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元魔王(偽)で公爵令嬢リディアーヌの冒険  作者: 星乃 夜一
嫌われ公爵令嬢 対 攻略対象者!?
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第三十話

「ここからだと、お相手の方がどなたなのか分からないわね」


私は城の庭園の木の陰から、遠くの生垣の向こうにいる二人を見て呟いた。


先ほど話に夢中になってしまいヒューを見失ってしまった私とポリーヌだが、庭に出て少し探した所、ヒューを見つけることができた。

少し離れた低い生垣の向こうにヒューが、そして向かい合うように臙脂色のドレスを着た女性がいる。

彼女はこちらに背を向けているために誰だか分からない。分かるのは栗色の髪と大きく背の開いたドレスを着ていることだ。


「お相手の方はバロー夫人ではないでしょうか」

「バロー夫人?」

「はい。あの方がつけていらっしゃる髪飾りはバロー夫人ご自慢の髪飾りです。

何度も拝見しているので間違いございません。

それに、あの背中や胸元が大きく開いたドレスもバロー夫人がよく着ているデザインですわ」


ポリーヌは少し不快そうに言葉を紡いだ。


バロー夫人といえば、バロー伯爵の後妻で伯爵とは年齢が二十歳以上離れているはずだ。

今年三十一歳でとても色っぽい女性だったと記憶している。

夫以外の男性との恋の噂は私の耳にも入っている。


「ヒュー様とバロー夫人はお知り合いなのかしら」

「分かりませんけれど、バロー夫人は若い男性がお好きなようで。

特に見目の良い方には身分を問わず声をかけるそうです」

「そうなの。それは困った方ね」


貴族の夫人に多少の火遊びはつきものと聞く。

本人同士が同意の元であれば、他人が口を出す事ではないが。


「はい。身分の低い者だと断り切れないこともあるそうで・・・」


ポリーヌが先を濁す。

断り切れなくてどうなったのか。

あまり聞きたい話ではなさそうだ。


この件は次兄のエティエンヌに報告しよう。

貴族間の私的な争い事の解決は次兄が得意としている

なんとかしてくれるだろう。


「その件はわたくしが預かるわ。

お兄様に相談してみるから安心して」


その話は一旦終わりにして、またヒューとバロー夫人を見やる。

少しバロー夫人がヒューに近づいたように見える。


「お二人はどんなお話をされているのかしら」

「どんなお話かは分かりませんが、ヒュー様は迷惑そうなお顔をされていますね」

「迷惑そう?」


私は目を凝らしてヒューの顔を見る。

遠くて表情までは見えない。


「わたくしには分からないわ。

けれど、迷惑そうなお顔をされているの。

ポリーヌが言うのなら間違いないわね」


ポリーヌは視力がとてもいい事が自慢の一つだ。

彼女にはヒューの表情が見えるのだろう。


「意外ね。てっきり楽しそうにされているのかと思っていたのに」

「意外でございますか?

ブラフトン様は真面目な方ですから、誘惑される事は好まないように見えますけれど」

「あら、確かに見た感じはそういう事を嫌悪されそうだけれど、実は意外とお嫌いではないと思うのよ」


だって、お色気攻撃に弱い人だもの。

つまりはそういう事が好きって事でしょう。


自信満々言い切ると、ポリーヌは困ったように眉を下げた。


「わたくしにはとてもそのようには・・・。

あ、リディアーヌ様。

バロー夫人がブラフトン様に抱き着きました。

あ、振り払われました!」


なんですって!

私が振り返ったときには、すでにヒューはバロー夫人に背を向けて去っていくところだった。


思っていた反応と違う。

足早に去っていくヒューの背中はきっぱりとバロー夫人を拒絶しているように見える。


「バロー夫人はヒュー様の好みではなかったのかしら?」

「そういう問題ではないと思います」


ポリーヌがつっこむ。

いやしかし、好みの問題でなかったとしたら・・・。


「バロー夫人の色気でも足りないという事?」


何という事だ。

とても色っぽいバロー夫人の色気でも足りないなんて。

私は巻いていたショールを取り、自分の胸元を見る。

足りない。

寄せて上げて、どうにか谷間は出来ているけれど、自分に色気というものはない。

そんな私が迫っても鼻で笑われるだけの気がする。


「ねえ、ポリーヌ」

「はい」

「胸って、どうしたら大きくなるのかしら?」

「は?」


ポリーヌは唖然として固まった。


「わたくしの胸って、少々寂しい気がするの。

どうしたらもっと大きくなるのかしら」


ポリーヌは唖然としたまま私を見つめ、一瞬胸元を見ると、また視線を戻した。


「いえ、リディアーヌ様は今のままで完璧でございます。

何も気になさる事はございません」


キッパリと言い切るポリーヌ。

彼女が私の事を評する時、いつも良い事を言ってくれるのは嬉しいが、少々盛りすぎている。

なので、勇者が言う事同様に話半分で聞くようにしている。


「でも胸がないと言われたわ」

「な! どなたがそんな事を!」


ポリーヌは目を剥いて大声を上げる。

私は口元に人差し指を当て、声を下げるように合図した。


「っ、申し訳ございません。

しかし、どなたがそのような事を?」

「知り合いの方よ」


女神様に言われた、などとは言えない。

ポリーヌは相手の名を挙げなかった事に一瞬不満げな顔をしたが、追求はしなかった。


「お知り合いの方は酷うございますわ。

リデイアーヌ様のお胸は少々小ぶりですが、とても良い形をしておりますのに」


やはり小さいと思っているらしい。

ポリーヌの胸は私の胸より立派だ。

むー、大きい者の余裕か。


「それでポリーヌは、胸を大きくする方法を知っているかしら?」

「え、ええ。

聞いた事はございますが」

「まあ、知っているのね!」


私は思わず声を弾ませた。

これで、「胸がない」とは言われなくなる!


「ええ、まあ。

本当に効果があるのかは分かりませんが・・」


ポリーヌはどうも歯切れが悪い。

私は視線で先を促した。


「ええと、その。

どうやら揉むと良いと」

「揉む? 胸を?」


私は自分の胸に手を当てた。

なぜ揉むと大きくなるのだろう?


「ただ揉めばいいの?」

「いえ、その」


ポリーヌの頬は赤くなり、目が泳いでいる。


「そのお好きな」

「好きな?」

「お好きな・・だん・・に、揉んでもら・・良いかと」

「え?」


もごもごと言っていて聞こえない。


「ポリーヌ、聞こえないわ」

「その」


ポリーヌの顔が真っ赤に染まる。


「?」


ポリーヌのその様子の意味が分からなくて、私は首を傾げた。

ポリーヌの顔を覗き込むと、ポリーヌは更に動揺を見せる。


「も、申し訳ございません。

わたくしの口からはこれ以上は・・・」


泣きそうである。

そんなに言い辛い事なのだろうか。

これ以上は聞かない方が良さそうだ。


「無理をしなくていいわ。

言い辛い事なのでしょう?」

「はい、とても」


俯き、顔を赤らめるポリーヌ。

それはとても恥ずかしい事なのかもしれない。


今更ながら、こんな話は外でするものではないと思い当たる。

部屋に帰ったら、もう一人の侍女のシュザンヌに聞いてみよう。


そんな事を考えていると、すぐ近くで人の呻く声がした。


「!」


声の方を振り返ると。

顔を強張らせたヒューと、目を泳がせているオズウェルがいた。


「!!」


なんでこんな所にいるの!?

もしかして、今の会話を聞いていた!?


恥ずかしい! 恥ずかしすぎる!

空の彼方に消えていきたい!





お読みいただきありがとうございます。

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