真実の愛を見つけた男
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私、異世界貴族をやっています。ジャン=ポール・ベランジェといいます。」
「ジャン=ポール様ですね。ご用件をお伺いします。」
「私、前世と合わせて人生50年にして初めて真実の愛を見つけたのです。」
「転生者が見つけられない物No1ですね。おめでとうございます。」
「なのに、相手から離婚届を突きつけられてしまいました。どうしましょう。」
うん?
「それは、真実の愛では無かったからではありませんか?」
「いいえ。こんなに心が揺さぶられたのは生まれて、いいえ、2度生まれて初めてなんです。これがまがい物であるはずないです。」
「片想いは真実の愛でしょうか?」
「もちろん、届かぬ愛もあると思います。」
「なら、お相手が離縁したいと言うのを認めてあげるのも、真実の愛ですね。」
「でも、まだ諦めるには早いと思うんです。」
「では、今の状況をお伺いします。離縁と言うことは、奥さんがお相手なのですね。」
「そうです。結婚して丸3年です。相手は政敵の伯爵家のご令嬢で、同い年です。」
「敢えて敵方のご令嬢を迎えたのは、何故ですか?」
「100%政治的理由で、そこに愛はありませんでした。ですから、最初は彼女と白い結婚を続け、敵方の切り崩しを画策したんです。」
「その間、彼女はどのような生活をされていたのですか?」
「・・・」
「冷遇されていた訳ですね。」
「はい。」
「それが、どうして彼女の中から真実の愛を見つけてしまったのでしょう。」
「はい。最初に冷遇したのは、宿敵の血を引く人間に対する怒りだったのですが、彼女は不平一つ漏らさずそれに耐え、ここぞという場面では公爵夫人としての役目を充分に果たしてくれました。だから、彼女の身辺調査をし、彼女のこれまでの生い立ちを知った時、とても感銘を受け、同時に、自らの行いを深く恥じたのです。」
「それで、彼女の待遇を変える努力はしたのですか?」
「そのつもりで準備していたのですが、彼女に先を越され、離婚届を渡されてしまったんです。」
「つかぬことをお伺いしますが、奥さんの名は?」
「カロリーヌです。」
やっぱり・・・
「悪い事はいいません。すぐにサインし、彼女を解放してあげて下さい。」
「いや、それはしたくないんです。チャンスがあればやり直したい。」
「いいえ。お客様は一度、ゴミ箱に入ってしまったので既にノーチャンスです。その時代で女性が離婚届を出すことの意味は分かってますよね。」
「確かに、これから先、大変だとは思いますが。」
「死んだ方がマシ、という意味ですよ。特に、貴族の女性にとっては、死ななかったとしても実質的には死と同義ですね。しかし、そうであっても離縁したいと思ってるのですよ。」
「死ぬくらいなら、私が・・・」
「本当に真実の愛を見つけてしまったようですね。しかし、あなたのそれは、彼女にとっては道端のうんこ以下です。」
「いや、こう見えて実は優しいイケメンです。」
「その優しいイケメンが奥さんに3年間、辛い境遇を強いたのですよね。」
「これから全力で取り戻します。」
「奥さんは今、歳はいくつですか?」
「21のはずです。」
「女性の最も輝いている3年間を無為に過ごさせましたね。世のまともな男性が積み重ねた3年に、マイナス方向へ穴を掘り続けていたあなたが今から追いつけるとでも?」
「それ以上になります。」
「最初からそうしていれば、きっと上手くいったでしょうが、本当に素晴らしい人は、如何なる相手をも人として尊重するものですよ。」
「今までの私が未熟だったことは認めます。」
「では、次の方には間違わないようにしてください。今の奥さんには、せめて見苦しくない別れをして上げて下さい。」
「いいえ。私は最後まで諦めず、貫きますよ。」
「最初に貫かなかった人が言う言葉ではないですよ。」
「いいえ、私の熱量を伝えたいと思います。でも、どうして私の事をそんなに否定するのですか?」
「私も女だからです。」
まあ、彼女は元男性だけど。
「でも、間違いを認めてやり直す機会があってもいいじゃないですか。」
「そうですね。それを彼女が拒絶した時に、彼女をちゃんと解放してあげられるのであれば。」
「いや、必ず。」
「届かないですよ。まあ、あなたのちんけな愛が上手く昇華されることをお祈りしております。」
そのまま受話器を置いた。
「まあまあナターシャさん。あれでもお客様なのですから。」
「私は大丈夫ボットでしたが。」
「それでもですよ。特に、どちらかに肩入れしてはなりません。」
「本音は?」
「道端の汚物様ですわ。」
「真実の愛を見つけてしまう程度ですからね。」
「でも、お互いが転生者であることを知っていれば、最初が違ったかも知れませんね。」
「今知れば逆効果です。」
「そうですね。21世紀感覚を知っていながら3年間イジメ行為を続けた男ですものね。」
「ほら、やっぱり肩入れしなくても良かったじゃないですか。」
「でも、私たちはお客様のお困り事を解決する仕事ですからね。」
「善処を試みる努力はしてみたいと思います。」
「まあ、随分弱音だこと・・・」
やはり、私には向いてないと思う。




