目指せ!悪役令嬢
「あ~あ~あ~。」
「ミチコ、いきなり何やってんのよ。」
「あーし、歌は苦手なんだよね。」
「まあ、あに濁点が付いてるうちは、歌なんて披露しない方がいいわよ。バイクのマフラーみたいだし。」
「センパイも結構キツいっすよね。」
「養鶏場舐めんなって感じね。」
そこで電話が鳴る。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「もしもし。私、ケイト・マックスウェルと申します。」
「ケイト様ですね。何かお困り事でもございましたか?」
「はい。モブから脱却できる方法を教えていただきたいと思いまして。」
確かに、ストーリーによっては死活問題だ。
「では、現在の状況をお教え願えますか。」
「はい。私は中世ファンタジーの世界で侯爵令嬢をやっております。所謂、悪役令嬢です。」
「悪役令嬢なら、主要キャストの一人ですよね。」
「そのはずなのですが、私の世界にはそういった令嬢が大変多くて、私の存在がモブ並に埋没しているのです。」
「悪役令嬢なんて好き好んでやるものではありませんから、別に無理しなくても良いのではありませんか。」
「でも、私は皇太子の婚約者ですので、将来はざまぁされるに決まっています。どうせ、惨めな最後を迎えるのであれば、せめて今だけは輝いていたいのです。」
「いいえ。一刻も早く婚約を解消して、次のステップに踏み出す方がよほど有意義ですよ。」
「それも考えてみましたが、悪役令嬢の役をもらってすら埋没するのに、そうで無くなった私なんて、存在しないのと同じです。」
目立てばいいという訳でもないでしょうに。
「では、ケイト様は具体的に、どのような悪役活動をされて来たのですか?」
「はい。ヒロイン役の平民女性にちょっとだけ大きな声を出してみたり、二人で取り囲んでみたり、階段の最後の段で背中を押してみたりしました。」
「確かに、それでは相手にダメージを与えることはできませんね。」
「でも、痛いのと怖いのは嫌ですから。」
「根本的にミスキャストですね。他のご令嬢はどのような活動をされているのですか?」
「はい。隣の女子校の話ですが、数十人でボコしたり、毎日誰かが毒を盛られたり、昨日はご令嬢がお二方、命を落とされたようです。」
「随分バイオレンスな世界ですね。確かにその中ではモブ化してしまうのも納得です。」
「殿方も結構ヤンチャな方が多くて、20mに一件は喧嘩が起きています。」
「まるで戦場ですね。」
「はい。もう、どうしていいのか分からなくて。」
「恐らく、今のままなら断罪なんかされませんね。公爵令嬢が平民の女子を階段の1段目から突き落としたところで、何ら罪には問われないでしょう。」
「毒なんて、とても無理です。」
「激マズドリンクとかワサビ盛りとかでいいんじゃないですか?」
「この世界では子供のイタズラと認識されています。レディがそれをやるのは大変みみっちいと思われてしまいます。」
「そうですか。しかし、そのようなはしたないことを一切しないご令嬢もいるのでしょう?」
「はい。陰キャと呼ばれはしますが・・・」
とんでもない世界だ・・・
「でも、ヒロインはそのようなことをしないのでしょう?」
「はい。ヒロインですから。」
「では、ケイト様も悪事を働く必要はありませんよ。」
「でも、他のご令嬢方の手前もありますし、侮られるとそれはそれで辛いものですから。」
「そうですか。では、まずは見た目を魔改造することをお薦めします。メイクと衣装から入るのです。」
「いつも黒のドレスですが。」
「では、黒と赤をふんだんに使って下さい。まぶたは赤か青で。」
「はい。」
「声は低く。早口で喋るのはNGです。」
「分かりました。」
「そして、悪事は自分で手を下さず、下級貴族の令嬢にやらせるのです。」
「何だか、悪役っぽくなってきました。」
「こうすれば、口数は多くなくても大丈夫ですし、派手な騒ぎも起こせるでしょう。」
「はい。それで、全体的な雰囲気はどのようにすればよろしいですか。」
「デレの無い純粋なツンです。これしかありません。」
「あの~、勘違いしないでよね、とか言うのでしょうか。」
「そのような長台詞は禁句です。一行以内で終わらせること。」
「分かりました。」
「そう、その調子ですよ。」
「でも、これでモブを脱却できるのでしょうか。」
「千里の道も一歩から。今日があなたの悪役人生のスタートです。どうせなら、婚約を破棄される前にこちらから皇太子を捨ててしまいなさい。」
「た、確かにそうですね。」
「はい。悪女になるなら、それを極めよ、です。さすがに皇子を躊躇無く切り捨てたあなたが、モブ扱いされることはありません。」
「分かりました。頑張ります。ありがとうございました。」
こうして電話は終わった。
「センパ~イ。まだまだ甘いねえ。やんなら徹底的にやんなきゃダメだよ~。」
「何言ってるの。彼女にあれ以上のことができる訳ないじゃない。」
「でもさあ、他人の男を取ろうとしてるク○女と尻の軽いク○皇子な訳じゃん。どのライターも手緩いからこういう話が後を絶たないんだよ。」
「いや、人気があるからだと思うよ。」
「ちげえよ。徹底的に相手を痛めつけて胸糞展開にしちまえば、こんなもんすぐに廃れるじゃん。」
「まあ、新しく生まれる世界は減るだろうけど、すでに量産されてるのよ。」
「簡単じゃん。悪役が全部スプラッターしちゃえばいいんだよ。」
「アンタが悪役令嬢役じゃなくて、本当に良かったと思うよ。」
いや、見た目はとても天使に見えないけど。
「それはそうと、せめて肩パッドは外しなさい。ここじゃあ必要ないでしょ。」
「このトゲがオシャレポイントなんだけど。やっぱりセンパイには分かんねえか~。」
赤ん坊で悪かったな!
もしかして、私も舐められないようにイメチェンするべきかなあ・・・




