣を切るのは明石全登さんとなる。明石さんの部隊が大御所並びに幕府軍にぶつかる。
当然ながら明石さんの軍の方が少数であるから、奮戦するも次第に劣勢になるだろう。じわじわと明石さんは後退する局面になる。
その時、敵軍の一部が突出して明石軍に殺到した場合、秀頼公の本陣を進めて敵軍を一蹴する。大御所軍・幕府軍の守りが薄くなったところを側面から長曾我部軍が襲う。前方・側面からの攻撃に集中した隙を真田軍が襲う、という手筈である。
勿論、この三段構えの戦略が上手く行く筈はないだろう。まあ、上手く行かなかった場合の為に別の作戦も検討するし、伏兵の準備もしておかねばならない。そして兵士には当初案による練兵をしながら、いざという時に機動的に動ける訓練を繰り返した。
さて、まずは幕府軍と戦い、大坂へ遅参させる為の真田勢三千を人知れず城外に出す必要がある。軍馬・兵糧についても同様である。兵士については、大坂城から張り巡らせた地下通路によって、約十日で完了した。兵糧・武具等については大坂城に搬入する荷車を利用して、空となった荷車に載せて城外へ搬出した。軍馬については、地下通路において重傷者搬出用の通路を用いた。しかし、この通路は幅・高さ共大きいので馬の通行も可能であったが、二千頭もの軍馬を出せる訳ではない。五日間かけて五百頭を拠出した。あとの不足分については金を持たせて、現地調達してもらう事になる。
「父上、御武運をお祈りしております」
秘密裏の作戦である為、出陣の見送りはこじんまりとしたものだった。僕、秀頼公、英以江さん、佐助さんといったところであった。
「本当は十五年前に関ヶ原で大暴れしたかったのだが、縁が無かった。今回は心置きなく戦わせてもらう」
「戦いに熱中して、お主が大坂に遅参しない様にな」
英以江さんの冗談に、父上は笑いながら答えた。
「儂の狙いは息子ではなく、親父の方だからな。関ヶ原は十五年前と同じく長くはならんさ」
真田信繁は西門から単騎出陣していった。
その夜、僕は佐助さんと検討することとなった。
「佐助さん、急で申し訳ありませんが、忍びを動員して調べて欲しい事があります」
「なんでしょうか?」
「幕府が大坂に持ち込んでくる大砲について調べて欲しい」
「どういった内容を?」
「まず、何門持ち込もうとしているのか。それから、砲身の長さ、適合する弾の大きさ、砲身の筒部の厚さ等を一門ずつ調べ、射程距離と威力を推定できるまで調べて欲しい。そして調べ終わったら、関ヶ原での戦いが終わるよりも早く現地を出発し、こちらに戻って来て欲しい」
「大砲を調べて、どうされるつもりですか?」
「まずは望月さんに調べた内容をお渡しします。それで何発か暴発する弾を作り、すりかえておきます。必ずしも初弾で暴発しなくてもいいです。寧ろそれだと我々の計略だと、敵に知らせる事になりますから、我々も知らない時機に暴発する方がいいでしょう。何しろ秀頼公が城の外に出ているんです。大将が大砲にやられる訳にはいけませんが、それを恐れて頻繁に本陣の位置を変える事も出来ません」
「それはそうですね」
「それから、もう一つお願いがあります。幕府軍が関ヶ原でもし大砲を撃つ事があれば、それを見届けて欲しいのです」
「つまり仲間の死を何もせず見ろ、と」
「そうは申しておりません。我等が予測した大砲の威力が想定通りか、確認する必要があります。ですから、事前に父上達に大砲の性能を教え、どこに着弾するかを連絡しておいて下さい。警告したにも関わらずその場に父上がいたとしたら、それは父上の責任でしょう。・・・我々の予測違いで大きな被害が出ようとも、それが使われるのならば見なければなりません。さもないと大坂でもっと被害が出ます」
「・・・それでは、大坂で勝つ為には、殿を犠牲にしても仕方が無い、と言うのですか?」
「そこまでは申しておりません。・・・父上は幕府軍を大坂に遅参させる事を目的に出陣されたのです。それは間違いありません。父上にはその役割に励んでいただきたい、余計な事を考えていると戦に負けますから。だから、幕府の戦力について調べる事は、別動隊を率いて我々がやるしかないのです。・・・どうかわかって下さい」
「わかりました。・・・では、八名程派遣致しましょう、関ヶ原に」
「宜しくお願い致します」
一悶着あったが、なんとか関ヶ原での戦いの準備を整えた。
幕府軍の動向については父上にお任せして、僕は大御所や他の大名の動きについて注意しよう。
調略の成果も見られるかもしれない。




