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元魔王(偽)で公爵令嬢リディアーヌの冒険  作者: 星乃 夜一
嫌われ公爵令嬢 対 攻略対象者!?
33/34

第三十一話

なぜここにヒューとオズウェルがいるのか。

ヒューは先ほど足早に向こうへ去って行ったのに。

オズウェルもいつの間に!?

広間に戻った筈なのに。


先ほどの話を聞かれた!?

胸の話をしていたのを聞かれた!


恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしすぎる!

穴があったら入りたい。

深く深く埋まりたい。


しかし、私は腐っても公爵令嬢である。

内心の激しい動揺を抑え、二人を見据えて微笑みを浮かべた。


「あら、ヒュー様、オズウェル様、このような場所でお会いするとは、奇遇ですね」

「・・・」

「・・・」


二人とも無言である。


ヒューは口と鼻を押さえて、勢いよくそっぽを向いた。

オズウェルは私に顔を向けたと思いきや、一瞬だが確かに私の胸を見た。

そして何かもごもごと呟いた。

それほど小さくないと聞こえたが、そんな感想はいりません!


私は失礼な二人に近づいた。

胸を張って堂々と。


「何か仰いましたか? オズウェル様。

それにヒュー様は口を押さえていらっしゃいますが、どこか具合でも・・・」


挑発するつもりで高飛車に近寄ったのだが、口と鼻を押さえたヒューを見て、私は目を見張った。

指の間から血が流れているのが見えたのだ。


「ヒュー様! どうされたのです!?

血が出ています。どこかお怪我を?

それとも本当に具合がお悪いのですか?」


駆け寄り下から覗き込めば、ヒューと目が合った。

ヒューは視線を上下と彷徨わせた後、「うう」と呻いた。

流れる血が増えてぎょっとする。


「大変! 医者を!

ポリーヌ、シュラール医師をお呼びして!」

「はい。しかし・・」


ポリーヌは迷いを見せる。

多分私を置いていく事に躊躇したのだろう。


「いいから! すぐに呼んできて!」

「はい、かしこまりました!」


ポリーヌは城に向かって走って行く。

ポリーヌと私が話している間、ヒューは口を押さえたのと別の手で、手を振っていたが無視した。

オズウェルも「いや、それは」とか「そんな大袈裟な」とか言っていたが、聞き流した。


顔を赤くして、辛そうに顔を歪めるヒュー。

先ほど東屋にいた時は普通に見えたが、ずっと具合が悪かったのだろうか?

私はハンカチを取り出して、ヒューに差し出す。

ヒューは拒否したが、無理矢理押し付けた。

白いレースのハンカチがみるみる赤く染まる。


「ヒュー様、お辛いですか?

横になれる所に移動しましょう」


移動の手伝いをしてもらおうとオズウェルを見るが、彼はなんとも言えない顔をしており、呑気に頬をかいている。

あてにならないと判断して、私はヒューの腕に手を添えた。


「歩けますか? 支えが必要でしょうか?」


ヒューは背が高い為に見上げて問う。

ヒューは目を見張りごくりと喉を鳴らした後、慌てるように後ずさった。


「いえ、結構。リディアーヌ姫、申し訳ございません、失礼します。

オズウェル、すまないが後を頼んだ!」


ヒューは踵を返し駆け出した。


「あ、ヒュー様、走っては・・」


声をかける間も無くヒューは視界から消えた。

びっくりするぐらい足が速かった。流石は騎士団団長。

ではなくて。


「オズウェル様! ヒュー様を追ってください!

血を吐かれたのに走るなんて、体に障ってしまうわ」

「いやー、放っておいた方が本人の為なんで・・」


ヒューが去った方を見ながら、煮え切らない返事をするオズウェル。

仲間が苦しんでいるのに放っておくなんて、信じられない。

私はオズウェルを睨みつけた。


「見損ないました。もうあなたには頼りません」

「どうするおつもりで?」

「あなたは私の侍女が医師を連れてきたら、近くの部屋で待機するように言って下さい。

そのぐらいはして下さるでしょう?」

「あなたは?」

「わたくしはヒュー様を探します」


踵を返し、ヒューが去った方向へ向かうが、オズウェルが私の前に回り込んで立ち塞がった。


「邪魔です」

「邪魔と言われましてもね。

あなたを夜の庭に行かせて何かあったら、俺もヒューさんもただでは済まない」

「保身ですか、ますます見損ないました。

ご安心なさい、あなたとここで会った事は誰にも言わないわ」

「あなたの侍女は知ってる」

「ポリーヌにも黙ってもらうわ。

だから、そこを退きなさい」


これ以上邪魔をすると、魔法で吹き飛ばしてしまうから!

心の中で罵倒しつつ睨みつける。


オズウェルは苛立たしげに溜め息を吐いた。


「本人が追ってほしくないと思っているのに、追おうとするなんていい迷惑だ」

「っ!」


プチっと私の中で何かが切れた音がした。


「あなたはお仲間が心配ではないの?

血を吐いたのよ!

放っておいて、どこか誰も来ない場所で倒れてしまったら・・・。

もし、手遅れになってしまったら、もし・・」


言いながら、私はどんどん青褪める。

下手したら、死んでしまうかもしれない。


私はドレスをむんずと掴むと、走ってオズウェルの横を抜けようとした。

しかし、オズウェルに取り押さえられてしまう。


「離しなさい!」

「ちょ、落ち着けよ!」


抱き締める形で離さないオズウェル。

もうこうなったら魔力を込めて吹っ飛ばす。

力を込めようしたら、頭上からオズウェルの呆れた声が降ってきた。


「あの血は鼻血だよ、鼻血!

口から吐いたわけじゃない!」

「・・・鼻血?」

「そうだ、だから手遅れも何もない。

走ったのは確かに良くなかっただろうが、あのぐらいヒューさんにはなんともない。

その辺で鼻血が止まるまで休んでるだろうよ」

「・・・・」


私はオズウェルから体を離し、彼を見上げる。

いろいろと意味が分からない。

なぜヒューは走って行ってしまったの?

なぜオズウェルはすぐに鼻血だと言わなかったの?

それにーー


「なぜ鼻血を出されたの?」

「それを聞くか?」


オズウェルは呆れたような顔をした。

呆れられる意味が分からない。

私が知る限り、鼻血を出すのは、どこかに鼻をぶつけた時だ。

ああ、のぼせて鼻血が出るというのも聞いた事があるが、さっきのヒューはどちらにも当てはまらない気がする。


「あなたは本当にリディアーヌ姫なのか?」

「どういう意味かしら?」

「噂に聞いていたリディアーヌ姫と違い過ぎる」


噂というのは、勇者を誘惑してアンジェリーヌ王女から奪ったというやつか。

それとも、聖女のお付きの方々が言っていた、肉欲に溺れてうんぬんというやつか。

そう言えば、あの時に私に向かっていろいろ言っていた聖女のお付きの方々を見かけない気がする。

どうしているか、後で誰かに聞いてみよう。

それより今は目の前の事だ。


「噂とは当てにならないものと、つい最近ジェラルド様にも申し上げました。

けれど、あなたにはこうも言っておきます。

女性は奥深いもの。表面だけ知って理解した気になっていると、痛い目を見ますよ」

「痛い目ね。いい女を気取って痛い目を見るのはあなたじゃないですかね」


オズウェルが左の上唇を上げて、いやらしく笑う。

オズウェルの上唇を上げる癖は不満を表す時だけではなく笑う時もか。

後で効果的な時を狙って、その事を突き付けてやろう、と思っていたらとんでもない事を告げられた。


「さっきヒューさんが鼻血を噴いたのは、興奮したからさ。

女性同士の秘密の話を聞いた後、その話題の胸が近付いてきたから、興奮しすぎて鼻血を噴いたんだよ」

「!」


私は目を見開き固まった。


な、な、な、な。

なんて事を言うの!!

あまりにデリカシーがない!

あまりの衝撃に声を出せない私を見下ろし、オズウェルはにやりと笑う。


「そんな事、全く思いつかなかったか?

噂の悪女なら、すぐに見抜いて、ヒューさんを誘惑する武器にするさ。

あなたは男女の色事など、全く知らないように見える。

ユーリが言っていた事も、今は少しは信じられるな。

あなたは優しくて純情で虐め甲斐のある可愛い人だと。

まあ、純情というところは納得出来なくもない」


聖女、オズウェルに何を話しているんだ。

それよりオズウェルの物言い、遠慮が無さ過ぎないだろうか?


「・・・・あまりの言いようですね。

少し、口を慎んだらいかが?」

「おっと失礼。

だが、ここで俺と会った事は誰にも言わないのでしょう。

先ほどあなた達が話していた事も、ヒューさんが鼻血を噴いた事も、今の会話もなかった事にしてくれるのでしょう?」

「・・・・・」


私は目を細めてオズウェルを見据える。

この男、直情的だと思っていたら案外腹黒い。

舐めてかかって痛い目を見たのは、確かに私だった。


さっき広間の控え室で話をしていた時は、話しやすい人だと思っていたが、前言撤回。

これからは気を引き締めて落としてやるんだから!




お読みいただきありがとうございます。

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