47・ミラクルせずにはいられない女
前回1日遅れだったので今回は前回予定日から3日後の今日にアップします。
12月22日。本来であればこの日は冬休みで休校なのだが、上旬の大雪の影響で延期になった期末試験を行うことになっていたので生徒たちは登校しなければならない。
気温は7度。この時間にしては比較的暖かいほうだ。とはいえ体調管理の難しい環境で、風邪気味なのかマスクをしている生徒が目立つ。ルシャもスポーツドリンクを水筒に入れていつでも栄養を補給できるようにしている。
「冬場はさぁ、女の子のタイツ見られるからいいよねー…」
そう言う変態ミーナもタイツを穿いていていつもよりセクシーだ。黒という大人っぽい色を纏ってすらりとした美脚なのだから、男子が思わず目を遣ってしまうのも納得だ。しかしルシャは長いモコモコした靴下を穿いているので美脚が殆ど見えない。それを惜しく思っていそうな男子がいたので突っついてみる。
「珍しいと思ったか?」
「何が…?」
教科書に向き合っていたと頑なに言い張るルートはこうして話している間もルシャの膝のあたりを見ている。
「いつも短めの靴下の私が長いの穿いててさ」
「いや…違和感があるってだけだ。俺はそういうの穿かないからな…」
男子と女子との服装の違いは冬にもはっきりと現れる。男子は脚を晒さないので夏も冬も変わらないが、女子は露骨に変わる。
「これめっちゃ暖かいよ?オススメ」
「俺が穿くのは変じゃないか?」
「どうせ見えねぇじゃん。それこそ違和感だけ克服しちゃえばラクチンよ。買ってきてやろっか?お前誕生日いつ?」
「1月11日だけど…いやいや、別に俺脚寒くないし、下に暖かいの穿いてるし…」
「お?お前も仕込んでんのか」
ルシャがルートのズボンの裾を捲ると、黒いぴったりしたインナーが見えた。運動用のコンプレッションインナーか。
「あー、そういうのねぇ。なんか加圧式っていって細く見せるやつ売ってるらしいけどさ、あれ穿くと膀胱圧迫されてる感じして嫌なんだよね」
「知るか!膀胱とか言うな!」
「お前そういうのないの?ってかほら、もっと圧迫されたらマズいとこ…」
「ルシャ、それ以上はいけない」
ミーナが後ろから口を塞いだのでルートの顔がダルマほど赤くなることはなかった。しかしルシャがあれほど嫌っていた相手とここまで壁のない話をするとは誰も思っていなかっただろう。彼女のおかげで他の女子ともたまには話すようになった。
「それはこちらのネタだ。あいつは慣れてないんだからダメだぞ」
「私も話したがりになったもんだよ…でもあいつは弟子だからいいんじゃね?」
「いや、ダメだ。いつ豹変するかわからんぞ」
ミーナは2人の会話の中にある意識の駆け引きだけを観察してルートが飛び出すタイミングを伺っていることに気付いていた。少しでも性的なことを意識させるとおかしなことになるということで介入したのだった。
「おいミーナ、俺とルシャが話してたのになんだよ」
「弟子コラ、ルシャたそはうちのもんやぞ。嬉しそうにすんじゃないよ」
「そうなのか?確かにずっとセットって感じだけど…排他的なのは感心しないな」
「お前が女になったら入れてやるよ」
無茶には付き合いきれないのでルートは他の友達と話をすることにした。ミーナはルシャを毒牙から護ったつもりだったが、ルシャは少し不満げだ。
「…まあいいだろう。奴が私とえっちな話をしたいのなら私が何度も言ってきたことを護るはずだ。そうしたらミーナも認めてよね」
「たそはルートと話したいの?」
「多少は…だからあんまりぶった切らないで」
「ごめんよ…」
ミーナがションボリしたのを反省したと受け取ったリオンが彼女を慰めつつ腹を触った。冬眠しない生き物に蓄えは不要に思えるが、この人は夏よりよく食べているようだ。
「…デブった?」
「冬休みは冬眠期間なもので」
「とか言いながら餅とか食うんでしょ」
「いいじゃん冬はデブったって!食べ物が美味しいんだもん!お前もそう思うだろぉ!?」 キルシュ・グループ傘下の食品メーカーから定期的に送られてくる食材を食べているリオンは頷かずにはいられなかった。食べることで温まるためたくさん食べてしまうのだそう。
「ルシャはあんま変わってない?」
「料理するのが面倒でね…ってか買い物も面倒だし、たまに食わなくてもいいかなーって思うときもある」
「それはいかん!」
ミーナもリオンも食事を疎かにすることを許さなかった。その理由をわざわざ説明する必要はあるまい。
「だったら私の家に泊まれ!毎食たらふく食わせてやっから!」
「うーん、マジでそうするかな…ぶっちゃけあの家は掃除さえしておけばオッケーで、あそこ以外で作業しちゃいけないわけじゃないし」
「よし!」
お節介をして嫌われたかと不安になっていたミーナが復活した。ミーナはルシャを愛でられるしルシャは美味しい料理をタダで食べられる。この上ないことだ。ここでルシャは単身者の自由度の高さを知った。
テストは筆記から始まった。いつもの科目をいつもより短い時間でこなす。1日目は筆記漬けで、2日目は体育と魔法実技をやる。徹夜で勉強してきた人も今日の夜さえしっかり寝れば万全の状態で挑めるというわけだ。
(あれ?えらく簡単だぞ…)
ルシャは時計を見上げる余裕があることに驚いた。前回も時間が余ったが、今回は小テスト並みの速さで解き終わった。20分も必要ない難度にしたのだろうか。しかし周囲はまだ顔を下に向けている。
(あれ?私天才になった?)
確かに本を読んだり頭の良い人と話しているうちにあらゆる知識を得た。しかしそれがこうもテストに現れるとは思わなかった。今回はヤマを張っていないし、これといった対策もしていない。故に異常事態である。
国語だけかと思っていたのに数学も理科社会も余裕で解けた。殆ど止まることなく、流れるようにすらすらと解答できた。
(マジで天才と化してる…ミーナっていつもこんな感じだったわけ?)
今回のミーナはルシャに遅れをとりながらも平均より遥かに早く鉛筆を置いている。この優越感を毎回味わっていたのだと思うと少し羨ましい。
「はい、終わりです~」
プリムラが最後の解答用紙を回収し終えて教室を出るとルシャはすぐに2人に打ち明けた。
「マジでおかしい。これまでこんなことなかった」
「脳味噌移植されたんじゃね?」
「失礼!」
「いやでもホントにそれくらいビックリした。ニャンより早いなんておかしいよ」
「うん、見てたけどまさかあのバカがって思ったよ」
「失礼!」
失礼な2人も真相がわからないので放課後にノーランに相談してみた。すると彼だけは失礼ではない返しをくれた。
「周りの影響だろう。そもそもお前は地頭が悪くない。ドニエルさんが言ってたけどフランさんは首席だったんだろ?その娘であるお前なんだし、ルリーさんともよく話してた。周りに頭の良い人ばかりだったんだから多少は知識が入ったんだろうよ」
「私とかね」
「うーん、明確に学んだと言えば魔法のことなんですけどね…言葉とか思考とか、そういうことまで学習してたんですかね。台詞だけはよく憶えてますからね」
「私とか…」
「おそらくそうだろう。それに担当の先生はさほど難しい問題を作ってないと言っていた。お前が天才というより周りが少し気を抜いていたというのも考えられるぞ」
「まあそっちは考えなくていいですよ。気持ちよくさせてくださいよ」
「ハハハ!じゃあそういうことにしよう」
「私…」
「うるせぇな!ミーニャンも入ってるから!」
ミーナの構ってちゃんが激しくなってきたのでルシャはツッコミ役に回る。
「私、ルシャたそのなら突っ込まれてもいいよ…?」
「そろそろ殴っていい?」
ルシャのパンチは魔法がかかっているのといないのとでは大違いで、かかっていた場合ミーナは300mくらい吹っ飛ぶ。ゼロ距離で魔法を撃たれた魔王の頭は20mくらい吹っ飛んだ。
「…こいつがかき乱してて結論がスッと入らなかったけど、私は天才ってことでいいんですね?よし、明日も頑張ろうって気になってきた」
天才とは特定の分野のみならず何をやらせても高い技術を披露するものだと誰かが言っていたし、自分の思う天才がそうなので明日の体育でも結果を出すとルシャは決意した。
ルシャは自宅に寄ることなくミーナの家にお邪魔して自宅のようにソファに鞄を置いた。弟3人組…オトウトリオともすっかり馴染み、柔らかいボールで野球をしたりダーツをしたりして午後の穏やかな時間を過ごした。
「クリス、紅茶淹れて。私お菓子持ってくから」
「おっけー」
長男クリスは姉に似て快活な少年で、剽軽なキャラがクラスで大人気だという。この前は演劇で主役を務めて大成功に導いたとか。
「ルシャねぇは砂糖入れる?」
「なくていいや。いい香りだねぇ」
「最高級ダージリンだからね。美味しくて死ぬぜ?」
パッケージが見るからに高そうなのでルシャは少し恐縮した。しかし彼女は救世主なのでそれを飲む資格がある。むしろ救世主が安物の紅茶を飲んでいたらそれこそ全米が涙する。
「美味すぎて死ぬとか最高じゃん。『死因:美味』って書かれたい」
「アイスティーでも美味いから夏でも飲める!お宅にも1袋どうですか?」
「買った!」
「なんど1袋1万!」
「6回分割払いで!」
ルシャは先日手芸用具にかなりの額を投じたので金欠である。計画性のなさを母に叱られないためにこうして逃避的なやりくりをしているのだ。
「ルシャねぇ、よくおねーちゃんのノリについていけるね」
次男ルカがルシャを見上げた。しかし近すぎて胸しか見えない!
「なんかノリというか考えが近いんだと思うよ。幸か不幸か」
「うーん、僕もおねーちゃんと楽しくおしゃべりしたいけど、よくわかんないこと言われるから困っちゃう」
アドバイスを求められている気がしたのでルシャは本を薦めておいた。語彙力を増やせば返す言葉が豊かになるというシンプルな考えは子供にも理解できたようで、ルカは早速本棚を物色し始めた。しかし蔵書が絵本か論文という極端なものだったので多くを学ぶことはできそうになかった。
「あとはいっぱい話すことかな?おねーちゃんだけじゃなくて友達とか先生とかともね」
「わかったー!」
「ってかルシャねぇと話せばいいんじゃない?ミーねぇと話せてるわけだし」
「ミーねぇって超可愛くてムカつくなぁオイ」
「ナがなくなっただけだぞ?お前もルシねぇにしてもらうか?」
だったらャまで言えと思うだろう。この独特の会話について行ける人がもう1人いると思うと恐ろしい。
「ってかこのノリで6人集まったら頭おかしくなるぞ。ダテ…6人ってなに?」
「セクステット」
「えっちです!逮捕!」
「シックスに過敏な男子か!」
セクステットをシクステットと敢えて言うか悩んだ末にセクステットを選んだルシャも自分を少しえっちだと思ったので両成敗だ。このやり取りに関してオトウトリオは関与しなかった。
カートゥーンのキャラクターのようにバリバリとクッキーを貪るミーナが急に上品になってルシャに問う。
「明日の体育はどうされますこと?離れのトレーニングルームで鍛えていかれるの?」
「どうしようかね…筋肉痛になったら困るし、軽めの運動で済ませようか。冬は身体が固まりがちだから解したいや」
「そうしましょう!では少し休んでから行きますわよ!」
「…なんで貪ったんだろ」
ミーナのキャラクターは頻繁にブレるので全容を把握しにくい。
トレーニングルームに行くと父ニャンことピエールがベンチプレスをしていた。
「お邪魔してますっ…!」
「ああ、楽にしてくれ。もうすっかりもう一つの家みたいなものだろう。ミーナとラブラブだと聞けば同居を拒む手はない」
「ラブラブ?」
「あれ、違った?ブラブラ…?」
ピエールもミーナ節に惑わされているようだ。その点ではルシャと馴染めるかもしれない。ルシャは準備運動をしてからランニングマシンを起動させた。
「小柄な私の見栄というかコンプレックスの裏返しがこのトレーニング室なんだが、正しい理由で活用してくれる人がいて嬉しいよ。椅子の革が剥がれるまで使ってくれ」
「筋トレはしないかなぁ…」
「トレーナーから女性にも鍛えるべき重要な筋肉があると聞いたからそこは意識しておいてもいいと思うよ。私は満遍なくやってるけどね」
「確かにかなりムキムキですね…並みの特訓じゃできなさそうな筋肉」
ピエールの腕は筋トレを趣味と明言している人のそれで、身長に見合わぬ太さがある。
「ああ、こうしてなんとか自信をつけるに至ったわけだ。数万を束ねる会長がヒョロいと威厳がないだろう?」
「うーむ…どうでしょうか…」
「パパ、ルシャたそが困ってるから」
「ああ、すまないね。仕事の都合で相手が大人ばかりでね。子供と話すだけで少し盛り上がってしまうのだよ」
多忙故にこのような弛緩の時間を大切にしていて、子供からは楽しいパパと思われるように心掛けているようだ。こうして話を聞いているうちにルシャは緊張が不要だったと気付いた。
「さて、私はそろそろ部屋に戻る。ミーナ、鍵は頼んだぞ」
「はいよ~」
何気ない父娘のやり取りを見たルシャはなんとも言えない気持ちに惑わされた。
「…私とルシャたそが結婚すればうちのパパ様がルシャたそのパパ様になるわけだ。結婚しよ?」
「…それもいいかもね」
「…あっ」
ミーナはまた軽率だったことを恥じた。
「ああ、別に深いことは考えてなかったよ。ほら、仲良いなって。世間では娘がよくパパのこと臭いとかキモいとか言うって聞くからさ、そういうもんなのかと思って」
「うーん、うちのパパ様はそんなに臭くないなぁ」
「気を配れるかってことじゃない?パパさんはかなりこだわってるっぽかった」
ルシャは自分の態度のせいでミーナが罪悪感に襲われたのだと気付いて平静なフリをした。軽快さがミーナの取り柄なのでそれが見られない状況を作りたくない。体臭のことに話題をずらして調子を戻し、仲良く身体を解した。
トレーニングのおかげか余計な緊張もなければ身体の凝りもなく、非常に爽快な気分だ。今日なら良い結果を出せそうだと自信を見せたルシャは元々脚が短いのに加えて太ったため重心を低く構えることができたので平均台で落ちなかった。
「コケるのか…?」
前回はここで転んだ勢いで飛び込み前転を成功させた。今回はしっかりマットの前まで走れたので前転の繰り返しで場を和ませた。ころころルシャはデフォルメされたルシャがひたすら転がるだけのおもちゃだ。
次はバスケットボール。レイアップに批判があったのでパス交換とフリースローに変更になって多くの生徒の不安を煽った。しかしルシャはパス交換をリオンとの特訓でやっていたので走りながらでも問題なくできた。そしてフリースローも止まって撃つので狙いを定めやすく、力加減さえ合っていれば入るという状況だった。
「ふっ」
軽い弾みをつけて押し出すと、指先に擦れてバックスピンのかかったボールが直接リングに入った。完璧なフリースロー、プロでも通用するレベルだ。
「普通に上手いじゃん。なんだよ」
ルシャと言えば体育でドジをする人という認識が大多数にあったのでドジって可愛い姿を見せない彼女には不満がある。フットサルも無事に終わるのだろうとの予想があったが、今回はいつもと違う点がある。
「フフフ…対策を打ってこなかっただろう。だが授業でやったから出ると予想するのが賢い生徒というものだよ」
バレーボールだ。ノーランの投げた柔らかい浮き球をレシーブして一人でトスもアタックもするというものだ。やむを得ない場合は3つのどれかを省いてもよいのだが、触った回数加点されるので是非とも完了しておきたい。
『全く難しくないボールを投げるからしっかり当てることだな。アタックは入ってれば何でもいい。入れば1点追加だ』
ノーランが見本を示す。両手でレシーブ、少し斜め前にトスしてアタックしやすい場所に運び、凄まじい勢いで打ち付けた。受けたら骨折するのではないかと思うくらい速い。
「もう1度言うが入ってればいい…そうだな、俺が角に立つから俺に当てるのもいいな。当たったら2点ってことにしよう」
ノーランの説明を思い出したルシャは彼の真似をして両手を構えた。中心に当てるというコツを忠実に守った彼女は真上にボールを打ち上げ、小さく柔らかい両手で跳ね上げてから掌で打った。彼女は背が低いので上から下へ打ち付けるのは難しく、ネットを超えるために敢えて上向きに打ったのだが、このとき彼女はよろけていたので狙いを定められなかった。入るよう願いながら受け身をとると、高く上がったボールはノーランの脳天を打った。
「うっ」
「うっ」
「コケちゃうルシャたそ可愛い~」
「そっちかよ!」
ルシャは見事に5点を獲得したわけだ。そのことに驚く生徒とルシャの転倒に萌える生徒とに分かれてそれぞれ歓喜した。
「あいつ実は運動できるんじゃねぇの?」
「その説は弱いなぁ…コケる演技って難しいよ?」
本当に運動の苦手な人は難しいことをするとすぐ転ぶ。その感覚が分からないリオンに真似をすることは難しい。
「ってかドジらないと可愛いところ見られないから嫌だ」
「わかる」
密かルシャファンが多数いて同意のテレパシーがひっきりなしに飛び交っている。
「よし、あとは得意なやつだ!」
シュートを撃つとストレス解消になるからという不純な理由で好きなフットサルを意欲的に始めたルシャは前回と同じ技をすることを『つまらない』とすら思うようになっていて、何か違うことで会場を沸かせたかった。そこで意図して初回のミラクルスキルムーブをやろうと閃き、左脚を右脚の前に出して構えた。左脚にしっかりと体重を乗せて右脚を跳ね上げると、ボールが上方に飛んでノーランの右肩を掠めた。高さが足りずに防がれてしまうスキルだが、ノーランはこのテストのルール上動けないので成功した。
「あいつ習得してやがる!やっぱ得意じゃねぇか!」
「これまで演技してやがったのか!?」
「いや、それはないだろうよ…」
ルートだけは師匠の演技を否定した。彼は誰よりも成績を重視していて、他の生徒も軽んじているとは思わないからだ。
「最初の動き、あれはコケているようにも見える。コケることに慣れているルシャだからこそできるんだろう」
「あー、前のめって咄嗟に左脚出した感じか。確かに右脚は残ってるね。でもよくあのままコケないね。体幹強いんじゃない?」
「それは重心が低いからだろう。リオン、お前は背が高いし脚が長いからどっしり構えにくいけど、ルシャは背が低くて脚が短いから簡単だ。もはやあいつ専用の技だな」
「めっっちゃ失礼なこと言ってるって自覚ある?」
「解説を求められたから言っただけだ。あとでいくらでも殴られてやる」
潔いルートに好感を持ったミーナとリオンは小声で尋ねた。
「…体型とか気になっちゃう?」
「んぇ?…まあ、正直な話、小柄なほうが好きだ」
「まぁしょうがねぇよなぁ。可愛いもんなぁ…よしわかった。お前もルシャの親衛隊に入れ。公認の弟子なら入隊理由として十分だろう」
漸く2人に認められたのでルートは堂々とルシャを観察した。揺れまくる2つおさげと胸が気になってドキドキしてくると自分の番が来たことを忘れてからかわれた。
「見蕩れてんじゃねぇよ」
「う、うるさいなぁ!おいルシャ!俺のを見ておけ!」
しかしルシャはスキルムーブと弾丸シュートに体力を使ったため床に転がっていて見ていない。ルートは場を沸かせることで彼女の注目を得ようと頑張ったが、どれも『上手』程度の評価にしかならなかった。それならばルシャと同じ技をキメようとコケたフリスキルムーブを試みたが、ボールはノーランの顔面に当たってしまった。
「ああっ!」
「よくあることだよ」
「え、平気そう…」
「球技あるあるだろ」
ノーランは数え切れないほど顔面ブロックをしてきたので鼻がサイボーグ並みに頑丈だ。減点はなくても加点もないのでルートの満足できる結果とはならなかった。
「かっこつけようとするとミスるのもスポーツあるあるだね…」
「まあでもいいとこ見せようとして頑張ることは応援したいよね。拍手をあげよう」
ルシャは正しい成長を志す人は応援するのでルートの挑戦を褒めた。2人には多くの称賛が寄せられたが、友人が男に惚れそうになっているのを快く思わなかったリオンとラークが本気を出して当たり前のようにスーパープレーをしたので完全に上書きされた。
「そりゃプロがいれば私なんか霞むよ。当たり前でしょうよ。全部持ってくもんなぁ…」
かつてテストとは戦いだったのに今となってはルシャのドジを見るためのほのぼのイベントとして臨む人が多くなった。ドジをするのは意図していることではないが、結果的にルシャの望むホッコリした雰囲気ができたのでよかったと本人は語る。その一方で…
「結局ミラクルがねぇじゃねぇか!ふざけんな!」
コケるのは誰でもありえるのだから可愛かったとしても大きな満足にはならない。今回はどんなミラクルプレーを見せてくれるのかと期待していた輩は肩を落として更衣室へ引っ込んでいった。
冬になると女子がタイツをはきはじめる(変換できない)ので男子はドキッとするらしいですね。これまで気にしていなかった女子のことが気になってしまうっていう話を聞いたことがあります。




