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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第2部・2年生編
83/323

81・捕らわれたルシャ 王国に迫る新たな脅威

 ルシャはルートとリリアとの戦いに触発されてより強力な魔法使いになろうと特訓していた。飛行距離はジュタ-王都間を遥かに上回る。少し疲れる程度の特訓ではさらなる高みへ至ることはできないという強い意識を持って時には限界とも思える強度を出すこともあった。

「…今日のはかなり効果あるんじゃないか」

 あまりに疲れていたので家に着いた途端に床に転がり込んでしまったルシャは風呂に入ることもできずにその場で眠ってしまった。この時彼女は玄関に鍵をかけることを忘れていた。


 ―それが致命的だった。




 ルシャの失踪から1日が経った。キルシュ邸に集まったミーナ、リオン、ルート、リリア、ロディ、ラークは冷静になって親友の捜索計画を立てた。

「ルシャは誰かに何も言わずにいなくなるような人じゃない。前に旧校舎で倒れたときみたいに何かの事件に巻き込まれたに違いない」

「ああ。最後にいたのはジュタだけど、これだけ時間が経ってれば別のところ…遠くへ連れ去られていてもおかしくない」

「ルシャに倒されずにこれだけの時間を過ごせる人となると…」

 滓宝持ちの可能性が極めて高い。滓宝は中央が集めているが、まだまだ世界に散らばっている。大勢いる所持者のうちの誰かがその力をもってルシャに勝ったとすれば、この先何者の抵抗も寄せ付けない。

「明確な強弱を決めてないあの3人を除けば…」

 ルシャに劣っているという決定的証拠のない3人―フラン、ルリー、ドニエルなら、ルシャを巻き込む事件を起こした者を倒せるかもしれない。しかしまずは情報を集める必要がある。

「まずもってルシャの失踪は何者かに誘拐されたのか、それとも違う理由なのかってことすら確定していない。ルシャの身に何が起きたのか、手がかりを探そう」

「そうだね。ルート、ルシャの家に何か痕跡はあった?」

「いや、ルシャ以外の靴跡や指紋はなかった。ルシャを誘拐するような奴はそういうことにすべて対処しているだろう。痕跡からルシャを追跡することはできない」

「じゃあどうするんです?」

「権力を利用するしかない。ルシャはこの国にとって最重要人物だから、中央が総力を尽くして捜さないはずがない。気付くのが遅れてしまったが、伝わってすぐにそれは始まった。かなり焦っている様子だった」

 ルートがルシャの不在に気付いたのは昨日の夜のことだ。彼が珍しい食材をお裾分けすべくルヴァンジュ邸を訪ねたところ、いつもはいるはずのルシャが留守にしていた。まだ特訓をしているのだろうと思って王都まで捜したが見つからなかったので異常だと思い、翌朝にもう1度家に行くことにした。それでも彼女が不在だったので独断でフランに話をしに行ったのだった。

「誰かがルシャを誘拐したとして、そいつは何のためにルシャを誘拐したんだろう」

「うーん…嫌なことを考えたくはないけど…」

 ルシャが美少女ということを考えれば悪いことばかりが浮かぶ。それだけはあってほしくないと願うミーナたちは考えられることを挙げた。

「目撃情報があればすぐに寄せられて周知される。それすらないってことは誰もその姿を見てないってことだな。となると、夜に移動した可能性が高いか」

「そうだな…この街で昼間に誰も見てないっていうのはおかしい。夜…となると、俺があいつの家に行くちょっと前ってことだな。俺が行ったのは6時半、日暮れは5時半過ぎだった」

「時刻を推定できたところで肝心なのはどこに行ったかってことでしょ。その手かがりのない限り、がむしゃらに捜すしかないよ」

「誰も見てないんだからなぁ…滓宝は?ドニエルさんは滓宝を使って他の滓宝を追跡できるって言ってた」

「シャペシュの腕は家に置いてあった。けど俺が持ってるってことは犯人は持ってない。狙いは滓宝じゃなくてルシャだってことだ」

 ルートの膝の上には黒く光るシャペシュの腕がある。犯人が家にそれがあるのを気付いていたかは定かでないが、持っていかなかったということは必須ではなかったということだ。

「やっぱりルシャの身体を…」

「待て、それならどうして連れ出した?1人暮らしのルシャの家には邪魔者がいない。数分で終わることをどうしてわざわざ後回しにするんだ」

「うーん…俺の訪問を読んでいたとは思いがたい。数分で終わらないことをするつもりだったってことか」

「じゃあ魔法?ルシャを操って魔法を使わせようとしたの?」

「いや、ルシャが魔法を使える状態ならばすぐに犯人が殺されてるはずだ」

 6人の推理によると、ルシャは今でも魔法を使える状態にはない。そして犯人はルシャの身体を目当てに誘拐したわけではない。となると…

「ルシャに邪魔されない状況を作った…」

 目的を果たすためにはルシャに妨害されてはならなかった。そのため何かしらの方法でルシャを無力化してその状態を保っているのだ。

「その状態を保つってどうやって?」

「滓宝だろ?」

「じゃあその滓宝を追跡できればルシャの場所が分かるんじゃないか?」

「そうか!」

 そこでルートはシャペシュの腕の能力を使ってルシャを無力化している滓宝を探し出すことを閃いた。少しだけ希望が見えたとき、シャペシュの腕の輝きが増すとともにキルシュ邸のチャイムが鳴った。


 失われない滓宝を持っている唯一の人間、フランだ。彼女は国家級の非常事態を受けて大臣としてのすべての仕事を放棄し、この問題解決のためにジュタにやってきた。

「…滓宝で追跡しようにも、ルシャの傍にある滓宝を特定することができない。そこで現時点で王国にあるすべての滓宝を強制的に供出させることにしたわ。中央の滓宝持ち…ルリーやドニエルが仲間とともに回収にあたってる。そうしているうちにルシャの場所が判る」

「虱潰しというわけですか…それなら俺もこの腕を使って協力します!」

「ええ。あなたはルシャの弟子…その腕の助けを借りれば私と一緒に飛べるでしょう」

「じゃあ私たちは情報収集をします!少しでもルシャに繋がることがあれば…」

「ええ。お願いするわ」

 こうして6人は学校を休んでルシャ捜索に全力を尽くすことになった。




 滓宝追跡のために滓宝を利用するのだが、ジュタには2つの滓宝しかない。他の地域にある滓宝を追跡するには距離が遠すぎる。そこで別の地域へ移動することにした。

「私は一刻も早くルシャを見つけ出さないといけない。そのために1日中飛ぶわ。シャペシュの腕を持っているとは言っても限界があるだろうから、夜になる前にあなたを家に戻すわ。それまでは耐えて」

「分かりました。フランさんの邪魔には絶対になりません。限界を把握しているつもりです」

「行くわよ」

 ルシャを愛する者として死に物狂いで彼女を捜す2人は凄まじい勢いで飛んでジュタを出て行った。

(速い…!やはりこの人、選ばれなかっただけで特強レベルの能力者だ…!)

 ルートはフランを追うのに必死だ。彼女のスピードはルシャより速い。選考会での彼女が手を抜いていたのか、それともフランがあまりに速すぎるのか。いずれにせよ、ルートは師匠の母を見失わないように彼女を常に視界に捉え続けた。

 

 余力を残すために極北へは行かない。ジュタから遠く離れたメーラ区の中心部にあるリスランという街に降り立った2人は身体を休めてから滓宝の示す魔法反応を探った。

「僅かだけど感じる…」

「さらに北ですか…でも北は標高の高い山が続いていますよね。その向こうが外国なわけですが、まさか外国領に出ている?」

「いや、外国領に入っているなら距離的に魔法反応は出ない。滓宝があるのは山脈のどこかよ」

「そんな場所に滓宝が…?」

 フランは滓宝持ちならそのような過酷な環境にいても生き抜くことができると言ってその人への接触を決めた。

「ですがフランさん、俺らはここに来るまでにかなり消耗しています。今日は身体を休めて明日行くべきでは…?」

 もし1発で当たりを引いてルシャを見つけられたのなら、犯人との戦闘をする可能性がある。体力は戦いにおいて極めて重要なので万全の状態で挑みたい。

「事態は一刻を争う。私たちの寝ている間にルシャに何かが起きるかもしれない。そうなる前に私は行く…あなたはここで待っていてもいい」

「…あなたの言う通りです。ルシャが大変な目に遭っているというのに俺らがノンビリしていていいはずがありませんね。俺も行きます」

「意思の強さは私と同じだと思っているわ。それこそが事を為すのに必要なこと…けど意思だけで乗り越えられない問題もある。もしそうなら私があなたを守る」

 ルートはこのとき少し高揚した。師と仰ぐルシャの母の本当の力を知れるかもしれないからだ。ルートはまた飛行してフランを追った。


 しばらくすると山の中腹に小屋が見えてきたので2人は降り立った。荒削りの木材を雑に組んだフレームに布を被せただけの簡素な建物の中にいたのは、仙人のように白い顎髭を長く伸ばした老人だった。その傍らには光る杯が置かれている。辺りを見回してもルシャの姿はない。

「…その瞳」

「私は王国中央国務省のフラン・ルヴァンジュです。滓宝の供出が発令されています。その滓宝を回収します」

「中央…何のために滓宝を持ち去る」

「ルシャ・ルヴァンジュと彼女を誘拐した者を捜しています。誘拐犯を倒すためには滓宝の力が必要なのです」

 老人は納得して杯をフランに渡した。フランが頭を下げると、彼は雑音混じりの声でこう言った。

「ルヴァンジュ…そうか、魔王を殺したのは貴殿の娘か」

「…ええ。ルシャはこの国にとって非常に重要な人物です。なんとしても見つけなければなりません」

「私はここで祈ることしかできない…しかし彼女がここを訪れたなら、必ず知らせよう…」

 老人が供出を快諾したのでフランとルートは滓宝を得ることができた。これで行く場所が1つ減った。ルートはあの老人のことをどこか異様な雰囲気を纏っていると言ったが、フランは気にせず次の場所へ向かうべく速度を上げた。

「言ったでしょう、特強はたくさんいるって。毎回訝しんで探るようなら時間が足りなくなるわよ」

「どんな人でも惑ってはいけないということですか…つくづく、俺は外のことをよく知らなかった」

 ルートは自分とフランとがいかに違うかを思い知った。そして、近くに感じているルシャとも…




 結局その日のうちにルシャは見つからなかった。フランとルートはリスランで宿をとって休んだ。

「明日の朝までここを発つことはできないわ。なら時間をいっぱいに使って全快することを考えるべきね。ずっと緊張していても疲れるだけだから、今は緩みましょ。お風呂入れるみたいよ」

 ルートは先に風呂に入ったが、フランより先に寝る気がしなかったので起きていた。ルシャのことを考えながら布団の中でじっとしているとフランが風呂から出てきた。

「起きてたのね」

「ええ。疲れているけど眠れなくて」

 ルートは風呂上がりのフランの色気に惹かれてさらに強く覚醒しそうになったが、それを察したフランの魔法によって急激な眠気に襲われた。

「よく頑張ったわね…」

 翌日、ルートが目を覚ますとフランはいなくなっていて、10万セリカとともに書き置きがテーブルの上に置かれていた。

「私はまだ元気なので王都に戻ってから別の場所を捜します。あなたは自分の判断で行動してください」

「…なんて人なんだ」

 ルートは戦力外とされたことよりフランの持久力の強さに驚愕した。ルシャを捜し出す強い意思を持ちながらも自分にできることを冷静に判断したルートが目指したのは、フランの向かった王都だった。

唐突に真面目なやつが始まりました。ルートくんの選択がルシャにどう影響するのか…

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