第67話 夢中になると、周りの声って聞こえなくなるよね
五戦目
またまた負け。
今回はノーシャの動きを注視してみたが、僕の視力及び頭脳ではノーシャが何かをしていることを感じ取れても、具体的に何をしているかを説明するほどには僕の目と頭はできが良くないようだ。
なにかをしているんだろうな、ということは感じる。
「やっぱりなにかしているんじゃないか?」
「なんのことですか」
「とぼけないでちょうだい、あなた、イカサマしてるわね」
やはりアムエルも気がついていたか。
それどころか、彼女はノーシャが何をしているかをしっかり理解したようだ。
それに対してノーシャは澄ました顔で言う。
「いえ、イカサマなどしてませんが?私がしているのは、筋肉の動きをみて、出る手を予測しているだけですが?」
「やっぱりイカサマしてるじゃない!」
「いーえ!実力ですう」
「こんなの!ノーカンだ!ノーカン!」
「ノーカン!ノーカン!ノーカン!」
「ノーカン!ノーカン!ノーカン!」
「ええい!うるさいですよ!自分の力を使うべきところで使って何が悪いんですか!ほら!負けたんですからさっさと脱いでください!」
「拒否する!」
「なら!力づくで!」
「おい!お前護衛だろ!」
「女として、ここは引けません!」
ノーシャが僕に飛び掛かる。
「やらせはしないわ!」
アムエルが瞬時に僕とノーシャの間に入り、ノーシャに対してジャブを放つ。
「ぬん!」
それをノーシャは空中でひらりとかわす。
君ほんとに体操始めるべきだと思うよ。
すると部屋のドアがいきなり開かれた。
「おーい、君たち、夕ご飯が出来た・・・・・・よ?」
「え」
「え」
「あ」
部屋に流れる気まずい空気。
「いや、ノックはしたんだけどね、すごく盛り上がってるみたいだったから・・・・・・その、まぁ、よその家族の交流になにか言うつもりはないんだけれど…うん、なにも言わないでおくね」
そう言って先輩は、いつも通りのまぶしい笑顔で、しかしどこか慈愛を含んだ表情で微笑んだ。
「とりあえず、夕ご飯の支度ができたから、案内するよ」
「あ、あああ、い、今行きます」
「いや、まってまって、服着て服」
「あああ、ああ」
そうだった、今の僕は肌着一枚、パンツ一枚だった。
シャツが残っていてよかった。
パンツ一枚は流石に恥ずかしい。
僕は見せつけるタイプのセクハラがしたいわけではないのだ。
「せ、先輩…」
そう言ってアムエルは、先輩に話しかけるが、何を言えばよいのかわからないようで、先輩の前で口をパクパクさせている。
同じ組織の先輩後輩、こんな場面を見られてしまったら、気まずくなってしまうのもうなずける。
「アムエル、まぁ、そうだね。だ、大丈夫さ!ボクはこれしきの事で君の評価や対応を変えることはないと約束するよ!」
「……お気遣いありがとうございます」
プルプル震えている。まるで先ほどの鷹のように獲物を刺し殺してしまうような眼光が嘘のようだ。
「わかりますよ、こういうのって変にフォローされるのが一番効きますよね」
ノーシャがのんきにそんなことを言っている。
正直、こいつは特に何もしていないが、この状況でこの台詞は普通に腹立つね。
デコピンしてやろ。
「えい」
「あたっ!なんですか!?」
「なんとなくだ」
「ほら、あなたたち、はやく準備しなさい」
アムエルにせかされてしまった。立ち直りが早い。いいことだ。
人間、この切り替えというのが非常に大事なのだ。
そうして準備しようと、していると、
アムエルがノーシャに近づき、デコピンをした。
「いたっ!な、なんですか!?」
「なんとなくよ」
前言撤回、人間というのはそうすぐには切り替えできないものだ。




