第1話 一騎当千
嫁「4」――これ以上になると、国の一つくらい滅ぼせそうだ。
「おーい! やめるなら今だぞ!」
俺は千の敵兵の前で怒鳴った。
「これだけいたら何人殺してしまうかわからんからな!」
「ふん、兵力1の弱小領主が。たった一人で何ができる! かかれ……!!」
仕方ない。
俺はため息をつき、右手から風の魔力を放った。
風は渦を巻き、小さな竜巻になる。
「なッ……!」
「う、うわああ!!」
先頭の歩兵が吹き飛び、騎兵が馬ごと巻き上がる。
――ヒョオオオオ……!!
後には鎧の破れた兵が転がり、牛馬は目を回し、戦旗はへし折れていた。
「チッ、やりすぎたな」
嫁ブーストの後はいつも力の加減がわからない。
「あなたー!」
俺が少し落ち込んでいると、領地の方から見慣れたショートヘアーが駆け寄ってきた。
「無事だったのね。はい、ポーションよ」
妻のリリアだ。
俺がポーションを受け取ると、彼女は倒れた千の敵兵たちを見て呆れるように言った。
「すごいわ……本当に一人でやってしまうのね」
「別に、俺がすごいワケじゃないけどな」
「?」
首をくてんとかしげるリリア。
「帰ろう。腹へったし」
「ええ!」
そう。
すべては、このリリアが嫁「1」になってくれたことから始まったんだ。
――◇――◇――◇――
――時はさかのぼり、嫁「0」だったころ。
兵力1。
弱小領地ダダリの総兵数である。
王都から兵の召集があっても、参戦するのは領主ただ一人。
そのたびに他の貴族たちからは、
「オワってる田舎貴族」
「兵力1のクズ」
と嘲笑われ、コケにされまくっていた。
俺は、そんな弱小領地ダダリを治めるドワイド家の長男として生まれた。
次期領主は長男である俺。
いつかオヤジの次に「兵力1の弱小領主」と蔑まれる……
そのことを考えるたび、幼心に気が滅入った。
――しかし、あれは元服、成人の日。
その夜、俺の将来は一変した。
『ドワイド家の長子は、成人の夜には女を知らねばならぬ』
次期当主だけに課せられた、伝統的で、厳粛かつ、厳格なしきたりである。
しかも、それは自力でコトを成さねばならない。
どうしたものか……と悩んだ末、いつも一緒に遊んでいた村娘に頭を下げ、相手を頼むことにした。
勝気で男友達のような仲の娘だったから、後で気まずくなったりはしないだろうと思ったのである。
そして、コトの後。
眠りかかる瞬間、暗闇に妙なモノが見えたんだ。
―――――――――
名前: アルト・ダダリ・ドワイド
嫁の人数: 0人
戦闘能力: 5(G級)
内政ポイント: 0
特殊能力: ――
―――――――――
光の文字列が浮かんでいる。
なんだこれ? 目の錯覚?
いや、違う。
この項目の並びには見覚えがあるぞ。
と気づいた瞬間……
全身に電撃が走った。
そう。
これは俺が前世でプレイしていたネットゲーム『花嫁繚乱クロニクル』――通称『花クロ』のステータス画面そのものだったのだ。
「つーか、ここ。『花クロ』の世界だったのか……」
前世の記憶がよみがえり、呆然とつぶやく。
『花クロ』は、ちょっと変わった「領地」対「領地」の戦略オンラインゲームだ。
領主であるプレーヤーが花嫁を増やしていくことが勝利の鍵で、嫁が「1」増えれば領主の戦闘能力や内政値が跳ね上がる。
そのステータス急上昇は《嫁ブースト》と呼ばれた。
が……待てよ?
ってことは、この世界でも《嫁ブースト》が起きるってことか?
ただし、このゲームの嫁の増やし方は、あくまで策謀や侵略によるもので、女は数字でしかなかった。
もちろん現実では女は人だ。
つまり、フツーにお嫁さんを探す必要があるワケだが……
それが大問題だった。
「チッ、どうしろってんだよ……」
いろいろ悩んだ末……
俺は嫁探しを父親に頼ることにした。
ありがたいことに、親が結婚相手を決めるのはこの世界では一般的なことだった。
オヤジは家では飲んだくれの威張りん坊だったが、決して非道なことはしない人だ。
領主らしく、根回しなども、意外にちゃんとやった。
だから安心して任せていたのだが……
ある日、そのオヤジが庭先で急にぶっ倒れた。
「アンター!」
おふくろが慌てて駆け寄る。
だが、オヤジは二度と目を覚まさなかった。
「……アルト。これからはあんたがこの家を、領地の長になるんだよ」
「おふくろ……」
俺が15歳の年のことだった。
◇
とうとう俺が兵力1のダダリ領の領主を継承してしまった。
嫁はまだ「0」である。
そしてオヤジが死んでしまったとなると、花嫁探しにもアテがなくなった。
正直めちゃめちゃヤバイ。
俺個人の戦闘能力もたったの5(G級)――なんとか槍を持った一般歩兵を倒せる程度の能力である。
今王都から兵の召集があれば討ち死にもありえるし、近隣領地から攻め込まれるかもしれない。
何としても早く嫁「1」にしなければならなかった。
「しょうがねえ。最後の手段だ……」
そこで俺は、成人の日の夜に相手を頼んだ村娘に、今度は結婚相手になってくれるよう頼むことにした。
――ただ、足が重い。
あの夜以来、顔を合わせるのがちょっと気まずくなってたんだ。
アイツとなら前と変わらずいられると思ってたのに……
「ええと……リリア」
俺は領地のはずれにある、悪ガキどものたまり場になっている狩人小屋へ足を運んだ。
ゴツゴツしてむさっくるしい連中ばかりだが、そんな中、凛とした少女が弓矢を手入れしながら、俺を睨んだ。
「アルト……」
ショートヘアーに勝ち気な目元。
袖の無い短衣に、ふんどしのような白布をキツく尻に締めている。
「……何か用?」
「いや、その。折り入ってお願いがあるんだけど……」
やっぱりスゲー切り出しにくいな。
……でも、言わないと。
こんなこと頼めるのはコイツくらいなんだ。
俺は頭をかきながら口を開いた。
「ええと、その、リリア……俺と結婚してくれ!」
「……えッ!?♡」
わっヤバ、みるみる顔が赤くなってる。
そりゃ怒るよな。
結婚相手になってくれなんて、いくらなんでも無茶な頼みごとだ……
「ア、アルト♡……本気で言っているの?」
うっ……嫌われたくない。
なんとか気まずくならないようにしねえと。
「い、いや、その……こんなこと頼んで悪いと思ってるよ。だから、別に俺のことを好きになれなんて無茶は言わない」
「え……?」
「今まで通りでいい。一緒に森を冒険してきた仲間として十分信用してるし。それに、ほら……俺とオマエなら、男友達みたいなもんだろ」
「ッ!!」
ふいに、リリアは肩をビクンと震わせた。
「ん? どうした?」
「……ひ、ヒドいわ」
潤んだ瞳でキッと俺を睨み、ショートヘアを揺らして背を向ける。
「お、おい……」
「もういいもん! べ、別にあたし……アンタのお嫁さんになりたいだなんて、思ってなかったんだからッ!」
リリアはふんどしの尻をぷりぷりと向けて出て行ってしまった。
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