宵闇綺談 |あやかし《ひとならざるもの》が技
なんかしらないうちに、井伊直虎さんが、某国営放送の大○ドラマで主役なのだそうです。
好男子ではなく、講談師という奴は、見てきたように嘘を吐くと申しますが、それも時には、真実が混ざっていたりするものであります。
好男子じゃなく、講談師は、見てきたように嘘を吐くであります。
疲れた後、朝餉をとって、井伊直虎として、城での決済を済ます。ぼくはというと、それを傍で、小姓として控えるだけなのですることはない。今日は、湯を沸かしたから、交代で使うようにと指示をしていた。なんかみんな喜んでいる。
そして昼から、カグチの鬼釜へ査察へ向かうと告げる。戦があるわけではないので、少しのんびりした感じだ。
遠江三十万石前後だろうから、常備兵が、一万石で百人とすると三千、千程が岡崎城代の井伊直盛と一緒に出掛けていると言ってたから、千が浜松城守備で、留守居が数百くらいかな。
井伊谷城は、山城だから全貌が見えない、館の奥は、御所跡らしいから、かなり大きい構成になっている。数百くらいだと、館だけで足りてそうだなぁ・・・館の造りは、どれも大きくは変わってない。白い漆喰で基礎を造って、柱を立てて、土壁を造り、屋根は?葺きで造られている感じだ。史実で言うと、基礎を除けば、金閣寺や銀閣寺と同じ造り方と言った方がいいかも知れない。
基礎に使われている白い漆喰は、漆喰というよりはローマンコンクリートみたいな感じで造られている。壁の方は、白漆喰が綺麗に塗られていて、姫路城みたいに綺麗な造りになっている。
経済的には、良い感じなのかな?
「ねぇ、遠州は豊かなのかな」
「ん。余裕があるという程ではないが、最近は、浜松で塩は有名だからな」
「塩は強いな、どうやって造っているの」
「海から海水を汲み上げて、塩炊き釜で茹で上げて塩を造っている」
「塩炊き釜は、鬼火なの」
「そうだな、伊平の鋳物とは違って、一晩あれば造れるからな」
「それだと、海があるところは大抵造れるんじゃないの」
「そうでもないさ、鬼火を使える者達を集められるのは、どこでも良いわけじゃないよ」
「そっかぁ、ここだと祐が居るから、鬼が集まってるの?」
「そうなるかな、あたしは隠し事も嫌いだからね、子供の頃から鬼角を晒して領内で遊んでたから、鬼火を使える者達が集まって来たのさ。そうすると、彼らに仕事を回さないといけないだろ。最初は塩造りで、次が鋳物を始めたんだ。鋳物はこの数年だから、もうしばらくかかるかな」
「祐は凄いね。ところでさ、湯殿もだったけど、床は、漆喰より水に強そうだし、硬い感じがする」
「確か、石灰岩を砕いて、鬼釜で焼成させて、火山灰を一緒に型枠にいれて固めるとできるよ」
「それが、伝わっているの」
「まぁ、渡辺湊や堺湊はそうやって造っているからな。この屋敷も曾祖母様が渡辺から来た時に建て替えたそうだ。何度か落城して焼かれたけれど、基礎は残ったから、再建が楽だったぞ」
「えっと、そうなんだ」
なんか、渡辺党が凄すぎて何も言えない。渡辺綱か誰かは、ぼくみたいな感じでこっちに来たんじゃないのかなぁ・・・
鬼釜を見にカグチの家に向かう。
河原近くに堤が築かれ、堤の上に建てられた5丈くらいの塔が見える。
「あれが、カグチの鬼釜なの?」
煙突を指さして、聞いてみると、
「あぁ、カグチの鬼釜だ。三日ほど前に玉鋼を収めたから、今は動いてないな」
「玉鋼かぁ、鉄はどこから集めるの」
「遠州の北には、諏訪があるからな、浜松で塩を造って、諏訪に送って、諏訪から鉄を買うんだ。だから、ここらの鋳物衆は、北の伊平に集まっている」
「カグチは、違うの」
「まぁ、カグチは貉だからな」
「貉ってあやかしのこと」
「あぁ、あやかしだけど、京洛の主上さんに仕えるあやかしなのさ。あたしら井伊家は、主上さんに味方した一族でもあるからね。伊勢斎宮から一人、あたしに就いていてくれるんだ」
「伊勢斎宮?伊勢神宮のこと」
「あぁ。伊勢神宮に仕えた斎宮家と、京洛の賀茂神社の斎宮家があるけど、カグチは、伊勢斎宮から来ている」
「斎宮は、維持が難しいって言われたけど、大丈夫だったのかな」
「え。あぁ、主上が二つに分かれて戦ったり、京洛が戦になったからな。斎宮の維持は厳しかいみたいだけど、各地に派遣される貉の寄進で維持されているよ」
「伊勢斎宮や賀茂斎宮には、「医心方」や「神農本草経」の写本を含め様々な本が収められていて、貉は巫女貉として育てられるからね」
「巫女貉って、女のお医者さんってこと」
「あぁ、カグチは、鬼火も使えるけど、医療の腕もあるんだ、大和の延命院にも行っているからね」
「延命院?」
「大和延命院は、藤原家の大学寮医学院で、大和には渡辺綱の妻が建てたんだ」
「延命院もあやかしが建てたの?」
「そうなるかな。颯は葛城のあやかしだから」
「じゃぁ、そこからも医者が生まれるんだ」
「伊勢斎宮や賀茂斎宮からだと、貉巫女が育てられているし、大和の延命院や下野の足利学校では、様々な薬樹を使った薬師が育てられてる。狗嬪も延命院の薬師だからね」
「薬師かぁ・・・狗嬪もあやかしなの?」
「知らないな、血は引いているってところじゃないかな」
そっか、長い年月が経過すれば、血の流れも様々な流れを持つようになるか・・・
釜は堤の上に建てられていて、河原を下りていくと、河原に小屋が建てられていた。井伊谷城の湯殿と同じ、白い漆喰の基礎に、柱や土壁が造られている。大きさは平屋みたいだけど、かなり大きい。
小屋というには大きな家の扉を開けて、
「カグチ、居るかぁ」
と祐が叫ぶと、
「いるぞ。今は、習字の途中だ」
「「あ、姫様だ」「「姫様、姫様」」」
口々に子供たちが集まってくる。
「ほら、これ虎っていう字だよね」
「ん。確かに虎かも知れないけど、あまり強そうじゃないな、あたしはそんななよなよした虎じゃないぞ」
「「「「ははは、姫様強い」」」「もっと頑張るっ」」
子供達の声が響く。
「ほら、外で遊んで来い」
「「「「「わーい」」」」」
叫ぶと、一斉に駆け出して行った。
「で、そっちの若いのは誰だい」
「あたしの夫の篭だ」
「夫って、旦那が居たんじゃないか」
「あれは、主人だ」
「まぁいいや。あたいは貉のカグチだ」
「はい、はじめまして。井上篭と言います。井伊の姫様にお仕えしています」
「へぇ、可愛い挨拶じゃないか、どこから攫ったんだ」
「別に攫ったわけじゃない。神隠しで落ちたそうだ」
「神隠しで落ちたぁ・・・」
「うん。お前も知っているだろ、竜の洞に池があるの」
「あぁ、一緒に連れてかれた洞だろ」
「そこで、水垢離してたら、落ちてきたんだ」
「落ちてきたって、どこから、あそこには天井も岩だぞ」
「あぁ、だから神隠しで落ちてきたということさ」
「ほぉ・・・」
こっちを見ると、にまぁって笑って
「よし、あたいとやろう」
「こら、あたしの男って言ったろ」
「いいじゃないか、あたいも子が欲しいからな」
「子って・・・えぇえぇっ」
思考が停止してます・・・
「まぁ、カグチは、こんな奴だ。あたしと一緒で良くて、篭が良ければあたしは良いぞ」
「良いのか?頼む篭。あたいを抱いてくれ」
そのまま小屋に引き込まれる。
「え。えぇぇえッ。どういうことですか、祐姫様」
「大丈夫。あたしも一緒だ」
「えっとぉ」
小屋というか部屋に引き込まれて、抱き寄せられる。先ほどまで、習字をしていたような紙が散乱している。ぷにぷにとたわわに膨らんだ胸乳があたる。板間に腰掛けるようにしてカグチに抱かれると、口吸いを始めた。祐姫ももどかしく、カグチの小袖を脱がしていく。肌襦袢に下帯・・・あれ?下帯が膨らんでいる。
「え。ちょっと待って、カグチさんって」
「貉と言ったろ。貉は女でもあるし、男でもある」
「巫女貉は、女の主人であれば、男となって傍に仕える。主人が男であれば、女となって傍に仕える」
「子は、どうするの?」
「貉の子は、貉にしかならない。だから、すべての貉は、斎宮で引き取って育てられる」
「でも、女の主人だと子は?」
「誰の子であっても、女の子は、母親の子だろ」
「ねぇ、祐の子って・・・」
もしかして、カグチの子とかじゃぁ
「それは、氏真の子だ。カグチが遠州に来たのは、あたしが、子を産んでからだ」
「祐は、カグチが好きなの」
「ん。好きだぞ。あたしの男ではあるからな」
そっかぁ、子供達も判ってるから、小屋から離れたんだ。
「そなんだ」
「あたしにとって、夫にしたいのは、篭だ。それだけではダメか」
少し、口吸いを離して、カグチをみつめる。
「カグチさんは、女でもある貉で、男としてぼくが欲しい」
「あぁ、それは本当だ。姫さんの女を満たせる男なら淫気の強さが期待できるからな」
「淫気の強い男なら、誰でも良いの?」
「貉は、貉同士では子はほとんどできない。だから、子を成せる相手を求めるんだ」
「子を成せる相手に従うっていうこと」
「そうだ。貉には、それが自然だからな」
「ぼくで良いの?カグチさん・・・」
「お前が、どこの国から来ようと、男であり、貉を母にしてくれるなら、あたいら貉が、命を賭ける相手になるさ」
側で、祐が話してくる。
「篭。貉は、ずっとそうやって、形を変えて、一族を繋いできたんだ。今は、斎宮家に仕える眷属として、血を繋げる男を求めて、巫女貉となって国を巡るんだ」
「それが、巫女貉。じゃぁ、女の主人だと好ましくないということ」
「そうだ。あたしは女だから、カグチを母にしてやれない。カグチはこの正月には二十になる。そろそろ母になるのが難しくなるんだ。だから、篭に頼みたいんだ」
「ぼくに?」
「あぁ、あたしの夫以上に、カグチを母にして、あたしの傍にいてくれる相手はいないからな」
そういうことか、他の誰かに抱かれて母になると、カグチさんが離れていくということか
「子がなせるかどうかは、判らないけど良いの」
「あたしの夫なら大丈夫さ」
これは、ハーレムということにはならないと思うよなぁ・・・と思いつつ、カグチさんをいただきました。
「ありがと。篭」
「流石だ。次はあたしだな」
と感謝されました。良くわからないけど、上手くいったようです。そして、祐に抱かれて、昼は過ごしました。
子供達と園さん(カグチさんの妻)達が、昼食を造りに来て、ご一緒させていただきました。子供達は、園さん達の子供だけではなくて、間引かれる子供を、カグチさんが引き取っていたとのこと。ということは、孤児院ということか。良い感じだなぁ・・・
「カグチさんて、遠州に来る前は、どこに居たの」
「遠州に来る前は、三河の渡辺党に居たよ」
三河の渡辺って、鬼半蔵こと渡辺半蔵守綱か。年齢的には、父親あたりかな。
「子はなせなかった」
「まぁ、将来の見込みありそう子はいたけど、あたしは間に合いそうに無かったから、次の巫女貉に託して遠州に来たのさ」
将来っていうのが、渡辺半蔵守綱のことかなぁ・・・
「ここは、女の主人だった」
「あぁ、あたいはさ、姫さんが気に入ったし家族もできたから、ここで良いかって思ってたんだ。ここなら三河も近いからね」
「あぁ」
だからか、三河の渡辺党で子をなしたら、カグチが離れてしまう。祐は、それが嫌だったのか。
囲炉裏を築いて、薪を焚いた大鍋で煮込んでいた。昨日仕留めた猪を捌き、
「鬼火だと、大鍋が溶けるのかな」
「あぁ、狐火だと、大鍋を掛けるには時間がかかるな。炊事は薪になるかな」
「温石だといけないかな」
「温石って、布にくるんで温める奴だろ」
「鬼火とか狐火でさ、石を温めるんだ。それがさ温石として使える」
「温石でも熱いだろ」
「でも、煮炊きとか、布にくるんで子供に抱かせるには良いと思うよ」
「煮炊きに使えるのか?」
「あぁ、大鍋に具や水を入れて、赤く焼いた石を入れたら沸騰して料理を作ることができるよ」
「鬼火で石を焼くかぁ、石なら赤くなっても溶けるまではいかないか」
「そだよ」
これは、自分で料理で試したものなぁ・・・
食事をして、井伊谷の城へ戻ると、不機嫌そうな彩女さんの顔があった。
「お食事をされてきたのですね姫様」
「あぁ、すまない。でも用意してくれているのだろ、食べるよ」
「ごめんなさい。カグチさんにぼくが捕まって・・・」
「そうですね。篭様は、胸乳がお好きですから」
「え、胸乳が好きって、えぇぇ、なんで」
「姫様にしても、カグチ様にしても、胸乳が大きな方ばかりです」
「そうなのか、篭は、あたしの胸乳が好きなのか?」
「それだけじゃないよ、祐は可愛いし、髪や肌も綺麗だし・・・」
「それから、」
「え、それからって」
「他にもあるのか」
「優しくて、抱かれているとなんか安心しちゃって・・・」
「もう、良いです。ごちそうさまです。姫様」
「変わっているのだな、家の連中は、彩女の湯女風呂に入れるのを楽しみにしているぞ。今日も、凄い喜びようだったし」
「まぁ、湯殿では、皆さま元気に過ごされておりました」
「えっと、大丈夫だと思うけど、湯殿で乱暴とかされたりしないの」
「あらら、篭様、湯女狐は伏見稲荷の眷属で、湯殿は神域ですの。例え、主上様に望まれても、湯女狐に嫌われたら、湯殿に入ることはできません」
「えっっと、性交は良いの?」
「湯女狐が望めば、構いません。男女の営みは、次の世代を繋げる聖なる行為です」
ほっ、そっかぁ、湯殿って神社の神域と同じに扱われているのかぁ・・・
「そうだ、来年の正月が明けたら、京洛に行って御狐勧請をおこなうけど、彩女は良いのか?」
「はい。姫様がよろしければ、この地で眠りたいと思います」
「御狐勧請って」
「井伊谷の稲荷に彩女を迎えるための勧請をおこなうんだ」
「えっと湯女狐はできなくなるの」
「はい。湯女狐になれるのは、狐火を一定以上に扱える狐の血を引くものだけです。人の姿をして歳を重ねると、狐火を扱うことができなくなります。わたしは、そろそろ狐火を扱えなくなりそうなので、伏見に帰らねばなりません」
「じゃぁ、御狐勧請は、狐火が使えなくても良い」
「はい。特に狐火を使えるという制約はありません」
「今回は、御狐勧請と御狐灯篭勧請を両方とりおこなうからな、少し出費が増えるな」
「ねぇ、何かぼくに出来ることあるかな」
「え、篭は、カグチと子を成しただけで十分だぞ」
「へッ」
「貉は子が産まれ難いと言ったろ、カグチに子が産まれたら、巫女貉を集めることができる」
「巫女貉が集まるの?」
「あぁ、篭は、新しい貉の子をなす血族となるからな。多分、カグチだけでなく、十人くらいは集まる」
「巫女貉の相手は、ぼくだよね」
「すまない、頼む。医者が増えれば、浜松に養生所が造れるからな」
「・・・わかった。でも、浜松なんだね造るの」
種馬みたいだなぁ・・・これも、ハーレムとか言わないよね。
「そうだな。来年は、ここから皆と浜松の城へ入る」
「えっと、井伊谷城は」
「叔父上に入ってもらうつもりだ」
「そういえば、松平様も子ができたって言ってたよね」
「あぁ、多分、あたしと同じく、子が産まれたら、早川様に預けて、岡崎に戻る。そうすれば、父上が岡崎から浜松に戻るからな」
「戦の準備を始めるの?」
「あぁ、多分、篭が言うように、尾張との大戦になる」
「何時ぐらいになるのかな」
「来年は、兵粮を集めたりとか準備で終わるだろうから、二年後くらいかな」
「それまでに、できる限りのことをするか・・・京洛に行くときは、ぼくも一緒に行っても良いですか?」
「どうした。京洛に何かあるのか?」
「ぼくの知る世界と、ここはかなり違うから、どのくらい違っているかを知りたいんだ」
天主教についても、色々と調べたいしな。多分、この世界における日本は危険だ。莫大なエネルギーを鬼火や狐火というあやかしの力に頼って成し遂げ、凄まじいまでの発展をしている。
風や水を操るということは、遠洋航海もかなりやりやすくなっているということだ。肥前松浦党が、琉球を中心に交易をおこなっている。どんな世界になっているんだろう・・・なんか、ワクワクが止まらないよ。
「わかった。一緒に旅行だな」
「はい」
嬉しそうに笑う祐はとっても可愛くて、思わずギュッとしてしまいました。
さて、これで序章は終わりとなります。
あやかしを含めた戦国乱世を描ければと思っております。
井伊家一党が、遠州を支配した状態で、今川義元の配下となると、三河松平と同じく、直虎(この話では直真)は人質として駿府に置かれ、氏真の側室になっていたように思います。氏真との子をなした直虎を次期当主として、血縁を結ぶという流れとしてみました。




