第24話 エピローグ 怨霊幼女の秘密 その1
夜、仕事を終えた俺……というか俺のボディに取り憑いて会社で仕事をしてくれている鬼童丸のサダ……が帰って来た。
ニーナとゲツはまだ戻っていない。
「あれ? 玲子とコヤストロンさんもまだお出かけ中でっか? 」
そう言いながらサダは台所に歩いていく。
俺はこたつでくつろぎながら答える。
「玲子はコヤストロンさんに連れられて天国に昇って行ったよ」
「えぇー!! そ、そうなんでっか!? っちゅう事は両親の件は解決したって事っすか?」
「ああ……。二人の裁きも刑罰の執行も終わり、魂が浄化されたよ」
「はぁー、そりゃぁえかったわ〜! ほんなら玲子も無事に目的を果たせたって事で本望やったやろな〜」
サダは心底嬉しそうだ。
「うん、そうだね……
——ん?
え?
……玲子の目的って?」
俺はサダの方に目を向けた。
「せやから、両親を救うって目的ですがな」
「へ?」
「あ〜しかし怨霊作戦! ワテにしてはなかなかの妙案でしたでしょ?」
「お、怨霊作戦……? 何それ?」
「あ、あれ? 言いってまへんでしたか? ほれ、玲子が『両親が心配でまだこの世に居たい』みたいなコト言うから『そやったら、怨霊になっときー』って、アドバイスしてあげたんですがな」
「は……、はいーぃ!? ちょ、ちょっと待って。 ……玲子が怨霊になったのはサダがアドバイスしたからなの……?」
俺は思わず立ち上がっていた。
「ええ、そうでっせ。『そうでもせんと天使さんに連れて行かれるで〜』言うて……。まぁ〜、それもギッリギリで間に合ったんですけど。ハハハ……」
そう軽く笑いながらサダは自分の後頭部をポンポンと叩いた。
「は……はぁ!? そ、それが怨霊になった理由!? ——ってか、玲子が怨霊になる前から知り合いだったって事?」
「ハイ!」
「……い、いつから?」
「……えぇっと……あれは……、あぁ、あの日ですがな! 千造はんが死にはった日、あの夜! いや、まぁ正確には死神のニーナはんがこの部屋に来て、千造はんを仮死状態にして幽体離脱させた日でっけど……」
サダはちょっと不思議そうな顔で言った。
「あの夜……?」
俺もまだ困惑中だ。
「とにかく、あの日、わてはこの準備のために早めに現世に来てて、ちょっと街で遊んでからこのアパートに来たんでっけど。そしたら、この部屋のドアの前で玲子が立ち往生してましたんや。どうやら、千造はんについて来たんやけど、ニーナはんの結界のせいで中に入れず困っとったみたいで——」
「ちょちょちょ、ちょっと待って! そ、その話し、最初から最後まで詳しく教えてくれる?」
俺はサダの目の前まで迫っていた。
「はいはい、いいっすよ〜。……えぇっと、ほんなら、部屋の前で玲子と出会ったところから話しますね……。っていうか、わての記憶見せますわ。そのほうが早いし。シェア、言うんでっか……。ほら、どうぞ……」
サダは何か特別な動作をした訳では無かったが、彼の記憶の映像と声が俺の頭に流れ込んできた。
□□□ サダの記憶のシェア □□□
千造のアパートへサダが小走りでやって来た。
——アカン!
久々の娑婆でちょっと遊びすぎてしもたがな。死神ニーナはん、もう仕事終わってもたやろか?
そう思いながら千造の部屋の前まで行くと、そこでドアの前に座り込んでいる幼い少女に気がつく。
なんやこの子、迷い霊か? ドアにもたれて座り込んでしもて……。
「おい、どないしたんや? 大丈夫かいな?」
声をかけられて、少女がサダを見上げるも——ビックリして気絶した。
サダがパニクる!
「え? エ、エエーッ!? ちょ、ちょいちょいちょい……! な、なんで? ワイ、なんもしてへんで……」
あ!
そこでサダは自分が鬼の姿をしている事に気がついた。
「アカンアカン、違うんや! ワイはそういう悪い鬼とちごーて、ええ鬼さんなんやさかい……。……い、いや、そりゃ昔はなぁ、やんちゃやったから、ちいと悪い事して……。いや、悪い事ばーっかして神様にごっつうシバカレて……。いやいやいや、今そんな事どーでもエエネン!」
途方に暮れそうになったサダだったが本来の仕事を思い出し、とりあえず部屋の中を覗く。
すると千造の死体だけが部屋に残されている状態だと確認できた。
さすが死神ニーナはん。無事に千造はんを仮死状態にして霊魂を連れ去った後みたいやな。
「ほんなら丁度ええわ」
そう呟くと、サダは部屋に貼られた結界を少しいじり、少女が通れるように細工して彼女を中に運んだ。
そして、まずは千造の死体に取り憑いてみた。
取り憑きが上手くいったので立ち上がり、死体ボディと己の魂が馴染むようそこかしこを動かしてみる。
「ほぉ〜、やっぱ仕事がキッチリしてはるなぁ。 防腐処理も完璧やし、こりゃ動かしやすいわ……」
そう言いつつ改めて部屋の惨状に気がつく。
「つうか、何これ? 元からモノで溢れかえってるだけの部屋かと思っとったけど、そこかしこ壊れてボロボロになっとるやん。こりゃニーナはんもシャル子はんも、えらい派手に遊びはったみたいやな……。ってか、これの後始末すんのワイやがな! なんちゅー事してくれますのんや〜!」
……などと文句を垂れつつも少女を布団の上に寝かせ、壊れた内装などの修復作業に取り掛かった。
破損したモノなどはちょっとした魔法スキルで簡単に修復できる。
「まぁしかし、いくら結界を張って外部には影響ないから言うて、こりゃぁやり過ぎでっせ……」
ブツブツ言いつつも修復と散乱したモノの片付けが終わり、少女の横に座り込んだ。
丁度そこで少女が目覚める。
すると、さっきとは真逆の事が起こった。
少女はサダの姿……つまりサダに取り憑かれて動く千造の姿を見るなり、起きて駆け寄り満面の笑顔でその懐に飛び込んだのだ。
そして嬉しそうに千造の胸に顔を擦り付けてはしゃいでいる。
なんか複雑な気分やわ〜。
そう思いつつもサダは少女が落ち着くのを待った。
暫くして彼女が顔をあげたので色々と質問を始める。
「おまえ、名前は?」
「れいこ……」
「そうか、レイコ言うんか……。ほんで、おまえ、どうしてここに来たんや? 迷い霊か?」
「おじちゃん……ヤネのうえ……ワタシをみつけて……しんぱいしたの……」
この説明だけでサダにはピンと来た。
千造はん……やらかしはったな……。
知らん霊に情を見せたらアカンって親におせーてもらわんかったんかいな……?
「レイコ、おまえどこの子? 家がどことか何で死んだんかとか、憶えてる?」
玲子がコクっと頷く。
サダは暫く考えてから意を決したように玲子を持ち上げ、自分の前にちょこんと座らせて言った。
「レイコ、ビックリせんといてな。ゆっくりやるから、よう見とき」
そしてサダは正座し、ゆっくりと千造のボディの右側に離脱して、千造の頭を手で支えながら同じように正座し、自分の本当の姿を玲子に見せた。
鬼の姿を見た玲子がビックリしそうになるのを悟り、サダは直ぐに千造のボディに戻る。
この動作を何度も繰り返すと、玲子はようやくこのカラクリを理解し始めた。
「おじちゃんが……オニさんで……オニさんが……おじちゃん?」
「そうや! って……ホントはもっと複雑なんやけど……。これでどうや!?」
と言ってサダは千造のボディに入って自分を指差して「千造」と言い、次に鬼の上半身だけ横に出しつつ指差して「サダ」と言うのを何度か繰り返す。
玲子もほぼ理解したようで、ゲラゲラ笑いながら「千造!」「サダ!」と繰り返し呼び始めた。
「どや? もう、このサダ鬼さんの方でも怖ないか?」
玲子はコクっと頷いた。
「オッケー! ほしたら行こか!」
そう言って、サダは千造のボディを布団に寝かせると、玲子を抱っこしてアパートの外に飛び出す。
そして、玲子に案内してもらいながら玲子の家に向かった。




