あなたの知らない世界
さて、1月は早いが2月は更に早い。
1年の歪みを何でここに集めたのか、と思うくらい日数が少ない。
しかも、4年に一度日数が変わる。
何でここまで不遇なんだろう。私みたいだ・・・
「ナターシャさんもそろそろ丸3年ね。」
「未だに立場は一番下ですけど。」
「後輩がミチコさんだから、仕方ありませんね。」
「不遇な職場で最も不遇な立場が私です。」
「そう?伸び伸びやってると思うけど。」
「こうでもしてないとやってられないんです。」
ここでコールが鳴る。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「異世界で24時間霊体験してます、小椋町施といいます。」
「オグラ様ですね。ご用件をお伺いします。」
「早く人間になりたいです。そうすればいいでしょうか?」
「オグラ様はどういった生物をされているのですか?」
「霊です。」
「転生、されたのですよね。」
「多分・・・」
「神様には会いましたか?」
「はい。一度死んで次の世界に転生させてはもらったんです。でも、私が乗り移る身体が死産だったようで、そのまま魂だけが転生してしまいました。」
「事故ですね。」
「まあ、事故でしょうね。」
「ということは、それ以来霊として漂っている訳ですね。」
「はい。転生先の赤ん坊の姿のまま、宙に浮いています。」
私みたいな見た目だ。
「それで、24時間霊体験なのですね。」
「はい。前世で幽霊なんて信じてなかったんですけど、いましたね。」
「経験者の言葉は重みが違います。」
「それで、人間になりたいんですけど。」
「その世界では無理ですね。一回、成仏した方が手っ取り早いですよ。」
「この世界に仏様はいるのでしょうか?」
「昇天でもいいですよ。」
「どうすればいいんでしょう。」
「教会とか神社に行くとやってもらえると思います。」
「出来る人、本当にいるんでしょうか。」
「たまに本物はいますよ。」
「苦しくないですか?」
「あれは、この世に留まりたくて抵抗するから苦しいんです。なすがままにしていれば、そんなに苦しくは無いと思います。知りませんけど。」
「まあ、明日にでも教会に行ってみますよ。」
「でも、幽体もまた、楽しいものではないのですか?」
「結構暇ですよ。食事も睡眠も必要無いからいいと思われるでしょうが、その時間が必要ないということは、時間を持て余すんです。」
「勉強にもってこいですね。」
「ページがめくれませんけどね。」
「しかし、壁をすり抜けられます。」
「普段はもっと見晴らしの良い高い所を飛びますよ。道に迷わなくて済みますし。」
「お風呂場とか行かないんですか?」
「あまりに当たり前で、最早何とも思いませんね。」
「幽霊って、そういうものなのでしょうね。」
「彼ら、自分の興味の対象以外、無関心っぽいですよ。」
「お仲間は?」
「いやあ、幽霊やってる人って結構、付き合いづらい人ばかりですよ。性格も悪いし。」
「確かに、恨みや心残りが生きがいですものね。」
「だからといって、生きてる人は言葉どころか私を認識できる人がレアです。」
「友達、できませんね。」
「いやいや、幽霊と友達になってくれる人なんていませんよ。」
「話しかけてみればいいじゃないですか。」
「凄い顔されるんですよ。まるで、この世の者では無い物のように。」
「彼らからすればそうでしょうね。」
「さすがに凹みますよ。元は同じ人間なのに。」
「いいえ。今は明らかに違います。」
「そりゃそうですけど・・・」
「でも、誠心誠意接すれば、分かってくれる人もいるかも知れないですよ。」
「そんなことしてるくらいだったら、お祓いに行きますよ。」
「幽霊自ら・・・」
「言わないで下さいよ。」
「まあ、そのままでは生者と比較にならないくらい長い間、そこに留まることになりますからね。早めに成仏されることをお薦めします。」
「それは、神様から見てもそうなのですか?」
「はい。死者がそちらに霊体として留まることを、天界ではロストと呼びます。魂の供給が逼迫している現在、ロストをいかに出さないかが供給側の悩みです。」
「私は意図せずロストされちゃったんですけど。」
「まあ、成仏した時に担当者にその旨をお伝え下さい。そうすれば、怒られずに済みますよ。」
「そうなのですね。ありがとうございます。」
「それでは、オグラ様のご健勝をお祈りしております。」
「既に死んでますけどね。」
「そうでした。」
「では、失礼します。」
こうして電話は終わった。
「随分大らかなお化けさんでしたね。」
「朝は夜までグーグーグーって感じの方でした。」
「しかし、一度幽霊になってしまうと、そこから抜け出すのは大変ですからね。」
「恨みを晴らせば成仏できるのではないのですか?」
「そういう方もいますが、ほとんどの場合は成仏を失敗しますね。」
「テクニックが必要なのですか?」
「邪念や雑念があると昇天中に転落するのですよ。」
「ああ、純粋な方でないとダメなんですね。」
「そして、関係無い人たちに厄災をばらまき続けるようになるんです。」
「霊媒師の案件になるんですね。」
「そして、ほぼ問答無用で地獄行きです。」
「成仏って、天国に行くから仏って字を充てるのではないのです?」
「魂が審判を受けるのは生前の行いだけじゃないのよ。」
「思ったより過酷な世界でした。」
「天界の住人たちは知らない世界です。」
幽霊って、なった時点で不遇確定なんだなあと思った。




