第九話
お久しぶりです。
続きを書き始めてしまいました。今回は切りのいいところまで書き溜めて無いので、途中から更新遅くなります。よろしくお願いします。
私には役割があった。
公爵令嬢である私は、ある男性に懸想し、周囲も憚らず言い寄るのが役割だった。
その男性とは平民出身の見目麗しい勇者。
神に選ばれたその人は、大精霊の力を借り、さらに自身の強大な魔力をもって敵を打ち払う。
魔族とその配下である魔物に蹂躙されていた村々を救い、希望の光である勇者と仲間達の勇名は国を超え、世界に轟く。
そんな国の英雄たる勇者は、自国の王女と心を通わせていたはずだった。
身分違いの二人は人目を忍び、逢瀬を重ねる。
そこに現れるのがこの私、嫌われ者の公爵令嬢、リディアーヌ。
私は、仲睦まじい二人の邪魔をする。
庭園の片隅、人目のない廊下の柱の影。
二人の逢瀬をいい頃合いで邪魔し、さらに勇者に懸想する令嬢たちと協力し、二人の仲を引き裂く。ーー様に見せかけ、私は、二人が障害を乗り越え、さらに絆を深めるようにもっていく。
それが私が、精霊から与えられた役割だった。
王女は勇者ではない人が好きで、勇者は私の事が好きだと言って、その計画はガタガタになったけれど、それはいつかいい思い出になるだろう。
その精霊は神様を語って現れた。
夜、自室で休んでいると、ふと誰かに呼ばれ目を覚ます。
ベットの上に身を起こすと、部屋の中に淡い光がわだかまっていた。
その光はだんだん強くなり、ゆらゆらと揺れ、段々人型になっていく。
・・・あれ?
今、目の前で同じことが起こっている。
人型は鮮明になり、ついに光り輝く人が現れた。
前回は男性だったけれど、今回は女性。
足元まである長い髪は淡い金髪。
柔らかそうな真っ白なドレスを着て微笑んでいるのは清楚な美女。
彫刻のように整った顔だが親しみ溢れる笑顔の為、冷たさはない。
美女は微笑みを深め、口を開いた。
「わたしは愛と自由の女神、ウルディーテ」
「・・・・」
私は固まったまま、どうしようか考えていた。
今回はどちらの精霊だろうか?
大精霊にばれてしまったら、この精霊も泣くほど怒られるのではないだろうか?
そんな事を考えていると、自称女神様はその場から消え、いきなり目の前に現れた。
「女神だって言ってるでしょ! 人の話を聞きなさいよ!」
女神様は麗しい声でぶっきらぼうに言うと、私の頭をぺしんと叩いた。
「いたっ」
あまり痛くはなかったが、反射的に叩かれた頭に手をやった。
見上げれば、ふんっと顎を上げる美女。
えーと? この人、本当に女神様だろうか。
気軽にぺしんと叩かれたけど。
「女神よ」
腰に手を当て、えっへんと言い切る様は神々しさはない。
どちらかというと前の精霊の方が登場時は神様っぽかった。
私の秘められた魔力を解き放った時はそれはもうビックリしたもの。
「え〜と、女神様? 大精霊様はこの事はご存知ですか?」
「なぜ大精霊に知らせなければならないのよ」
「後で怒られるのではないかと思って」
「なぜわたしが怒られるのよ!わたしは女神よ、偉いのよ!」
前のめりになって喚く女神様。
面倒なので、取り合えず話を合わせよう。
「女神様、わたくしにどのようなご用件でしょう」
「何よ、つまらない子ね。もっとわたしの降臨に驚きなさいよ。
喜んでむせび泣きなさいよ」
「いえ、わたくし、こういう状態は一度経験がございますので」
女神様はむっとした顔をした。
「それは神の名を語った精霊の事でしょ。
今回は本当の神なのだから、ちゃんとしなさい」
「ちゃんと、と言われましても・・」
私は困って首を傾げた。
「あー、もう! 全く!」
女神様が声をあげると、辺りは一変した。
一面何もない空間。
私はそこに座っていた。
「え? ここは?」
「わたしの世界よ」
女神様は目の前に立っていた。
私も立ち上がる。
女神様の横には緑色の光がふわふわ漂っていた。
「大精霊様」
私はその光に声をかけた。
精霊は形を取らず、定まらない。
だから名もない。
普段私の側にいる精霊は人の形を取ることもあるが、それは仮初め。
具現化した力の塊らしい。
呼びかけると緑色の光がふわふわ揺れた。
返事の代わりだろうか。
「女神様を叱りに来られたのですか?」
ばしゅっと音を立てて、緑の光は霧散した。
と、思ったら緑の光がぐるぐる渦を巻いた。
『と、とんでもない! 何を言うのだリディアーヌ!
そんな恐れ多いことを!
我などこの場で言葉を発することも恐れ多いのだ!』
慌てたような声、ではなく思念。
ぐるぐるしているのは慌てているらしい。
あれ? 大精霊が恐れ多いと言うって事は、まさか、本物の女神様?
「やっと分かったの? 鈍いんだから」
笑みを浮かべる女神様。私は目を見開いた。
「め・・」
「そうよ、女神ウルディーテよ」
私は慌てて膝をつき、首を垂れた。
「申し訳ございません!」
「分かればよろしい。許します。頭をおあげなさい」
「はい」
女神様を見れば、慈愛溢れる笑みを浮かべていた。
黙っていれば神々しく、敬うべき方だということが分かる。
この方に許していただけた事に安堵の気持ちが胸に広がる。
「リディアーヌ」
「はい」
「わたしはあなたにお願いがあって来ました。受けてくれますね?」
「はい。わたくしに出来る事でしたら、何なりと」
女神様は笑みを深めた。
「言ったわね?」
あれ? 嫌な予感。
女神様は慈愛溢れる笑みを引っ込め、ニヤリと笑った。
その笑み、絶対ろくでもないことを考えている!
お読みいただきありがとうございます。




