第30話 ひょっとして知らない?
鉄は生産され、鉄のアイテムへと形成され始めている。
鉱山から原石を掘り、それを高炉で『鉄の延べ棒』へ精製するワケだが……
現状の生産スピードは日に延べ棒2つとのこと。
あれから十日たっているので、今20個ある。
これをガルダルたち鍛冶屋へ持っていき鉄のアイテムを作ってもらう。
「アルトさま。鉄のアイテムを作るのに必要な『延べ棒』はそれぞれこんな具合ですぜ」
・鉄の矢じり(0.1)
・鉄のナイフ(0.5)
・鉄のつるはし(1)
・鉄の剣(1)
・鉄の槍先(0.5)
・鉄のヘルメット(2)
・鉄の盾(2)
・鎖かたびら(3)
・鉄のプロテクター(4)
・鉄の大ハンマー(5)
他にも建材や食器にも鉄を使うことはできるらしい。
もっと多くの鉄を生産できるようになったらそんな余裕も出て来るだろう。
だが、今優先すべきなのは上記のような武器だった。
よく考えて配分しないと。
また、防具はダメージを減らしてくれるので魅力的だが、より多くの鉄を必要とする。
つまり、まだ多くの個数を作ることができないので、戦闘員のごく一部にしか装備させられない。
さしあたっては『鉄の剣』『鉄の槍先』を作って接近戦の攻撃力を上げていこうと思う。
そう、そもそも。
このあたりには、兵の武器に鉄を使っている領地は少ないんだよな。
この前攻めて来た北のガゼット領が良い例で、木や竹、よくても石の武器ばかりだった。
鉄の武器があるというだけでかなりのアドバンテージを取れるはず。
俺は、鉄の延べ棒20で、『鉄の剣』を10個、『鉄の槍先』を10個、『鉄のツルハシ』を5個作るよう頼んだ。
また、つるはしが増えたぶん、採掘師を5人募集しておこう。
これで採れる原石も増えて生産スピードそのものも上がるはずだ。
ところで、悪ガキ軍団の現状は、剣が得意なヤツ10人、槍が得意なヤツ10人といった構成である。
武器の数はこれに合わせているのである。
あとは、弓矢が得意なのが7人、大木槌を振り回すゴーグル、偵察のリッキーだ。
魔法については、ガランという顔に傷のあるコワモテが成長してきている一方、悪ガキ軍団以外にも魔法研究所で魔法が使えるようになってきた領民があらわれだしている。
火炎魔法が使える男子5人と、回復魔法が使える女子10人。
元の30人の悪ガキ軍団に、この15人の魔法部隊を加えて、総勢45名を戦力と考えてよさそうだ。
ところで。
鉄以外にもモノ作り集団からいろいろな専門が生まれている。
木工、石工、焼き物師、革細工師など。
武器とかにはそりゃ鉄がもっと欲しいのだけれど、領地全体では木や石のアイテムも、陶器も、革製品もすべて必要だ。
領内で作れるものは、ゴールドではなくて、イモの借用書でモノを回すことができるしね。
「アルト。それなあに?」
さて、俺が庭で“それ”を放っていると、リリアがふんどしのお尻をぷりっとさせて尋ねてきた。
「ああ。これは『ボール』と言ってな。ちょっとした遊びさ」
そう。
革細工師に頼んで、モンスターの革から蹴鞠のようなボールを作ってもらったのである。
ゲーム内では無かったアイテムだけど、こういのを作ってくれと頼んだら普通に作ってもらえたのだ。
「どうやって使うのかしら?」
「こうやって投げたり、蹴ったりすんだよ。ほら」
そう言ってボールを投げる。
リリアは運動神経のよい少女なので、みごとこれをキャッチした。
「でもアルトみたいに投げられないわ」
「すぐに慣れるよ」
「おーい。兄ちゃんたち、何してんの?」
すると、ヨルセンとセラムが庭に出て来た。
「ちょうどいい。お前らも混ざれ」
そう言いながら、俺は前世の知識を元に地面へコートを描いた。
簡単なドッヂボールのコートである。
「何をしているのだ?」
「アルト―、アタシもいれてー!」
するとナディアやノンナも家から出て来た。
まだ人数が足りないな。
そう思っていると、さらに村の子らが5人ばかりやってきたので良い具合になる。
「やったー! 当てた!」
「それダメだぞ。顔面セーフだ」
などとルールを教えながらやるとなんだか学校の先生にでもなったような気分だ。
まあ、この人生では俺もまだ15歳なんだけどな。
「なにしてるのー?」
「僕らもいれてよー」
しばらくすると遊んでいる声を聞きつけてかまた人が集まってきた。
しまいにはおふくろまで家から出て来るシマツ。
「よせよ。年甲斐もねえぞ」
「いいじゃないかい。あたしだってまだまだ女ざかりさ」
などと言って腕まくりをするおふくろ。
まあ、いいか。
オヤジが死んでふさぎ込んでいた頃を思えばよっぽどマシだ。
人数が増えてくると今度はキックベースにしてみたりと工夫していると、やがて陽が暮れてボールも見えなくなってくる。
「今日はここまで」
「「「えー!」」」
みんな「もっとやりたい」と主張するがなだめて家へ帰す。
子供らはワイワイ騒ぎながらも家路へ着いた。
……なんだかなつかしいな。
前世で日本のガキだった頃。
近所の子らと空き地裏でなんとなく始めたケイドロがめちゃくちゃ楽しくなって、帰りたくない、この時が永遠に続けばいいとか思った記憶がある。
あの時のみずみずしい心は転生者にはない。
だから、村の子たちの“この世界への夢中さ”が切実にうらやましく思われたりもする。
「お腹減ったでしょ? ご飯にしましょ」
「「「わーい!」」」
料理の上手なノンナがそう言うと、みんな喜んで家へ帰った。
まあ、幸せではあるんだけどな。
おふくろや弟、嫁たちとの暮らしが、今の俺の本気なのだから、さっきのちょっぴりセンチメンタルな気持ちはすぐに忘れてしまった。
ちなみに。
ボールを作ってみたのは単なる遊びではなく、ちょっとした実験のつもりだった。
ゲームの『花嫁繚乱クロニクル』の世界では、当然ながら「ボールを作れ」などという命令はできない。
でも、実際には革細工師にボールを作らせることもできたし、ゲームの世界に存在しないはずのドッヂボールやキックベースも教えればやらせられる。
この世界のどこからどこまでが花クロに即していて、どこからゲームの枠を超えられるのか。
そのラインを見極めてゆくのが、のちのちの助けになるような気がしていたんだ。
◇
ところでリッキーに王都の様子を見て来るように言ったが、自分でも“事情通”に話を聞いてみようと思った。
「なんかー、まぢでヤバイみたい」
とステラが裸の背中にポニーテールをほどきながら言う。
「ヤバイじゃわかんねーだろ。なにがあったんだ?」
「詳しいことはわかんないんだけどぉー、パパが『王都へは行っちゃダメ』って言うんだもん。新しい剣を買ってくれるって言ってたのにィー」
あの親バカのライオネ領主がそんなことを言っていたのか?
こりゃいよいよだな。
リッキーの報告を待つ前に王都へ行ってみるべきか?
「でもぉー、アルトっちは今それどころじゃなくない?」
「なんだよそれ」
女の肩を抱き寄せながら答えると、ステラはぱっちりとした目を見開いて言った。
「ひょっとして、知らない?」
「だから、何がだよ」
「南のベネ領のことじゃん。アイツらまぢ無いから!」
南のベネ領は海に面した中堅領である。
塩の生産が盛んであり、うちの領地の塩はベネ領にほぼ100%依存していた。
「その塩をオニ値上げするってハナシ。10倍だって、パパが言ってた」
「マジか!?」
確かにそれはヤバイかもしれん。
武田信玄の例を引くまでもなく、塩が買えなくなるのは内陸の領地にとって本当にツライことなのだ。
「アルトっち……だいじょうぶ?」
「あっ、悪い。こんなことはまた後で考えることにするよ」
俺はそう言って若い女の白パンティ一枚のお尻をやさしくなで始めた。
「もう、さわり方エロぉー♡」
「エロい尻だからな」
「あはははー」
笑う女の髪へ手櫛を入れざま香り立つうなじを丁寧に露出させると、そこへ口づけする。
「あ……」
月明かりのみの部屋で、いつもはギャルのような娘の声に無垢と清純の属性が帯びた……
――三時間後。
「じゃあ、また来るから」
「アルトっち……ごめんね」
いつものようにライオネ領主の館をベランダから飛び降りようとすると、なぜだかステラはひどく落ち込んでいた。
「どうした? また来るって言ってるだろ?」
「んーん。そーぢゃないの。よく考えたらベネ領のこと、ウチのパパのせいかもしれないなァって思ったの」
なるほど、それはそうかもしれないな。
「私のこと……嫌いになんないでね」
「バカだなあ。そんなこと考えてたのかよ」
「だって……」
俺は「やれやれ」とため息をつくと、別れのキスを入念にして女を慰めてやるのだった。




