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第三十話

淀の方の四十九日法要の後、僕は軍議の参加者を一人追加した。

千姫様である。少しでも千尋ちゃんを手元に置いて、彼女の思惑を少しでも知りたい、と言うのが本音である。彼女はもう少し先まで未来を知っている訳だから、軍議における様子や言動から、察する事が出来るかもしれない。

今後、検討する主題は合戦の準備についてである。議題としては次の三点になるだろう。

一.敵の戦力を削る。 二.味方の戦力を増やす。 三.大坂城の防御力の強化

これらを徳川に悟られずに、あるいは悟られても妨害出来ない形で実行するというのは、結構難しいと思う。だから衆知を集める必要があるのだ。


「それでは、本日の軍議を始めます。まずは皆さん、四十九日法要の件ご苦労様でした。淀の方様も安心して旅立たれたと思います。さて、今を生きる我々は生きる為に色々と考えるべき事があります。

徳川は着々と我々を滅ぼす準備を進めております。夏に行われる合戦は最早避けられないでしょう。我等はその合戦に勝つ必要があります。そしてそれが豊臣家と徳川家による単なる覇権争いではなく、豊臣家の天下に戻って、世の中が良くなったと、武士階級だけでなく市井の人々にも思われなければなりません。

そうなれば我々の完全勝利です。

この軍議はそうした世の中を作る為に、我等が為すべき事を考える場ですので、皆さん、忌憚のない意見をお願いします。

それから、本日より軍議には千姫様に参加いただきます。千姫様には徳川家の内情等について御存知の事をお話しいただこうと思っております」

千姫様が軽く会釈されたところで、僕は話を続ける。

「次の合戦は、徳川に勝ち再び豊臣の天下にする為の緒戦となります。しかし、現状は圧倒的に不利な状況です。この状況を僅か二、三ヶ月でいかに覆すか、それを皆さんと共に考えたいと思います。・・・議論がとっちらかってもいけないので、論点を整理致しました。この順に論議していきたい、と思います。

一点目は、徳川方の勢力を削る方法です。現状は、徳川が各藩に出兵を指示して、各藩がそれに応えて出兵し、大坂に集結します。この形式ですと、いくら我等が兵を増強しても、徳川はそれに応じて各藩への要求を強めれば増強出来る訳ですから、彼我の差はいつまでたっても埋まらないでしょう。ですから、この構造を壊す必要があります。考え方として大きく分けて二つあります。一つは幕府の派兵要求に各藩が応えられなくなる方法です。例えば、一揆の恐れがあるので戦力を割けない、お家騒動でそれどころではない、橋が倒壊して派兵したくても出来ない、といった感じです。これらは大藩に行うと幕府の目に留まりやすいので、小藩に仕掛けて二、三百でもいいので、こつこつ兵力を削りたい、と思います。できれば幕府が頼りにしている譜代の小藩に仕掛けたいです。二つ目は調略活動です。関ヶ原においては西軍は、東軍の毛利・小早川への調略活動により敗北しました。ですので、今回は調略活動を積極的に実施します。調略相手としては、豊臣恩顧の大大名となります。本当に調略が成功すれば有難いですが、幕府に疑念を抱かせるだけでも戦力を削る事が出来ます。しかし、これには幕府の忍びとの暗闘になるのは必定ですので二段構え、三段構えの策が必要となるでしょう。以上が敵勢力を削る方法の概略となります。他の観点からの方法もございましたら提案お願いします。

二点目は、豊臣方の勢力を増やす方法です。市中に溢れている浪人を雇うという方法もありますが、身許調査等に人も費用もかかりますし、幕府の知れる所となり、それに合わせて敵勢力が増強します。即ち、金と人を使って、敵を強くする事になりますので、この方法を有効ではありません。理想的なのは合戦開始当日に味方の戦力が増強される、というのが理想です。先程も申した通り、敵から裏切ってこちら側についてくれるのはありがたいです。ですが、それすらも徳川の手の内という可能性もありますので、地道に城外での豊臣方の勢力を作りたいと思います。恐らく各大名に呼びかけても無理だと思います。呼びかける対象を畿内の地方豪族や寺社勢力、地方の職業集団としたいと思います。これらを味方に出来れば、局地戦における優位な状況、敵兵站の混乱が期待されます。また、彼等との連携を取れる様、連絡網も確立しなければなりません。

三点目が大坂城の防衛力の強化です。現在の大坂城は内堀まで埋められ、いざ合戦が始まると、敵は天守の足元まですぐに来られる状況です。これに対してはすぐに手を打たなければなりません。内堀を掘り返す事は約定違反となり、徳川に攻める口実を与える事になります。だから、それ以外の方法で防衛機能を整える必要があります。これも三つの観点から対策の立案をお願いします。まず、一つ目は天守の耐火能力の向上です。今の構造では至近距離から大砲や火矢で攻撃されると火災になります。消化体制を整備しても高層階ですと消火は困難です。火災が起きるのは仕方が無いとしても、火が回るのを少しでも遅くする方法を検討して下さい。二つ目は敵の騎馬が殺到するのを少しでも妨害する方法です。歩兵に関しては石を落とす、矢を放つ等方法はあります。内堀・外堀と同等、あるいはそれ以上の対策を検討して下さい。三点目は脱出路の確保です。今度の合戦ではすぐに籠城戦となる可能性があります。その際に敵に捕らわれない様に、女子供や戦に関わらぬ者を脱出させたいと思います。これは兵糧対策であると同時に、最終的に責任を取る者以外を逃がす経路となります。そうならない様にしますが、最終責任者は秀頼公、英以江さん、僕の三人になります。それから、城の強化に対しては専門的な技術が必要ですので、築城に関して詳しい人を呼び寄せたいと思いますので、人選の程お願いいたします。

以上が、僕が思う徳川との合戦時の課題です。僕もまだまだ若輩者ですので、抜けている面も多々あるかと思いますので、意見・提案をお願いします。

明日より本格的論議に入りたいと思いますので、皆さん部下の方々とよく論議した上での提案をお願い致します。

以上ですが、何か意見・質問ありませんか」

特に発言もなく、散会となった。明日からどんな論議となるのか楽しみである。また、彼らが単に死にたがっているだけの者か、真剣に勝利を考えている武将なのかも明らかになるだろう。


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