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元魔王(偽)で公爵令嬢リディアーヌの冒険  作者: 星乃 夜一
嫌われ公爵令嬢 対 攻略対象者!?
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第二十八話

お久しぶりですみません。

勇者達が帰ってくるまで、私とオズウェルは部屋でお茶を飲みながら話をしていた。

乳母の事や聖女への気持ちを話してくれたオズウェル。

それが切っ掛けになったのか、色々話してくれた。


始めは勇者と聖女が共に出て行ってしまった事に愚痴を零していた。

昨夜も今日の昼も、聖女は勇者とどこかに行ってしまい、聖女一行は、ジェラルドを除き、ずっとやきもきしていたらしい。

聖女の様子を見れば勇者と甘い雰囲気はないが、好きな人が他の男と出掛けているのは我慢がならない。

ジェラルドを除く聖女一行は、今日はずっと不機嫌で、特に魔法使いのノアの機嫌は最悪らしい。

その情報は私にとって、とても有益なものだ。

実際はどうあれ、勇者と聖女の仲に、聖女の一行が嫉妬しているというのは女神様の話通り。

後は私が頑張ればいい。


そんな話をした後は、オズウェルと聖女の普段の話や、ヒューが率いる騎士団についてなど話した。


ヒューが率いるのは聖女の護衛の為に特別に編成された一団だ。

聖女は馬車で国をまわることで、その聖なる力を土地に行き渡らせている。

聖女の旅に付き添うのは、サミュエルやオズウェル、ノアやヒューの他に、侍女や侍従。

他にも道中の安全確保、城への定期連絡の為に大勢の騎士が動いている。

それを纏めるのが騎士団長であるヒューと、副団長だ。


ヒューが率いる一団の副団長は、レイチェルと言う名の伯爵令嬢だと言う。

メイユールでは、女性の騎士が何人かいると聞いていた。

しかし、ブランシェでは女性の騎士は認められていないので、この国に配慮して、レイチェルは城外で待機しているという。


もったいない。

せっかく女性騎士が近くにいるのだ。

会って話を聞きたい。

女性騎士の利点、問題点など色々聞きたいが、一番は単純に会ってみたい。

騎士団に身を置くという、その自立した女性に。


どうにかその女性に会えないかと算段していると、目の端で魔法陣が光り、勇者と聖女が帰ってきた。


「リディアーヌ様!

この勇者、本当にどうしようもない馬鹿ですよ! クズです! 変態です!」


戻って来た聖女は開口一番そう言った。

わあ、酷い言われよう。

この人はこの国の大切な勇者で、私の婚約者なんですけど。


「誰がクズで変態だ」


勇者が言い返す。

馬鹿が抜けています。言い返せてません。


「どう見たって、馬鹿でクズですけべで変態でしょう!」


勇者と聖女は、私とオズウェルが座っている長椅子のすぐ横で言い争う。

喧嘩が終わっていないなら何で戻って来たんだろう。


聖女は勇者へ光の玉を投げ付ける。

避けた勇者の隙をついて、聖女は私の隣に座り私の手を握った。

・・・今、後ろの方で、ガッシャーンと何かが割れる音がしたけれど。


「リディアーヌ様、もう勇者に近付いてはいけませんよ。

ずっと一緒にいましょう。夜も一緒に寝ましょう。

私が守・・ぐえ」


聖女の言葉の途中で、勇者が聖女の襟首を掴んで持ち上げた。


「勝手な事を言うな。お前の方が危険だろうが」


勇者は猫の子を掴みあげるように軽く持ち上げているが、聖女は猫の子ではないので、首が絞まっている。


「勇者殿、ユーリを離せ!」

「セルジュ様、聖女様をお離しください」


オズウェルと私、同時に言うと、勇者はしぶしぶ聖女を離した。

私はまだ聖女をみくびっていたようだ。

聖女は襟首を離されるや私に抱きついた。


「きゃあ!」

「リディアーヌ様、助けて下さい!

勇者が虐めるんですぅ」

「貴様! 今すぐリディアーヌから離れろ!」


私、聖女、勇者がそれぞれに声を上げる。

今度は誰を手助けすればいいのか分からないオズウェルが横でおろおろしていた。


「リディアーヌ様、いい匂い〜」


ぎゃああああ、匂いを嗅ぐなっ!


聖女は私の首筋に顔を埋め、匂いを嗅いでいる。

勇者は私に遠慮して力付くで剥がせないらしく、聖女の首を絞めて剥がそうとしているが、聖女は離れない。

って、それより、勇者、聖女の首を絞めるのはやめて!

いくら何でも人の首を絞めちゃ駄目だから。


どうしても離れない聖女の後ろにオズウェルが回る。

「任せろ」と言うと、聖女をくすぐり出した。

始めは堪えていた聖女だが、段々笑い出す。


「やめ、くすぐったい、あははは」


聖女の手が緩んだ隙に、私は助け出された。

今度は勇者の腕の中だ。


「あー!! リディアーヌ様、勇者から離れて下さい! 危険です!」


どっちが危険だ!?

と突っ込みを入れたのは、私も勇者も同時だろう。

もしかすると、オズウェルも賛同してくれたかもしれない。


聖女は私達の方に来ようとして、オズウェルに腕を掴まれ止められていた。


「リディアーヌ様、離れて下さい。

そいつは紳士の皮を被った野獣ですよ!」


どっちがだ!?

と突っ込みを入れたいところだが、ぐっと堪えた。


「聖女様、わたくしに抱きつくのはおやめ下さい」

「いや、だって、すぐ側に柔らかそうなリディアーヌ様の体があったから」

「そういう事を口にするのもおやめ下さい!

それにすぐ側に、という事なら、オズウェル様に抱きつけばいいでしょう!」

「俺!?」


オズウェルは素っ頓狂な声を上げるが、顔は嬉しそうだ。しかし、


「オズよりリディアーヌ様の方が抱きごごちがいいです」


という言葉に撃沈した。




✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎




「リディアーヌ様、セルジュ」


部屋にやってきたヴィクトルは、私達四人の微妙な様子に訝しげな顔をした。

勇者と私は抱き合い、その向かいには機嫌の悪い聖女と落ち込んだオズウェルだ。

訝しむ気持ちは理解出来る。


私は勇者から離れ、


「ヴィクトル様、そろそろですか?」

「ええ、もう広間にお戻り下さい」


ヴィクトルの何事だ? という視線は無視した。

何があったか言いたくない。


「広間の様子はどうですか?」

「落ち着いています。もう戻られても騒ぐ者はいないでしょう」


聖女とオズウェルがいるからお互い畏まった話し方をしているが、それだとあまり突っ込んだ話が出来ない。

ジェラルドやエルヴィラなどの様子を聞きたいが仕方がない。


「セルジュ様、聖女様、戻りましょう」


えー、っと不満の声をあげる聖女。

勇者も不満げだが、それも無視する。

これ以上、二人の喧嘩には付き合っていられない。


「ヴィクトル様、戻ったら、まずセルジュ様と聖女様のダンスとなりますよね」

「そうですね」

「お二人とも、そういう事ですので・・」


二人の顔を見ると、それはそれは嫌そうな顔をしていた。

聖女は顔を歪めて吐きそうに。

勇者はこれでもかと眉間に皺を寄せている。


いや、そんなに嫌そうにされても。

二人が踊る事は決まっていた事だろうに。


「私、勇者と踊りたくないです。気持ち悪い」

「それは俺の言葉だ。俺だって嫌だ」


二人はフンッと顔を背ける。

頭が痛い。


「セルジュ様と聖女様が始めのダンスを踊る事は決まっていたでしょう?

セルジュ様が遅れてしまったので、もう始めのダンスではありませんけれど、お二人には踊っていただかなければ」

「友好のためと言うなら、私と勇者じゃなくてもいいじゃないですか。

私とリディアーヌ様、勇者とエルヴィラ様とかでいいんじゃないですか?」


聖女がいい事を思いついた、という顔で言うが、全然いい事ではない。


「セルジュ様はエルヴィラ様と踊られるでしょうけれど、それは後です。

まずはセルジュ様と聖女様でお願い致します。

それと、わたくしと聖女様が踊る事はございませんから」

「なぜですか?」

「わたくしも聖女様も女性ですよ。

どちらが男性パートを踊るのですか?」


当たり前の事を言ったのだが、聖女は口を尖らせた。


「リディアーヌ様と踊れないのに、勇者とは踊らなきゃいけないんですか?」

「ええ、お願い致します」

「その後、リディアーヌ様は勇者と踊るんですか?」

「ええ、踊ります」


聖女は不満そうに顔を歪めたが、またいい事を思いついた、という顔をした。

多分、全然いい事ではない。


「勇者と踊らなきゃいけないなら、交換条件があります!

それを聞いてくれたら踊ります!」


今更何を言うか。元々勇者と聖女のダンスは決まっていた事なのに。

しかし、ここでは駄々を捏ねられても困るので、一応聞く事にした。


「条件とは何でしょう?」

「一つは、リディアーヌ様と勇者が踊らない事です」


一つ目から無理だ。と言うか、交換条件複数なのか。


「それは出来兼ねます。わたくしとセルジュ様は婚約者同士ですから。

踊らないという訳には参りません。

そうでなければ、他の方のお相手が出来ませんもの」


隣にいる勇者がピクリっと動いた。

聖女は不快そうな顔をする。


「それってつまり、リディアーヌ様は他の人とも踊るって事ですか?」


今の私の言葉は、私と踊らねば勇者が他の女性を誘えないという意味で言ったのだが、まあ、そちらの意味もあるので頷く。


「そうですね、何人かの方と踊ると思います」

「じゃあ、交換条件は、リディアーヌ様が他の男と踊らないって事で」

「それも出来兼ねます。

断る事の出来ない方もいらっしゃいますから」


普段からあまりダンスを申し込まれるこのない私だが、もしジェラルドやメイユールの外交官などに誘われれば断るのは良い事ではない。

それに王太子フェルディナンと踊るだろうし、いつも誘ってくれる兄の友人も広間にいたから踊るだろうし。


「ますます嫌になりました。

私、広間に戻りたくないです」


おーい、何を言っているの。

自分が何をしにこの国に来たのか忘れたのだろうか?

勇者一行と聖女一行の、ひいてはブランシェとメイユールの友好の為に来たはずなのだが。

あまり我が儘を言うようなら、ジェラルドに説得に来てもらおうか。


「誘われて断れないなら、体調不良という事にして、広間に戻らなければいいと思う」


唐突に勇者が口を挟む。

なぜ、このタイミングでその話を蒸し返すの、勇者。


「あ、それいいですね。そうすれば、誰とも踊らずに済みますね」


聖女がこれに乗ってしまった。

勇者と聖女が踊る事と私が広間にいる事、どちらの方が大事かと言われれば、前者の方だ。

結局、私は体調不良という名目で広間には戻らない事になった。







お読みいただきありがとうございます。

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