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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第1部
46/322

46・ブリザード・クイーン

仕事のため遅れました。すみません。

 12月中旬。期末試験に特別な感情を持つことはなかった。成績が偉さを決める風潮も卒業後の進路を左右することも、今のルシャにとって一切がどうでもよいことだからだ。言い換えれば、無敵。

 しかしそれはテストに限った話である。ルシャは朝早くに起きてコーンスープにクルトンを入れて豪華に食していた。2月のフリーマーケットのことだけ考えていたしカーテンを開けていなかったので家を出るまで気付かなかった…


 この大雪に。

「どええええええ!?」

 少しドアを開けていただけなのに身体の前面に白い塊がびっしりついた。向かいの家が薄らにしか見えないし、道路は以前に食べたタルトのように真っ白だ…確かに今日は特に寒いと思っていたし、目が覚めたのは寒さのせいだった。なるほど、雪が降っていたのか。ルシャは雪を弾きながら浮遊することを強いられた。

「…ってか休校にならんのか?」

 いかように通達するというのか。ノーランが他の先生と手分けをして生徒の家を回るのはあまりにも酷だ。では街の鐘を鳴らそうか…休校と明確に分からせるパターンはない。従って生徒たちは外に出ずして答えを得ることはないのである。そこでルシャは名案を閃いた。

 まずエスキモーばりの重装で身体を冷えから護りながら学校へ行く。そこで聞いた判断を取り急ぎ豪邸とボロ屋の住人に伝える。これで任務完了だ。他の生徒のことは知らない。

「師匠様、しっかりお役目果たして見せます!」

 ルリーから教わった魔法を使いこなして学校に入ると、ストーブの前でしゃがんでいたルーシーが最初の生徒の登校に気付いた。

「ルシャ…いくら魔法があってもこの大雪の中ここまで来るのは大変だっただろう」

「疲れますね。でも先生方のほうも苦労されたでしょう」

「私にはお前ほどの魔法がないからな…しかしどうしたものか。おそらく自己判断で休みだと思ってくれているのが大半だろうが、まるで雪山を越えるような苦労の果てにここに辿り着いたのに休校を告げられた生徒に何と言えばいいか…」

 ルーシーは苦労してここまで来た生徒に何かをしてあげたくなった。今のところはルシャしか来ていないが。

「とりあえずお前も暖まるか…?」

「はい。途中で迷いそうになりましたよ。もはや高い建物が何かもわからない」

「ああ、ここまで来られたはいいが無事に家に帰れるか不安だ」

「ところでノーラン先生は?」

「ここが潰れないように屋根の上で雪をどかしているところだ」

 ルシャは鞄を置いてすぐに外に出た。猛吹雪の中に影を認め、光を放ちながら近寄った。するとノーランは大きなシャベルを立てて目を凝らし、すぐにルシャだと気付いた。

「おぉお前来たのか…!明らかに休校だろうに」

「学校ってか先生が心配だったから…こまめに休憩しないとダメですよ」

「優しい…」

 このような極寒でも人の温もりを感じられるから人間は辞められないのだとバカげたことを言ったノーランを職員室に押し込んだルシャは魔法で屋根に積もった雪を消し飛ばした。

「雪が落ちてこんなに揺れるのか…」

 建物の周辺には一瞬にして雪の壁ができた。ルシャのおかげでしばらく崩落の心配をしなくてよくなったので校長と教頭を残して他の先生は帰ってよいということになった。

「お前が来なければ数時間おきに交代で屋上に出て除雪をすることになっていた。家のことが心配な先生はひと息つけるだろう」

「ほんとですよぉ。ルシャさんすごいわ!」

 プリムラがルシャの手を握って軽く上下してから鞄を背負って帰宅した。彼女の家のことは詳しく知らないが、大切な人がいるに違いない。

「…私はあの2人の様子を見に行きます。いつ止むかわかんないのでお2人ともお気をつけて!」

「ああ、ありがとう」

 たった数十分で下校したルシャは往路に印を残しておけなかったので目を凝らした。ルートとのエアレースで挙げたランドマークすらこの銀幕の中ではなかなか見つからない。斜めから差し込む柔らかい弾丸を盾で受け続けるのに疲れてくると、なんとなく物悲しい感じというか、心まで凍り付く感じというか、そのようなものに襲われて、嘆きのヒロインを演じてみたくなった。絶えず身体に打ち付ける雪の粒ですっかり白くなったコートに護られてこのまま白の世界に埋もれてしまうのも悪くないなんて頽廃的なことを考えていると、王子様がサインを出した。

「あれは…」

 視界の悪いときによく用いられる光だ。高層ビルも飛行機もないこの世界で見ることは稀で灯台くらいにしかついていないとされるが、キルシュ邸にはなぜかそれがついていた。温かいオレンジの光に導かれたルシャはびしょ濡れの状態でチャイムを鳴らして王子とは程遠い格好のミーナに家の中へ引き込まれた。

「もぉ!なんでバカ正直に濡れてんのさ!」

 悲しみに暮れていたヒロインを暖炉の前にを座らせたミーナはコートを吊してホットココアを淹れた。

「…なんか雪の中に私だけって思ったら雰囲気に呑まれちゃって。誰かに温めてほしかったんだ。ありがとう、ミーナ」

「温めるなら私しかいないって分かってたね?」

「…ニャンは休みだって分かってたね?」

「もちろん。この大雪、しかも過去最大規模で学校行く奴なんていないっしょ。そういう民族?」

 雪国育ちなら涼しい顔で登校するのかもしれないが、ここの子供たちは殆どがジュタ生まれジュタ育ちなので雪を詳しく知らない。ルシャもそうだ。

「期末試験だしあったら困ると思って一応行ったさ。雪かきして終わりだったけどね」

「たそが入学しなかったらあの学校潰れてたかもね!ハハハ!」

「笑えないよ…それよりここが無事でよかった。しかも暖かいし快適だぁ」

「おうよ。ゆっくりしていってもいいけどあの元気娘の家が心配だよ。もしかしたらこういうポーズで天井を支えてるのかもしれない。私が行っても力になれそうにないからルシャたそが見に行ってくれないかい」

 ここでルシャが場所を把握できないと問題を挙げた。元より行く気だったということを聞いて仲間意識の強さに感動したミーナは両手で天井を支えるポーズをやめ、ある場所に親友を案内した。


 機械のたくさん並んでいる部屋に通されたルシャは困惑した。躓いてどこかに触れようものなら世界が滅ぶと思っている。

「ここは?」

「キルシュ・グループが収集した情報だよ。この機械を使って閲覧できる。でも今回の目的は見ることじゃない」

 ミーナは右端の機械を操作してモニターに地図を映した。

「…なにこれ?」

「赤点はキルシュ建設が関与した建物で、この家から出したような光を出せる。ルシャたそが迷わずリオンの家に行けるように、ルート上の建物を光らせる」

「おぉ!」

「この地図を見てくれ。丸が点滅してるのがリオンの家。それまでの建物を表示するとこうなる…それに沿って行くだけだ。できるね?」

 緩やかな曲線を描くルートはルシャにも分かりやすい。ミーナが赤点の打たれた建物にあるシステムにアクセスしてライトを点灯させるように操作すると、現地の映像にはっきりと示された。

「すごい!こんな技術が…なんのためかはさておき、これでリオンの家に行ける!」

「ルシャ、どうか気をつけて」

「うん!行ってくるね!」

 ルシャが光に沿って進むと、木材の尖りが雪から顔を覗かせているのが見えた。

「まさか!」

 ルシャは必死に雪をかいて埋もれたものを探した。ここにはアパートがあるはずで、こんなに天井は低くない。耐久力の弱った柱だけでは積もった雪の重みを受けきれなかったのだろう。助けを求める声も吹雪にかき消されるし、もがく手も雪に埋もれる。絶望が蓋をしていた。ルシャは魔法で掘るのではなく魔法で溶かすことを閃いて熱源を設置した。重みで凝固した雪の塊すら容易く溶けて水になってゆく中でぐったりした住民を見つけた。そこにはリオンと家族もいる。

「しっかりして!」

「う…?」

 リオンはなんとか保たれていた。恐ろしく強靱なガラステーブルの下に落ちたお菓子を拾おうと潜り込んでいたからだ。

「く、潰れてはないけど冷えてる…!」

 リオンにコートを貸したルシャは続いて両親と弟を探した。3人はすぐに見つかったが、3人とも意識を失っていた。冷たい檻に閉じ込められていたのだから、奇跡でも起きない限り無事ではない。ルシャは怪力の魔法で3人を持ち上げてリオンの傍に置くと、最強の魔法使いの実力を発揮した。辺り一帯の雪を溶かしたどころか、本来であれば敵役に徹するはずのウルシュに人助けをさせた。大量に生み出されたウルシュは雪をものともせず進んで倒れた住人をその両腕で抱えて温もりのある場所へ連れてきた。

「よし、圧死はなかった…」

 老朽化していたアパートの残骸も全貌が明らかになり、どこから崩れたかも知れた。おそらく知識の浅い人がその場凌ぎに金属の板を合わせたのだろう、上からの力に耐えられない脆い柱だった。金属板そのものが破壊されなくても、それと繋がっていた木の柱が破壊されては上を支えることができない。人災ともとれるこの状態をルシャは確かに記憶した。

 幸いにも近くに公民館があるので住民をそこへ連れて行き、レスティア家の4人はミーナの家に連れて行った。

「…任務完了か。ご苦労様」

「もぉ、死んでたらどうしようかと思ったよ」

「ルシャたそが来なかったらあのまま凍死だったろうね。命の恩人…にあげられるものはないから、私自身をあげるよ」

「え、なにその告白…気持ちだけ受け取っとくよ。友達を助けるのは義務でも仕事でもない。ただ私の意思によるものだから」

「私だけじゃなくて家族まで…ルシャ、本当にありがとう」

「うん。助かってよかった。あの家には問題があった。思い出のある場所だとしても、改めるべきだった。ああして崩れることでしか気付けなかったのは管理会社の責任かな…それより弟くんとご両親は大丈夫かな。かなり危ない状態だったけど…」

 3人は別の部屋に運ばれてキルシュ専属の医師に診られている。その結果が出れば少しは安心できるだろう。心を乱しているリオンのためにルシャとミーナで挟んでやった。

「備えるべきは魔王だけじゃなかったんだね。またルシャに助けられた」

「災害って恐ろしいね。私もあのまま寝てたらどうなっていたか…」

 今日ほど備えあれば憂いなしという言葉を痛感した日はない。この頑丈な家がさらに説得力を足している。

「そもそも雪の積もらない構造だし、1階が埋もれても2階から出入りできるから問題ない。問題があるとしたら外の設備かな。水道管の水が凍ってるからそのうち破裂するだろうし、給湯器も外のやつがダメになってそうだ。今は火と布で暖まるしかない」

 備蓄の多いこの場所に来られたのは幸いだった。雪が解けるまでに死ぬことはない。時計なくして時間を知ることのできない今、ルシャは部屋の掛け時計を見て驚いた。

「もうこんな時間なの!?」

 必死に動いていたので時間の感覚が抜けていた。時刻は2時半、とっくに昼は過ぎていた。

「…腹減ったなぁ。何か作るか」

「ルシャたそ朝っぱらから動いて疲れたっしょ。休んでなよ私が作るから」

「やったぜ」

 ルシャはまだ動ける様子を見せながらもミーナの言葉に甘んじてリオンとともにソファに座って毛布を巻き付けた。

「…これからどうしよう」

 リオンにとってまず解決しなければならないのは住処の問題だ。完全に壊れてしまった家には大切なものもあってそちらへ意識が向かうものだが、彼女は先の事を考えるようにしていた。

「ミーナが空き部屋があるって私を住まわせる気を起こしたから、リオンがそこに住むのはどう?」

「弟と親はどうすっかな…」

「ミーナが一緒でもいいって言うならそれでいいし、ダメなら私の家かな?正直言ってご飯作ってくれる人がいるならすごくありがたい。私が手芸に集中できるからね」

「なるほど…でもルシャ1人に対してうちのが3人っていうのはなぁ…」

 そんなことを話しているとミーナが手早く1品作り終えていた。

「ん?パパ様いるから相談すればいいんじゃね?キルシュ・グループの会長なわけだし、空いてる部屋の1つくらい持ってるっしょ」

「あ、そっか…スケールがでかすぎて想像できなかった。そういう人もいるよね…うん」

 誰かに気を遣うことなく過ごせる場所が理想なので、ミーナの言葉は希望となった。食後の娘に呼ばれた父が初めてルシャたちに顔を見せた。

「お邪魔してますッ!」

 緊張して過剰に畏まったルシャとリオンに柔らかな笑顔を向けたミーナの父ピエールは2人の向かいに座って話を始めた。意外にも声が高く若々しい。

「大変だったね。こんな災害、私も体験したことがなくて戸惑っているよ。それぞれよく対処してくれていることを願うけど、この猛吹雪じゃ確かめようがないね…君がリオンさんだね。ミーナからざっくりと事情を聞いた。私も心を痛めているよ…この事態に対してキルシュ・グループは複数の提案を用意できる」

 ピエール会長から複数の受け入れ先を提案されたリオンは決めかねた。このようなことは両親が決めてきたからだ。ピエールはそうだろうと思っていたのでここに来た意味を語った。

「今決めろと言っているのではないよ。ご両親に先んじて君に知らせて考える時間を与えたかったんだ。どれを選んでも不足のない生活をしてもらえるけど、細かなところは本人の感覚によるからね…」

「わかりました。しっかり考えます…私たちのために手配してくださってありがとうございます」

「ああ、娘がいつもお世話になっているからね。奔放で迷惑ばかりかけているだろう?」

「うひひ」

 ミーナが変な笑いを浮かべるとルシャとミオンは首を横に振った。

「とんでもない!むしろ私たちがミーナさんにいろいろと助けてもらってばかりで…」

「そんなことないくせにぃ」

「聞く話によるとよく身体を触られているということで、本当に恥ずかしい限りだよ。止めるように言っているんだが聞く耳持たずでね…すまない」

「ハハハ、全然問題ありませんよ。私たちも楽しんでいるところがありますし。大歓迎です」

「ミーナさんはモチモチしてて…その、触り心地がいいですからね…」

 3人揃ってイチャイチャすることに前向きだということを知ったピエールは『モチモチ』と聞いて大笑いをし、娘の親友にできることを考えた。

「この子から聞いているかもしれないが、うちの空き部屋を使っていい。あの部屋は将来のためにとったもので、今は息子たちが使っていないからね。置いてあるものを使うのも私物を持ち込むのも自由だ。常識的な時間ならいつでも歓迎するよ」

「ありがたく使わせていただきます」

「お、こんな時間か…あとはミーナに訊いてくれ。悪いけど長く時間をとれないんだ。予想される損失と復興のための指示パターンを考えないといけないのでね…これで失礼するよ」

 深く頭を下げて会長の退室を見送った2人は長い息を吐いてミーナに本音を吐き出した。

「オーラがすごいよぉ…言ってることが失礼なんじゃないかって振り返りまくってた」

「いや普通のお父さんだから緊張する必要ないんだけどさ…本人もラフでいいって態度だし」

「私は住居を借りる立場だからさぁ」

「まあね…にしてもそこまで畏まらなくてよかったよ。無事に部屋を借りられるわけだし、3人が戻るまでゆっくりしてな。寝たけりゃ寝ていいし」

「うん、寝る…」

 リオンに続いてルシャまで寝始めたのでミーナも寝て美少女3人が1つの部屋に雑に転がる奇妙な状況を作り出した。それを復活したリオン弟が見て訝しんだ。




 3人が起きた頃には雪は止んでいて、ルシャは除雪のために帰ることにした。リオンはまだ行き先を決めていないので今日のうちは家族と一緒に空き部屋に泊まることになった。

「んじゃ」

「またね~」

 家に帰ったルシャは早速屋上に光源を置いて辺りを照らしつつ雪をどかし始めた。飛行やら除雪やら盾やらにかなりの魔力と体力を使ってしまっていたため、すぐに疲れてしまった。流石にこの寒空の下で眠るのは危ないので雪を残して中に入ると、自室の布団に辿り着けずにリビングのソファに転がってしまった。立ち上がる余力がなく、物思いに耽ることしかできない。今頃リオンは温かい風呂から出てミーナママの良い匂いのする服を着ている頃だろう。前の家よりも遥かに快適な場所で心を落ち着かせることができたはずだ。

 次に思ったのが王都のことだ。ジュタだけこんな豪雪に襲われたのではなく、広い雨雲が好き勝手やったに違いない。復興中の王都に雪が降れば遅滞は免れない。中央は早速対応を余儀なくされている。

「まあでも大丈夫か。雪なんてあの3人がいれば一瞬で解けるし…」

 余計な心配をするのは師匠たちに失礼だろう思ったのでニヤニヤしながら動き回っている3人を想像しておいた。だんだん考えるのにも疲れてきたのでそのまま目を瞑って眠気に任せると、このソファでも熟睡できた。




 翌日、朝早くから各地で除雪作業が行われていて、既にメイン通りは人が通れるようになっていた。体力を回復したルシャは寝違えたのか肩を気にしてはいるものの魔法を使うのに全く支障がないので家の雪をすべてどかしきった。体力にも時間にも余裕があるので学校に行って先生の手伝いをしようと思い立つと、視界の中で飛んでいる人がいた。

「あ、勇者だ」

 ジュタで飛べる人間は限られているのですぐに知り合いだと判る。あれはむっつりスケベ勇者ルートだ。飛ぶ度に思い出すだろうとからかいに行くと、あちらから手を振ってきた。

「お前は動いていると思ったぞ。昨日は大丈夫だったか」

「大変だったよ。リオンの家が崩れてみんな下敷きになってたから助けるのに必死で」

「お前じゃなかったら誰かが犠牲になっていたかもな。よくやったと言うべきか…で、お前も学校の除雪に来たのか?」

 ルートは街を助けることは実力者の責務だと考えていて、雪の止んだ今日になって活動を始めたのだそうだ。期末試験へ向けて猛勉強をしていたルートが延期になって調子を狂わせている中でこうして貢献を志しているので、感心した師匠は久々に彼を褒めることにした。

「お前は、なんていうか…スゴいな」

「当然のことをしているだけだ。ほら、先生たちがやってるぞ」

 照れ隠しで加速したルートを追ったルシャはノーランを見つけて加勢した。先生陣は既にかなりの雪をどかしていて、雪解け水をタンクに貯めていた。水路に流してしまうと溢れるからだ。

「この学校は災害時の避難場所になってるからいち早く復旧させなきゃいけないんだが、昨日のうちにというのは無理があると誰もが分かっていたはずだ。今日の夕方までには人を受け入れられるようになっていると期待されてるってのが俺らの見解で、それに間に合うように作業をしているところだ」

 体育館で雑魚寝というのが気に入らない、あるいは体調に不都合があって少人数のところがいいという人のために教室も開放するということで、備蓄段ボールがそれぞれに運び込まれていた。ルシャの教室にも布団や食料が積まれている。

「もう入れていいんじゃないですか?」

「ああ。耐久度の検査を受けたら正式に始まる」

 避難してきたのにそこで被災するというのは避けねばならないので業者の点検が必須だ。校長と教頭が昼過ぎに業者のところへ行くというので夕方にはすべての作業が終わるはずとのこと。

「お前らは引き続き除雪作業をしてくれ。できればでいいからこの学校の周辺も頼む。そうすれば多くの人がこの学校で安心できる」

 被害があったのはリオンのアパートだけではない。他にも耐久性の低い老朽化した木造家屋や雪の積もりやすい構造のせいで崩壊してしまった建物の住人がいる。ジュタの人口の1割だとしてもそれなりの数だから、この学校が果たす役割は大きい。大切だということを理解した2人の生徒はいつも以上に頑張って除雪した。


 折角学校に来たのだから気になっていることを訊いておく。期末試験がいつに延期になったのかということだ。

「それはまだ決まってない。生徒への評価を出して進路指導に役立てるほか、進路に提出する参考資料を作るためにやらなきゃいけないからいつかには必ず決まるんだが、すぐに日常生活に戻れない生徒がいることを考えなきゃいけないだろう?」

「リオンとか…」

「え、リオンの家に損害が?」

 ノーランは懇意にしている部員に不幸があったことを嘆いた。これは彼の立場を決める事態だ。

「ミーナのお父さんが仮住まいを用意したけど生活がすぐに戻るわけじゃないし精神的なケアも必要ですから、それが終わる前にテストをやるっていうのは反対です」

「俺もそう思う」

 元通りにするのは簡単ではない。大人たちの苦労を知ることはできないから、自分にできることをするだけだとルシャは割り切った。自分の魔法こそがこの雪をどうにかできると思っているので今日も最高級の魔法で雪を解かす。あっという間に雪が水に変わって水路を流れてゆくのだが、魔法から離れると次第に冷たさを取り戻して凍ってしまう。道路の水が凍るとスケートリンクのようになって非常に滑りやすくなるため、そこまで対応しなければならなくなった。

「解かすよりどっかに移動させるほうがいいけどなぁ…その手段はないなぁ」

「氷まで割ればいいだけだ。大したことじゃない」

 ルートが魔弾で次々と氷の膜を破壊してゆくと、学校までの複数のルートが完全に復旧した。これで多くの人が避難できる。

「よし!」

「随分と破壊的だったねぇ…まあいいか。任務完了かな?」

「ひとまずはな。俺は街で助けを求めている人がいるか探す。じゃあまた」

 勇者として魔王を倒すことはできなかったとしても、今のルートの背中はヒーローっぽい。ルシャは彼と違って体力がないので休憩のために家に帰った。

「雪遊びとかすればよかったかなぁ…いや、しもやけるからいいか」

 ロマンチックになると負傷するので雪は危険だ。日本では大雪の日に外で冬の定番ソングを歌うという行為が流行っていたが、今日のジュタのような程度だと全員が埋もれる。

冬の定番ソングで真っ先に浮かぶのは何ですか?作者はホワイトブレスでした。

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