94・背中のアレに心当たり
最近アップのタイミングがずれまくりで申し訳ありません。仕事終わりに正気を保てていないためですのでご容赦ください。
ピエールが調査で知ったことは、アイの背中の欠片が極めて珍しいものだということだけだった。具体的な物質名や、どんな性質を持つのかは一切分かっていない。
「私の知る物質ではない。宝石でも、人工物でもなさそうだ」
「はい…何か事件が絡んでいるのでしょうか。言語能力がその欠片と関係しているように思います」
「そうだね…それがこの子にとっての頭脳みたいなものだとしたら、その大きさは完全じゃないってことかな」
「欠片に見えますからね…別のパーツがあるとして、どこにあるんでしょうか」
「うーん…他の子にもアイみたいに欠片が与えられてるのかな。でも見たことがない。僕にできるのはキミの得た手がかりに関する調査をすることだけみたいだ」
「それが私にとって必要なことですから、これからもよろしくお願いしますね」
ピエールがグループを挙げて調査してくれていることに最大の感謝を伝えてから部屋を出ていった。
帰る途中、ルシャは飛んでいるルートがこちらに気付いたので手を振った。師匠として弟子の特訓を応援するのは当然のことだ。そのまま続けてほしかったのだが、ルートは師匠が大好きなので降りてきた。
「ミーナの父さんは何か分かったか?」
「いや、背中の欠片が珍しいってことくらいで、具体的な事は何も…」
「そっか。珍しい…宝石みたいな?」
「いや、宝石とは違うみたいだよ」
するとルートが宝石ではない珍しいものの名を挙げた。
「滓宝じゃん」
「ほう?」
ここでアイの背中の欠片が滓宝ではないかという説が浮上した。それを確かめる方法は簡単で、ルシャはアイを公衆トイレに連れ込んで服を捲った。
「?」
訝しむアイの背中の欠片は光っていない。ルシャの家で常に光っていたのはシャペシュの腕が近くにあるからということが判明し、欠片が滓宝であることが確定した。そこでルシャはもう1度キルシュ邸に行ってピエールにそのことを報告した。
「ならば欠片になっている滓宝を探せばいいんだね。調べよう」
「欠片になってる滓宝…あ!」
ここで漸くルシャは思い出した。最初からこれを疑っておくべきだったと悔いたのは、彼女に近い人間がかつてそれを所持していたからだ。
「パラディムシュヴァルヴェだ…!」
滓宝パラディムシュヴァルヴェはルシャと魔王との戦いに駆けつけたルートの持っていた剣だ。魔王の攻撃によって簡単に砕かれてしまった悲運の滓宝だが、それは消えてしまったわけではなく、散り散りになっていると考えられる。
「それをどうしてアイが背中に持ってるんだ…?」
「やっぱり事件のにおいがするね。ルートの持っていた剣について僕が調べよう。残りの欠片を回収することができればアイに変化が起きるかもしれない」
「ええ。お願いします」
進展があったのでルシャは今よりもっとアイに近づけると確信してピエールからの続報を待つことにした。
家に戻ったルシャは滓宝持ちということが判明したアイにシャペシュの腕を持たせてみた。パラディムシュヴァルヴェとは別物であるため変化が起きるわけではないが、宝珠の色によって得意魔法が判明する。
「光…」
宝珠は白く、力強く光っている。アイは魔法を使えるということだ。しかしそれはルシャにとって重要なことではない。今は何よりもアイの言語能力が残る欠片を集めれば復活するのかということと、魔王との戦いで砕けてからアイの背中に付くまでに何があったのかということを知りたい。
「パラディムシュヴァルヴェは勇者の剣で、特殊能力は分かってない…そうだ」
何者かから受け取ってから著しい変化があったか訊けばパラディムシュヴァルヴェの能力が判明する。それを確かめるために呼ぶのは、もちろんルートだ。
翌日、ルートを召喚したルシャはまずパラディムシュヴァルヴェの破片を持っていないか尋ねた。ルートは魔王との戦いで気絶したので行方が分からないと言って問いに対し否定を示した。魔法の衝撃で欠けた剣がどこかへ吹き飛ばされたと考えられるため、戦場となった王都にある可能性が高いと見られた。そこでルシャはルートにアイをキルシュ邸へ連れて行くよう頼んでから1人で王都へと発った。フランたちに相談するためだ。明日はエアレースの研修会があるので明日の午後まで戻らない。
フランが仕事中なのでルシャは警備員に話をして家に入れてもらった。家の掃除をしているうちにフランが帰ってきたのですぐにアイのことを相談した。
「…滓宝を埋め込まれた女の子ねぇ。聞いたことがないわ。パラディムシュヴァルヴェはまだ回収していない。誰かが全部の欠片を持っているのか、それとも散らばって複数人が持っているのか…とにかく中央で把握する必要がありそうね。教団みたいに悪いことに利用されていなければいいけど」
「そうだね。アイは言語能力が殆どなくて、私の言うことの一部を理解できるみたいだけど喋れないんだ。パラディムシュヴァルヴェがそれに関係してるのか知りたい。全部のパーツを集めればアイから全部聞ける」
フランはルシャが自分の許可なくアイを匿ったことについて非難せずに今のルシャに協力することを伝えた。特別な存在には常に特別なことが纏わり付くと知っているからだ。
「困ってることはない?」
「今のところ何も。みんなにも紹介して、仲良くしてもらってるよ。私が学校に行ってる間はミーナのところのお手伝いさんにお世話してもらってる」
「あ、そうなの。じゃあ安心ね…問題は、他にもアイのような子がいるかもしれないってことと、アイの背中にパラディムシュヴァルヴェの欠片を仕込んだ人がいるってこと。何のためにそんなことをしたのか突き止めないといけない。これは重大なことよ」
すべての国民は保護されるべきで、アイのような肉体改造は犯罪に当たる。調査して犯人を捕まえるために中央は警察を使うという。
「もし他にも被害に遭った子がいたら中央が保護する。ルシャはアイを守ることを意識して。滓宝を持っている限り何者かに狙われる可能性がある」
「うん。私の家の前で倒れていたのは私と一緒にいるべきっていうことを意味してるんだと思う。敵が来ても魔法で撃退するよ」
フランへの報告が済んだのでルシャは明日の研修会のためにここに泊まることを伝えて宿泊費の代わりに夕飯を作ることにした。フランにとっては僥倖で、仕事終わりにソファに座って酒を飲み始めた。
ルシャは前に会ってから今に至るまでに何かあったか尋ねた。
「教団が倒れて、私たちは残党が密かに滓宝を探していないか、あと勢力を募集してないか調べた。すごく遠いところに行ったし、外国に遣いをやって注意喚起をした。教団については国際協調するほどの大事件じゃないと思うけど、経済的なことのために国交を持つようにするわ」
旧中央は地理的な理由と国内での需給を維持するために外国との交流をしてこなかったが、今の中央は他の環境でしか手に入らないものを求めて国交を開始する意向を固めた。接触するきっかけが教団によってできたので、機を窺うことなく行動できた。
「教団は違うところに別の名前でいるかもしれないから、あの教団が完全に潰れても調査は続く。たいてい滓宝に絡んでるから滓宝を回収することによって見つけられると思うわ」
「なるほど。なんか楽しいことはあった?」
「殆どは仕事をしてた気がするけど、いつもの3人でスポーツを見に行ったわよ。サッカーもバスケも、あと野球」
大臣はVIP扱いとして間近で観戦できる。スポーツ好きの3人は仕事疲れをすっかり忘れて熱中したという。
「柄にもなくキャッキャしちゃったわよ。あんたらのことバカにできないわね」
「ダテ大臣?」
「そう名乗ろうかしら」
2人がそれを歓迎するかはさておき、子供のように楽しめているようなのでルシャは安心した。
「またみんなで集まりたいね。そしたらアイを紹介するよ」
「うん。次は夏休みかしらね」
長い休みをとれれば一緒に買い物できるので夏休みが楽しみだ。楽しみは買い物だけでなく、魔法を教えてもらうことにもある。その日が来るまでは勉強に運動に、ありとあらゆることを頑張ろうと思った。
翌日、エアレース研修会の場所に行くとルートが先に着いていた。彼はアイの背中に触らせてもらってパラディムシュヴァルヴェを握ったときと同じ感覚があるか確かめたという。
「つまりお前アイを剥いたってことか?」
「許可は得たし背中しか見てないぞ。医者が聴診器当てるみたいな感じだろ」
「それならいいけど…で、あれはパラディムシュヴァルヴェなの?」
「同じ感覚ってのは『あったらいいな』で試したんだけど、なんとなく身体に馴染む感じがしたよ」
滓宝が所持者に魔力を供給するということはその仕組みがあるということであるため、欠片であってもそれが発動したのかもしれない。
「俺は滓宝を埋め込まれたってことでアイが人間なのか疑ってるんだが、背中を見る限りでは普通の女の子っぽいな」
「いやらしいなぁ」
「確かめるためだ。俺が思うにアイは言語や思考の能力に欠けていて、誰かに常に見守られている状態で育ってきた。その人がある程度成長したアイを利用して何かをするために背中に埋め込んだんだ」
「陰謀があるということか」
「ああ。児童養護施設みたいなところなら子供を言いなりにできる。育てている人のことを主と思うなら、どんな命令にも喜んで従うだろう」
ルシャは人間と滓宝とを融合させて最強の魔法使いを作れば世界を支配できると考えてそのことをルートに話した。すると彼は施設の人が偶然にパラディムシュヴァルヴェの破片を拾ったあとでアイに埋め込んで試作機としたのだと推理した。
「アイが並外れた魔法使いだとわかれば、パーツを追加してさらに力を増やす。パラディムシュヴァルヴェ1つ分の強化でもはや誰も手をつけられないほどになるだろう。何故ならあの剣は極めて濃い魔力が封じ込められていたからだ」
アイが暴走してルシャたちを傷つけるようなことがあるかもしれない。悪い予想をした2人は強力な魔法使いにアイを見てもらうべきだと考えたが、候補が全員忙しかった。
そこで思いついたことが、アイを登校させるということだった。ルシャと同じクラスになれば何かが起きてもルシャがすぐ気付けるし、ルート、リリア、ノーラン、プリムラという最強クラスの魔法使いが加勢できる。最も対策が万全なのは自宅でもキルシュ邸でもなく、勇者学校だったのだ。
研修会を終えた2人はアイを学校に通わせるために必要なものを買いに王都の店に入った。
「制服は学校から買うしかないけど鞄とか筆記用具とかは買えるよね。あ、でもアイが気に入るかどうか…」
「嫌ならジュタで一緒に買えばいいだろ。とりあえずだよ。気に入ってもらえたらそのまま使ってもらえばいい」
「そうだね」
ルシャは鞄や靴、文房具を買ってからジュタに戻った。
お手伝いさんから変わったことがないという報告を受けたルシャはアイに学校セットを渡した。
「私はもっとアイと一緒にいるべきだと思うんだ。そこで学校に通ってもらう。これがキミのだよ」
「…?」
「大丈夫。私が隣にいるし、先生も分かってくれる。私から話をするから、それまで待ってて」
「うん…」
不安なのか、アイはルシャに寄り添って気を引いた。そこでルシャは学校の様子を絵に描いてアイに見せることで不明な情報を減らそうとした。
「……」
ルシャはアイの言いたいことがなんとなく分かるようになってきた。今のアイは自分がルシャと同じようにみんなと仲良くできるか不安だということを訴えている気がする。
「何も心配しなくていいよ。私の隣で先生の話を聞いてればいいだけ」
どれだけ説明しても実際に体験させることには劣ると思ったルシャは校長に相談するときにアイを連れて行って学校の雰囲気を感じさせることにした。
今回はアイちゃんの背中の欠片が滓宝ではないかという話でした。滓宝か否かは極めて重要で、ルートくんがそれを教えてくれたのになかなか評価は上がりません。何故ならルートくんだからです。




