87・プロを目指すということ
お馴染みの理由で遅れました。すみません。2話あげます。
ルシャはある人物から相談を受けた。
「まあ、いいけど…深く追求しても多くは得られないと思うよ?」
「それでも私は知りたいです。知ってからリオン先輩と1対1で話をしたいです」
ある人物とは、中学生の頃に女子サッカー大会で優勝したときのキャプテンを務めていたマリア・セルニコラという1年生だ。彼女はリオンというスポーツの得意な生徒がこの学校にいることを人づてに聞いて彼女の事を知ろうと思っているようだ。いきなり会うのではなくルシャを介せばスムースに進むだろうということで、まずはルシャにリオンに関する情報の提供を求めたのだった。
ルシャはリオンについてダテの部分しか知らないため、彼女が1人の時に何をしているのかを知らない。しかし常に良い成績を出すということは極めて難しいことなので、過酷な特訓をしているとは想像できる。その想像が正しいのか確かめることで、マリアに正しい情報を伝えられる。彼女はリオンに取材を申し込んだ。
「何もかも曝け出したつもりだったけど…まあくっついてくるくらいならいいだろう。たまに弟がいるかもしれんけど、邪魔なら帰すから」
承諾を受けたので1日密着取材をすることになった。起きたときから取材が始まるのでその瞬間を逃さないようにルシャは前日に入ったリオンの部屋で泊まった。
朝7時半…休日は平日より少し起きるのが遅い。キルシュ・グループから贈られた高級ベッドでの快適な眠りから目を覚ましたリオンはまず歯を磨いた。
「歯が脆いとさ、競り合いとかで食いしばったときに欠けるんだよ。だから歯はかなり強く意識してるね」
強さの秘訣は習慣にある。時間をかけて細かく磨き終わると、着替えをするから一旦退室しろと言われた。トレーニング用のジャージに着替えた彼女が理由を説明する。
「人は寝てる間に汗をかくんだ。汚いってほどじゃないけど、常に清潔であるためにパンツも替えるよ」
「そうなんだ…枚数多くないといかんね」
「夜用のとかあるよ。めっちゃ地味なやつ」
「私とお揃いじゃん」
あまり嬉しくなさそうなリオンは朝食の準備へと移る。
両親は朝早くから仕事に出ているため、自分の分は自分で用意する。
「朝こそガッツリだというので肉食べます。私は普通の人より消費カロリーが多いので、摂取も多くしてるよ」
300グラムのステーキと半熟卵2つ、サラダはレタスとカニカマと細かく割いた鶏ササミだ。蛋白質多めのメニューに加えてバナナヨーグルトをあっさりと食べ尽くす。
「よく食べるっていうのは特強に限ったことじゃなくて、私はよく食べたから大きく強くなった」
「そうだね。背も高いね…」
ルシャが羨むようにリオンを見上げたのでリオンはルシャの下乳を触って羨んだ。
「運動するときは胸の薄さに感謝することもあるけど、普段はまあ…もうちょい欲しかったよね」
ルシャも同じものをいただいたので急に伸びるかもしれない。
少し腹を落ち着かせた午前9時半、気温が上がってきたところでランニングに出る。コースは決まっていて、休日のコースは10キロ程度だ。
「長いねぇ」
「休日ならこのくらいだろう。そんで、これを背負う」
リオンが持ち出したのは黒い鞄で、ジッパーを開けると1キロの重りが3個入っていた。
「負荷をかけて走る。プロはこういうトレーニングをしてるっていうから、真似る」
ベルトを締めたリオンはランニングシューズを履いて外に出た。ルシャは当然走らずに飛んで同行する。
「速いねぇ」
1キロ5分ペースで走る。負荷のかかった状態でこの速さはなかなかの強度で、それで10キロ走り続けられるのか強い不安がある。しかしリオンは平気そうだ。
「まあ平日よりキツいのは認める。けどペース落としてもいいのよ」
「あ、そうなんだね」
ルシャのあまり知らないジュタの街並みを抜けて川に出た。河川敷には他にも走っている人の姿があり、リオンは彼らに知られている。
「今日は長いから森の中に入っていくよ」
森の中にもランニングコースがあって等間隔に休憩スペースが用意されている。それらをすべて無視してただ走ってゆく。口数が減っているのは普段1人で黙々と走るからか、またはキツくて呼吸に集中したいのか。
ルシャは10キロという長い距離を飛行してあることを感じた。それは、『遅く飛ぶと疲れる』ということだ。魔力を小出しにすることは、魔弾や盾のように断続的に出すならば難しいことではない。しかしそれをずっと出せと言われると、これがなかなか難しいのだ。アクセルの踏み具合を調節して常に時速15キロで走れと言われるようなものだろうか。
「ふー…」
往復するのではなく環を1周することで戻ってくるコースだったのでいつゴールするのか分からなかったが、飛んでいるうちに戻ってきたという感覚だ。1時間ほどかかったのでルシャはレスティア家に着くとすぐにトイレに入った。その間にリオンは普段着に着替えた。あまり変わらない。
「午前はこんなところだね。午後はまた別のことやるから」
「ほぇー」
休日でも自分を強化しようとする強い意思にルシャは感銘を受けた。彼女からすると身体を鍛えることは大変なことだが、リオンからすると魔法の特訓の方が辛いという。
「魔法にプロがあるかは知らんけど、あったらお前は明らかにプロになれるレベルだろ?私はそうじゃないから鍛えるしかないんだ」
「プロになりたいの?」
ここでルシャはリオンの夢を知ることになった。
「なんとなくで働いて、なんとなく結婚して…っていうので構わないと思ってたけど、お前らと一緒にいるうちにさ、なんかそれじゃつまんないって思ったんだよ」
「ほう」
「ミーナはグループに携わってるし、ルシャは魔法で何でもできる。じゃあ私は何かって言うと、やっぱりスポーツしかないと思うんだ。突出してるっていうのは私の中でなんだけど、強みと感じているものを活かしていきたいんだ」
「なんのプロ?バスケ?」
リオンはバスケ部に所属している。ダテの一角ということで毎回は練習に参加していないが、時間のあるときはたいてい参加している。試合にも出ている。
「バスケをやりたいんだけど、残念なことにジュタにはアマチュアチームしかないんだ。プロになるならここを離れなきゃいけなくなる。そのつもりはないんだ」
「今の家に居続けるってことだね?」
「うん。だからプロチームのある競技をやるよ。じゃあその中で何かって言うと、サッカーになるんだよね」
ジュタにあるスポーツのプロチームはサッカーとアーチェリー、陸上競技がある。リオンはジュタのアマチュアバスケチームをプロリーグに昇格させるよりも最初からプロとしてやるために競技を変える覚悟を決めたようだ。
「けどバスケだった奴がいきなりサッカーのプロになれるかって、そんな甘い話じゃない。だから私はバスケ部を辞めようと思う」
これまでリオンによって支えられてきたバスケ部にとっては青天の霹靂だろうが、リオンがその決意を固めたのなら応援してくれるだろう。
「バスケが嫌いになったわけじゃないけど、私にとって大事なのはプロでやれるかってことなんだ。だからこれまでたまにしかやらなかったサッカーに打ち込んで、ストイックに特訓してプロレベルについていけるようにするんだ」
全くやっていなかったわけではないのである程度の技術は身についているし、バスケの練習がサッカーのためにもなるということはある。バスケと同じくらい好きなスポーツで、リオンはプロとして活動したいのだという。
「私はどんな道を歩むとしても応援するよ。試合も毎回見に行くし、なんなら練習にも付き合う」
「ルシャ…」
リオンが感動して柄にもなく涙ぐみそうだったのですかさずルシャがボケた。
「アレだよ、ゴール決めたら私に投げキッスしてよ。そういうやつやりたい」
「やりたいねぇ。あとなんかさ、”ダテポーズ”ってのを決めて、それをやる…みたいな」
「じゃあアイツを呼んで決めるか」
楽しいことばかり想像していると未来が明るいものだと思える。2年後の今にはピッチに立って躍動するリオンを客席から見られれば良いとルシャは思った。
昼食も蛋白質多めのガッツリメシだ。しかしカロリーは朝より控えめで、野菜が多めだった。
「私は料理研究家でも栄養士でもないから何がベストなのかってのは分からない。けど成長のために蛋白質が必須だってのは知ってるし、エネルギーをとらないことには元気が出ないわけだから、とにかく今はいろんなものを食べるようにしてるよ。もちろん不健康なのは避けるようにしてるけどね」
「なるほど…脂質が少ないように思うけど、それには理由があるの?」
ステーキは赤身肉だった。脂肪のある部分はできるだけ食べないようにしているというので、明確に区別していると分かる。
「脂質はかなり印象が悪いのかもしれないけど、必要なものだってのは事実だから、少なくなりすぎないように摂る。霜降りを食べないのは動物性脂肪は摂りすぎ禁物ってのと、単に金がないから」
どうやら脂質の種類を見て摂取量を決めているようだ。習慣化してからは深く考えずとも適切に摂れているとのこと。
昼食が終わるとリオンはミーナから贈られたエスプレッソマシンを使ってカフェラテを作った。
「植物油脂じゃなくて牛乳を使ってるからあっさりしてるかも。濃厚なのが飲みたければたまの完全オフの日に飲む」
「ミーニャンこれ贈ってたのか…」
「うちに来れば好きに使えるってワケだ。コーヒーはまあリラックスのためなんだけど、走る前に飲むといいっていう話も聞く」
「じゃあこれからまた走るの?」
「いや、今日はFCジュタレディースの下部組織の練習会に参加するよ」
FCジュタというのがヴァンフィールドサッカーの女子リーグに参加しているクラブチームで、リオンはそこに入団希望を出した。入団は卒業後になるとしても今のうちに下部チームの練習で能力を見たいという返事があったため、すぐに参加することを決めたのだった。
「高校生世代が入団したいときには下部が窓口になるみたいなんだ。同年代の選手と比べて遜色ないようなら学校に通いながら下部で特訓するか、学校を辞めてトップチームに参加するか選ぶんだってさ」
プロなのはトップチームだけで、下部組織の選手は試合に出ても大した額を貰えない。これは観客席のチケットがプロ試合のチケットより遥かに安いからだ。プロと同じ額だと誰も見に来ない。
「プロほどサッカーにのめり込めないからレベルの差があるのは当然なんだけど、私はお金をあまり貰えなくても高いレベルでやりたいと思ってる。そう思ってるうちにみんなが来るようになればいいと思うよ」
リオンが下部リーグをプロ並みに盛り上げるという高い目標を持っていることは、ルシャに強い使命感を持たせた。彼女が観戦していると知ればサッカーではなく彼女目当てにチケットを買う人が現れて収入が上がるかもしれない。ルシャ目当てだったのにリオンのプレーを見てサッカーのほうに興味を持つようになれば大成功だ。
「何回かやる練習会で高評価を貰えなければチームに参加することはできない。だからガチだよ。みんな黙らす気でやる」
新人は甘く見られがちだ。それはこれまで長い間サッカーをやってきた者のプライドによるもので、『抜かされてたまるか』という戦意の表れだ。それを砕いてトップに立つのがリオンの狙いだ。
ジュタの郊外にある建物がFCジュタレディースの下部組織の建物だ。リオンの家からは4キロほど離れていて、歩いて移動するのは少し辛い。そこでルシャがリオンを運んでやった。
「来るまでに疲れてたら本領発揮できないじゃん?あっちは本領を見たいわけだよ」
「そうだな。まあ見ててくれよ。ビックリさせるからさ」
2人はおしゃべりでリラックスしながら練習場に入って下部のコーチと挨拶を交わした。ジェシー・サンダースは10年もの間ここで指揮をしていて、4回の下部リーグ優勝を経験している名将だ。
「キミはルシャじゃないか!リオンと知り合いなのかい?」
「ええ。体育のときに教えてもらってます」
「ああそうなんだね。リオンには期待していい?」
「もちろん。私は疎いのでチームがどのくらい強いのか知りませんが、きっと驚くでしょう」
サンダース監督はルシャの太鼓判に頷いてリオンに説明をしてから更衣室に案内した。着替えを済ませるとフィールドでのウォーミングアップが始まっていたのでそこに加わった。
「言っていた通りリオンが今回から5回練習に参加する。ルシャ曰くかなり高いレベルだから、手を抜かずにやれ」
「あのルシャが認めたわけか。じゃあ強いな」
「魔法のことじゃないっすからね?」
「もちろんだ。体つきもしっかりしてるし、期待できそうだな」
やはり下部の選手はプライドを持っている。厳しいタックルで体幹を試してスピードに対応できるか見てくるだろう。リオンは緊張気味だが自信はあるようだ。
30分のアップが終わるとまずは基礎のドリブル、パス、シュートを1時間かけてやる。やはりプロを目指すだけあってかなりレベルが高い。素人にも何が上手なのか分かるくらいだ。サンダースの隣に立つルシャが感心した。
「スピード感ありますね。あと私みたいにボヨ~ンってならない」
ルシャはトラップをミスしがちなので足の傍でピタッと止めるトラップがとくに綺麗に見える。しかしコーチによるとこの程度はできて当たり前だという。
「リオンもそのへんはミスしないね。当たり前か」
「私の知らないところでいっぱいやってるみたいですからねぇ」
「すごいよ。こう言うのはアレだが、私の指導を受けずにここまでに至るとは思わなかった」
「リンダースさんの指導を受けたらもっと伸びますかね?これまで見た感じで、リオンの弱みって何ですか?」
リンダースはリオンのような選手を見たことがある。その選手はいまプロとして活躍している。
「相手に簡単に奪われないようなプレーができてるけど、身体に少しムリを言わせてる感じがしているね。消費が激しいから、プロの試合でフル出場できないかもしれない」
「体力には自信があるんですよ?今日も10キロ走ったし」
「ほう、それでここに来ているのか…これからまた走ると思うと辟易するかな」
コーチの見る先でリオンは躍動している。馬鹿にするようなことを言っていた選手も感心している。
基礎練の後は3人組を作って3チームが1つの四角いフィールドの中で1球を奪い合うポゼッション(保持)の練習が始まった。相手2チームにはそれぞれエース級の選手がいて、かなり苦戦すると予想されていた。
しかしリオンはここでも躍動した。がむしゃらに奪いに行くのではなく味方に指示を出しながら効率よく相手を追い詰めて奪ったと思えば滑らかに移動して相手の守備を突破して見せた。ここでは身体を酷使するプレーはしていない。コーチからの評判は上々だ。
「あのポストプレーを活かせる人が少ないのがうちの弱みでね…せっかく相手の中に楔を打っても周りが動いていないと囲まれて奪われる」
ジェスチャーがあったのでルシャでもなんとなく理解できた。密集しているところから抜け出すことで複数の相手を置き去りにできる。
「あれが試合だったら一気に有利になる。じゃあ試合でもそれをやってくれるかってのを見る」
「リオンならやってくれますよ。私は毎回リオンのプレーに感動してたし、驚かされてた」 調子の良さそうなリオンは完全に緊張から解放されて伸び伸びとプレーしている。次の7対7のミニゲームではエースとの連携で得点した。
「すごい…たいていの参加者はエゴや強みを発揮できずに煮え切らないプレーをするんだが、リオンは我こそがっていう意識でやってる。物怖じしない性格なのかな?」
「そこまで私こそがって感じじゃないけど、負けるのが嫌いな人です。スポーツじゃなくても」
また点を獲り、今度はアシストだ。献身的な守備も相手の脅威となっている。結局圧勝してエースから褒められていた。
「驚くってほどじゃないけどプレーの質は非常に高い。懸念していた身体の酷使は緊張でミスしたのを取り戻すためだったみたいだね」
「何すれば驚きますか?」
ルシャはサンダースに驚いてほしかった。そこで安心を得ようとしてリオンが彼を驚かせるプレーを持っているか知りたがった。
「まずはスキル。観客を盛り上げるようなプレーがないと選手として足りない。あとはゲームを変えられるかどうか。負けているときに人一倍頑張って逆転への糸口を仲間に示せる選手は貴重だね」
「辛い状況の時に頑張れるかどうか…リオンはあまり辛い状況に陥らず、常に余裕を持ってるからどうでしょうか…高いレベルでやりたいって言ったのは、その時を経験したいからなんでしょうかね」
新しい自分を探すことへの意欲を知ったサンダースはミニゲームを切り上げて11対11の30分1本ゲームを試した。30分ということでかなり強度の高いプレーを要求すると、選手が恐ろしい勢いでボール回しやプレッシングをしてきた。これにはリオンが驚かされた。
(ここまで動いてまだいけるってか…!)
「うちはストイックに体力をつけるトレーニングをやってきた。120分の試合になっても誰1人として弱音を吐かない強靱さが売りだ」
「2時間も…もはや人間じゃないみたいですよ、私からしたら」
「ハハハ、魔法で人間離れしているキミが言うか。でもまあ、人間の域を脱すれば人間相手には勝てるだろうな」
リオンが時に辛そうな顔をするようになってきた。プロを目指す者の本気を見て少し萎縮したか、少し自棄気味なプレーが目立つ。
「ここで踏ん張れるならこのチームでやっていける。確かに彼女は優れている。けど、何よりも大事なのは体力と気力を維持できるかどうかなんだ」
ここで挫けるようならばこのチームでの未来はないということだ。ルシャは両手を合わせてリオンを応援した。ダテトリオの絆で繋がった2人は言葉なくして互いの意識を知ることができるため、リオンはルシャからのメッセージを受け取って身体に鞭打った。
味方がパスを送る先に窮している。こういうときには繋ぎ役が必要で、ボールを貰いに行って攻める味方にパスを出さねばならない。プレッシャーに負けてボールを戻してしまいがちな味方に代わってパスを貰ったリオンは、ここでサンダースを驚かせた。
「シャペウ…!」
爪先を使ってボールを跳ね上げるスキルで相手を抜き去ると、ギリギリまで引きつけてから走り込んだ味方にパスを出した。これが味方の勢いを殺さないナイスパスで、守備陣を突破した味方が落ち着いてゴールに流し込んだ。
「これだよ。これで同点になった。落ち込んでいた気分が戻ったわけだ」
「あのプレーがなければ点を獲ることはなさそうでしたか?」
「間違いない。プライドが高い故に劣勢に納得できずに萎えてしまう悪い癖があるな。うちは常勝軍団だから、後れを取ることが稀なんだ」
紅白戦でしか明らかにならない問題もあることを知った監督はより強いチームとの対戦を希望している。トップチームとの戦いも何度かやったが、なかなかに拮抗した試合になるためプライドを砕ききれないらしい。
「プライドっていうのは砕かれる度に自分で復活させれば強くなる。そのプロセスを経ずしてプロリーグに出したくないんだ」
ボコボコにしてくれるチームを募集中。リオンはこのチームに好印象を与えることに成功したため、サンダースは次回にも期待すると言った。
リオンが戻ってきたのでルシャは労ってから家まで運んでやった。
「いい感じだったじゃないか」
「だね。しんどかったけどお前の声が聞こえた気がして、頑張らなきゃって思ったよ」
「実際言ったよ。コーチはかなり高く評価してたよ」
「課題が分かったから重点的に鍛える。今日は…ランニングだけで20キロ走ったから流石に疲れた。おふろはいる…」
リオンがくたびれてしまったのでルシャは背中を流してやった。背筋もルシャのそれとは大違いで、プロを目指すのに必要な強さを持っている。
「逞しいねぇ」
「身長で負けても体当たりでは負けたくないと思った。簡単に倒れない強さのためには、いろんな箇所を鍛えないといけないね」
「すごい向上心だ…」
「そりゃそうよ。またお前を背負って走ろうかな」
「休むことも考えてね?」
「うん。じゃあ今日も一緒に寝てくれる?」
「寝る!」
どんなに疲れてもイチャイチャすると快復できるのがリオンにしかない強みだ。翌朝になると彼女はまた走りに出たのでルシャはとんでもないストイックさを強調してマリアに報告したのだった。
「ほえぇ…すごいことしてるなぁ。負けてらんないぞ!」
「きみもすごいストイックなのかい」
さすが優勝メンバーと言ったところか。リオンと会ったら互いにいろいろなものを得られてさらに強くなるに違いない。もしかしたら、2人ともジュタのトップチームでリーグ戦に出場することになるかも…




