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妖精のことがら  作者: 岡池 銀
第二章
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第二章 「買い物からただいま」その一

第二章、楽しんでくださいね

 アカネのデモの後、特に会話することもなく、マンションの前に着いた。

「ずっと前を歩いていたけど、よく(うち)がわかったね。エスパー?」

「だから、知ってるって言ってるでしょ?」

「そうだった。ずっと僕に取り憑いてたって言ってたもんね」

「……そうね、その通りよ」

「ずっと外で喋ってる訳にもいかないし、中に入ろ? ってことでちょっと待っててね。すぐに置いてくるから」

「別に急がなくてもすぐそこでしょ?」

「まあね」

 それでも待たせたら悪い。

 駆け足で駐輪場に自転車を置き、戻ってくる時に盛大にこけた。

 大きな音を立てながら自転車が倒れていく。

「紅太! 大丈夫⁉︎」

「あはは、ドジ踏んじゃった」

「もう……。気づいてないんだろうけど、結構消耗してるんだから無理しちゃダメ。怪我はない?」

「ごめん、大丈夫。心配かけたね。自転車戻すの手伝ってくれる?」

「本当は絶対安静くらいしていて欲しいんだけど、言っても聞かないよね?」

「うん、当然」

 自分のミスなんだから、自分でフォローできるようにしたい。

 本音を言うと、アカネに手伝わせることだって忍びないくらいだ。

「人が来ないうちに片付けちゃいましょ」

 そう言いつつ、既に何台か自転車を起こしている。

 僕もそれに倣って自転車を起こす。

 自転車を起こしながらふと思った。

 何の気なしに手伝ってくれているけど、妖精の身体って透けるんじゃなかったっけ?

 透けるのなら自転車なんて持てないはずだ。

 そう思ってアカネを見るが、そんな様子は見られなかった。

「何? じーっとこっちを見て。何かついてるとか?」

「ごめん、また不思議に思ってさ。妖精の身体って透けるでしょ? 何で物は持てるのかなって」

「あぁ、それはね、妖精は物体の魂を持ってるからよ」

「魂? 物に?」

「えぇ。魂って言うのはね、人や動物、植物や無機物に宿る魔力の(かたまり)なの。そして魂は肉体に、肉体は魂にそれぞれ影響し合う」

「えっと、つまり?」

「肉体が動けば魂も同じように動くし、逆に魂が動けば肉体も一緒に動くの」

「てことは、さっきは自転車の魂を持ってたってことだね」

「その通り。ついでにもう一個知っておいて。妖精は生きている人間に(さわ)れるけど、生きている人間は妖精に触れない。肉体を持ってると肉体にしか触れないからって理屈らしいわ」

「んー……言ってることはわかったけど、どうして知っておいて欲しいの?」

「いつか私がピンチになった時に、貴方ならきっと体を張って相手の妖精を止めようとするでしょ?」

「それはそうだよ! 一緒に戦うんだから、それぐらいさせて欲しいな」

 女の子にばかり戦わせるのも嫌だ。

 と、言うよりどうせだったら僕が力を手に入れて、僕が戦う方が良い。

 

 僕の望みは僕が叶える。

 叶えなくちゃいけない。

 ……あれ?

 でも僕の望みって何だっけ……?

 

「あのね、私だって紅太に守られたくない訳じゃないの。問題は貴方が妖精に触れないから、その行動が無駄になっちゃうことなの。相手を止められないばかりか、巻き込まれて殺されてしまうかもしれないのよ? せっかく私一人が殺されるだけで済むのに貴方まで死んじゃうことはないでしょう?」

「で、でも何もできないなんて嫌だよ! きっと頑張れば何かしらの結果が……」

「出ないわ」

 言葉を切るように言う。

「それでも相手が怯んでくれる可能性だって……」

「はぁ……そこまで言うなら私を捕まえてみたら? 私はここから一歩も動かないから」

 呆れて溜め息を吐いている。

 無駄かどうかなんてやってみないとわからない。

 それにやってみれば案外なんとかなるもんだ。

「行くよ!」

「いつでもどうぞ」

 やる気なさげに答える。

「おりゃ!」

 僕は小さくジャンプしながら飛び掛かって抱きつく。

 氷を抱いたような冷たさと華奢で柔らかな体の感触、そしてバランスを崩して転んだおかげで、硬いコンクリートもついでに感じることになった。

「痛っ」

 左肩辺りを思い切り打ちつけてしまった。

「え? え……⁉︎ へ……⁉︎ は……⁉︎ なっ⁉︎」

 僕の腕の中でアカネが困惑している。

 何故だか顔も真っ赤だ。

「できた! できたよ! これでアカネを庇ったり手助けしたりしてもいいんだよね⁉︎ 無駄にはならないんだよね⁉︎」

「ん〜もう! わかった! わかったから早く離して!」

「あ、ごめん! 大丈夫? 痛くない?」

 咄嗟に体を捻って、僕が下になるようにしたが…。

「よいしょ……っと。大丈夫、紅太が庇ってくれたおかげでどこも痛めてないわ」

 ゆっくりと立ち上がり、少し崩れた服を直している。

「さてと、とりあえず何故か紅太が妖精に触れることはわかったわ。それでも極力控えること。絶対に止められるって思った時だけ助けて頂戴」

「わかったよ」

 僕は服に付いた砂粒を払いながら答える。

「ところで紅太? さっきはなんで私を庇ったの?」

「そりゃ、あのままだったらアカネが頭を打っちゃうかもしれないからね」

「質問が悪かったわ。もしかしてさ……だ、抱きつく前にわかってたの? こうなることが」

「え、勢い良く飛びついたらどうなるのか、わからないくらい頭悪いって思われてるの?」

 流石についさっき出会ったばかりの子にそう思われるのはショックだ。

 ……そんなに頭が悪そうに見えるのだろうか。

「いや、そうじゃないから。私が結構否定していたのに、妖精に触れることを信じて疑ってなかったみたいだから」

 なんだそんなことか。

「それは当然だよ。僕は妖精が見えるし、前はできなかったけど今日には話ができることもわかった。なら、触れないなんてことは有り得ないよ」

「うーん……? そう? その根拠に何の説得性もないけど……。紅太の目を見ていたら、本当にそうなんじゃないかって思えるのが不思議ね」

 (ただ、やっぱり危なっかしいわ。紅太の信じて疑わない所が裏目に出ないと良いけど)

「どうしたの? 急に独り言なんて」

「大丈夫よ、気にしないで」

 そう言われると気になるものだが。

「うーん……わかった」

 僕に聞こえないように言うってことは、とりあえず問題ないことなんだろう。

 

 一応、事態は収束した事だし帰ろう。

 そう思った時には、アカネはエントランスに向かっていった。

 

 エントランスの出入り口はセンサー付きの自動ドアになっていて、二つあるうちの外側はセンサーのみ、内側はオートロックとセンサーが付いている。

 何故、唐突に、特にどうでもいい(はず)のエントランスの出入り口について話したか。

「……」

 アカネは外側のドアの前で立ち止まっている。

「………」

 右手を高く上げて、右へ左へ大きく振っている。

「…………」

 上げた右手を下ろし、今度は気を付けの姿勢で跳ねている。

 ドアが(ひら)かないのだろう。

 何とかしてセンサーに感知してもらおうとアピールしているようだ。

 

 ……何だこの可愛い生き物は。

 小動物や子供を見ているような、見守りたくなる可愛らしさがある。

 正直ずっと見ていたい。

 

 五〜六回程跳ねただろうか。

 こちらを向いて手招きしている。

 近づくとセンサーが反応してドアが開く。

「開かなかった……」

 そう口にしたアカネは、目に見えて落ち込んでいる。

「……いつかきっと妖精に反応して開く自動ドアを作ってくれるよ」

「フォローになってない!」

 少し涙目だ。

「ごめん……」

 僕達が話していると突然、内側の自動ドアが開いた。

「あれ? 紅太じゃん。そこで何やってるの?」

 声のする方を向くと、そこにはジャージ姿の香奈が立っていた。

第二章に入っても変わらずのんびりとしております。

読者の皆様に置かれましては、気長に今後の展開をお待ち頂ければ幸いです。

今後の励みになりますので、感想やレビューをよろしくお願いします

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